第23話

「なんでバレてるって思ったんだ?」


 陽愛は確かに多分バレていると言った。

 

「だって、優花ちゃんに言っちゃったから」

「言った? 何を言ったんだ?」

「彼氏と夏祭りに行くって……言っちゃったから」


 陽愛は続けてごめんなさいと頭を下げた。

 

「別に良いよ。頭なんて下げなくても良いから」


 こんな人が沢山いるなら知り合いや同級生の一人や二人いてもなんらおかしくない。二人で夏祭りに来ることになってからバレることは覚悟していた。

 勿論バレないに越したことはないから誤魔化せるだけ誤魔化しはするけど。


「本当にごめんなさい」

「だからもう良いよ。もうバレたんだから仕方ないよ。ほら、せっかくの夏祭りなんだから楽しんでよ」


 せっかく夏祭りに二人で来れたのに、陽愛の悲しんでいる顔なんて見たくない。

 

「そ、蒼汰がそう言うなら……」

「うん。でも陽愛が誰かに言うなんて珍しいね」

「だ、だって……蒼汰と夏祭り行けるのが嬉しかったから……」

 

 そんな事を恥ずかしそうに言われても……恥ずかしいのはこっちなのに…………


「い、行こ!」


 今度は陽愛の方がこの空気に耐えられなくなったのか、俺の手を引っ張って歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ陽愛。どこに行くんだよ」


 陽愛の事だ、次にどこの屋台に行くかなんて考えてるはずがない。ただひたすら適当に歩いてるだけだ。

 そんなことされたら場所が分からなくなる。

 陽愛は俺が待ってと言ってからゆっくりと歩くのを辞めた。

 そして俺の胸に頭をうずめた。


「ねぇ、蒼汰。やっぱり内緒にするのやめよ?」


 陽愛から言われた提案に、俺は頷いても良いのか?

 陽愛と俺が付き合っていることを内緒にしている理由は、俺が学校で一番可愛い陽愛と付き合っていると知られたら今よりも嫉妬の目で見られることが多くなることだ。

 俺は耐えることができると思う。けれど陽愛は? 陽愛と初めて二人っきりで昼休みに昼食を取った時に、俺は陽愛のこの関係を内緒にしようと言った。しっかり理由も言った。 

 その時に陽愛はこういった『そ、そっか。私のせいで蒼汰を傷つけていたらどうしようかと思った』と。

 優しい陽愛の事だ、俺がどんなに嫉妬の目で見られているのが平気だったとしても、心配してくれるに決まってる。陽愛に心配かけるのは悲しませる次にしたくない事だ。


「蒼汰が嫉妬の目で見られちゃって嫌な気持ちになるのは嫌だ。けど、周りからただの幼馴染だって思われるのは嫌だ。それに、もう告白を振るのは嫌だよ」

「………………………………」


 俺はまだ無言で陽愛を見つめる。

 俺も陽愛と付き合い始めて、陽愛の彼氏だって胸を張って言いたいと思い始めてきた。

 それに、陽愛はモテる。間違いなく学校で一番モテる。だから陽愛が告白されるなんて日常茶飯事みたいなもんだ。

 けど俺が陽愛と付き合っていることを内緒にしているせいで、陽愛に告白して振られる人が今後も出てくる。

 俺は実際に告白して振られたことが無いから言い切れないけど、陽愛に告白して振られたらどんな気持ちになるのかは想像すれば分かる。

 陽愛も、告白されて振ることが辛いのだろう。

 陽愛は俺に告白してくれたから、告白する側の気持ちがよく分かるんだと思う。

 俺だって分かる。告白するのにどれだけの勇気が必要なのか。俺はその勇気がなかったから告白ができなかった。

 

「分かった」


 だから俺の答えはこうだ。

 これで陽愛と俺の秘密の恋人関係も終わりになる。


「ごめんね、こんな時に我儘言っちゃって」

「良いよ。それよりも屋台周ろうよ。時間ももう少ししかなくなっちゃってるし」

「う、うん!」

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