第22話

「蒼汰、蒼汰! もっと寄って!」

「こ、こう?」


 俺は陽愛からそう言われ、もっと陽愛に寄った。

 陽愛の腕と俺の腕がくっ付く。

 そして陽愛はスマホのカメラのシャッターボタンを押した。

 

「えへへ、スマホのロック画面にしちゃお~」


 そう言って陽愛はスマホを操作し始めた。

 さっき撮った写真をスマホのロック画面にされるなんて恥ずかしすぎるんだけど……


「それじゃあ食べようか!」


 陽愛はそう言ってスマホをしまった。


「ん~、美味しい!」


 陽愛はクレープを一口食べると、幸せそうな表情で頬に手を当てながらそう言った。

 本当に幸せそうだ。

 俺も一口クレープを食べる。

 

「美味い」


 久しぶりに食べるクレープは凄く美味しい。

 陽愛がこんな表情をするのも頷ける。


「ね! 凄く美味しい! 次はどの屋台見る!?」

「陽愛の行きたい場所に行くよ」

「え~、どうしようかなぁ~」


 陽愛はクレープを食べながら考える。

 一年に一度の夏祭りなのだから陽愛の行きたい場所はなるべく行きたい。


「…………陽愛ちゃん?」


 後ろの方から陽愛の名前を呼ぶ声がし、俺と陽愛は振り返った。


「やっぱり陽愛ちゃんだー」


 陽愛の事を読んだ少女は笑顔でこちらへ向かってくる。

 見たことのない子だ。同じ学校の子か?


優花ゆうかちゃん?」

「うん! そうだよ、優花だよ。それに、蒼汰くんだよね?」

「そ、そうだけど……なんで俺の名前知ってるの?」


 俺はこの子にはあったことがない。なのに何で俺の名前を知っているんだ?


「なんでって言われても、蒼汰くん学校では結構有名じゃん」

「俺が? 有名人?」

「あ、蒼汰くんは私の事は知らないよね。私はC組の花崎優花はなさき ゆうか。陽愛ちゃんのお友達」

「そうだったんだ。そ、それよりも俺が有名って、何で?」


 俺はイケメンでもないただの凡人だ。


「だって学校で一番可愛い陽愛ちゃんの幼馴染となればそりゃー有名になりますよ」

「あ、成程ね」


 さっきまで意味が分からなかったが、花崎さんの言葉で俺は全てを理解した。

 確かに陽愛と幼馴染だから話題にされることは結構あるから知っている人は多いか。


「ゆ、優花ちゃん。だから私学校で一番可愛くなんてないよ」

「またそうやって照れて~。陽愛ちゃんよりも可愛い子なんて居ないでしょ? ね、蒼汰くん」

「え? う、うん……居ないんじゃ、ないかな……?」

「そ、蒼汰まで!」

「まぁ、そういうことだよ陽愛ちゃん。それより二人は付き合ってるの?」

「え? 何でそんなこと聞くの?」

「だって夏祭りに二人っきりで仲良さそうにしていればだれでも付き合ってるのかと思うよ」


 どうしよう。素直に付き合ってると認めるべきか? でも俺から言っても良いのか?

 これは二人の問題なのだから俺が勝手にバラすわけにはいかない。


「まぁ、陽愛ちゃんと蒼汰くんなら幼馴染だからか。ごめんね、変な事聞いて」

「い、いや……別に良いよ」

「ラッキーだね、蒼汰くん。陽愛ちゃんと夏祭りに来れるなんて幼馴染の特権だよ? またね、お二人とも」


 そう言って花崎さんは去って行った。

 俺はほっと胸を撫でおろす。


「バレなくて良かったね」


 俺がそう陽愛に言うと、陽愛は首を横に振った。


「バレてる……多分バレてるよ」

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