第21話
「やっぱり現地はもっと人が沢山いるねぇ~」
夏祭りの会場に着くと、当たり前だが駅前の何十倍もの人が屋台を周って楽しんでいる。
陽愛はずらりと並ぶ屋台を見て目を光らせる。
「ねぇ、ねぇ。蒼汰! どの屋台から周る!?」
陽愛は俺の浴衣の裾を引っ張りながら屋台の方を指さす。
無邪気にはしゃぐ陽愛は昔と変わっていない。
小さな頃に陽愛と来た時も、陽愛はテンションが上がりはしゃいで迷子になった。
幸いにも、誘拐などそういった犯罪には巻き込まれずに、優しい老人が保護してくれていた。
「ちょっと待って」
俺は屋台に向って歩き出そうとする陽愛の手を掴んだ。
陽愛は女子高校生だ。こんな沢山人が集まる場所に一人で居させるなんてことは絶対にできない。陽愛の可愛さならナンパされてもなんらおかしい事じゃない。
「迷子になったら困るから、あんまり手離さないで」
俺は掴んだ陽愛の手をしっかりと握った。
「ご、ごめんね。蒼汰と夏祭りこれたのが嬉しくて、ついテンション上がっちゃった」
陽愛は恥ずかしそうにしながら俺と手を繋いだまま歩き出す。
花火が打ち上がるまではまだ一時間近くある。屋台を見て回りには十分な時間はある。
「最初はどこに行く!? りんご飴? 綿菓子? それともクレープ!?」
陽愛はさっき冷静さを取り戻したと思ったら、直ぐにまた冷静さを無くした。
そんな陽愛も可愛いと思ってしまう。
陽愛があげた中で一番近くにあるのはクレープだった。他の屋台と比べればそこまで陽とも並んでいなかったのでまずはそこに行くことにした。
「私クレープ食べるの久しぶり! 蒼汰は?」
「俺も久しぶりだな。そもそも外に出かける機会なんてそんな無いし」
「蒼汰はもっと外に出ようよ。家が好きなのは昔から知ってるけど、お出かけするの楽しいよ?」
確かに、陽愛と一緒に出掛ければどんな場所に出掛けても楽しく過ごせる自信がある。
陽愛と一緒だと、普段一人だったら絶対にしない事もできるしな。この前だってショッピングモールに出掛けた時に入ったお洒落なカフェ。一人だととても入れる勇気はない。映画も同じだ。
陽愛一緒だったから色々な事が出来た。
「確かにな。この前陽愛と一緒に行ったショッピングモールも楽しかったし」
やはり一人で行くのと誰かと行くのでは全然違う。
その誰かが彼女ならなおさら楽しいと思える。
そんな事を話していると順番が周って来た。
「じゃあ私はこれでお願いします」
陽愛は置かれたメニュー表に指を置いてそう言った。
陽愛が指さしたクレープの横には一番人気と書かれていたので、俺も同じものを頼んだ。
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