第29話

「ごめんね、蒼汰」


 陽愛はお義母さんを部屋から追い出した後、ベッドに再び座った。

 

「俺は別に良かったのに」

「私が嫌なの!」


 まぁ、陽愛が嫌だと言うなら仕方ないか。

 それにしても陽愛のお義母さんはなんか子供っぽいというか、子供心が残っているというか。やっぱり陽愛のお義母さんなんだなと思う。

 そう思っていると、再び部屋のドアが開いた。


「ちょ、ちょっとお母さん! なんでまた入って来るの⁉」

「ち、違うわよ。お風呂沸いてるから入りなさいよって言いに来ただけよ」

「そ、そうなんだ。分かった、入って来るね」

「なんなら蒼汰くんと二人で入っても良いのよ?」

「も~! 出てって!」


 陽愛がそう言うと、お義母さんは渋々部屋のドアを閉めて出て行った。

 なんか可哀想になってきたな……


「どっちからお風呂入る? 私はどっちでも良いけど」

「陽愛が先に入ってきなよ。疲れてるだろ?」


 今日は夏祭りで結構歩いたし疲れているだろう。勿論俺も疲れてはいるが、陽愛の方が疲れているはずだ


「良いの? 蒼汰も疲れてるのに」

「俺は良いから」

「そっか、ありがとう。じゃあ入って来るね。あ、覗いたら怒るから!」

「覗かないに決まってるだろ⁉」


 覗いてみたいかみたくないかと言われれば勿論覗いてみたい。

 

「じゃあ、待っててね」


 陽愛はそう言って部屋を出て行った。


「…………さて、何しようかな」


 ここは俺の部屋じゃないし勝手に何かするわけにもいかない。

 俺が使えるのはスマホくらいだ。

 

「ん? 斗真から」


 気づいていなかったが、斗真から一通のメッセージがあった。


『今日の夏祭りはどうだったんだ? 上手くいったか?』


 送られてきた時刻を確認すると、丁度花火が打ち上げ終えた時間帯だ。

 斗真も花火を見ていたのか。


「多分……上手くいったんじゃないか? てかそう信じたい」

  

 陽愛を驚かせてしまったのは本当に申し訳ないと思っている。

 でも好奇心が勝ってしまった。

 数分すると、斗真から返信がきた。


『まぁ、上手くいかなくても次頑張れよ! それと、あの場所花火良く見えるだろ?』

「あの場所? なんで斗真が知ってるんだよ」

『陽愛ちゃんと二人っきりになれただろ? あの場所陽愛ちゃんに教えたの俺だし』


 陽愛と二人で花火が見れた事を知っている時点で、あの場所を陽愛に教えたのは本当だろう。もしくは今日の俺達の後を付けてきたかのどちらかだけど、斗真に限ってそんなことはしない。

 

「なんで斗真があんな場所知ってるんだよ」

『それは内緒だ』

「まぁ、斗真が言いたくないなら強要はしないけど。ありがとうな」

『あんな場所を用意してやったんだ。勿論ちゃんと告白してきたよな?』

「は?」

『まさかしてないのか?』

「してない、けど……」

『お前本当な……陽愛ちゃんの事分かってないのな』

「わ、分かってるよ! 少なくとも斗真よりは」

『それはどうかなぁ~。まぁ、早く告白しろよ』


 もう既にされてるんだよ……

 陽愛が風呂に入りに行って数十分が経った。

 俺が陽愛から送られてきた夏祭りの写真を見返していると、部屋のドアがゆっくりと開いた。


「そ、蒼汰。次良いよ」


 陽愛はドライヤーを握りながら風呂から帰って来た。

 まだ少し髪が濡れているから部屋で乾かすのだろう。

 それよりも陽愛の寝間着姿が想像以上に可愛い。

 可愛らしいピンク色の寝間着は陽愛にピッタリだ。


「あ、ああ。分かった。ありがとう」


 俺はそう言って風呂へ向かった。

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