第24話

「はい、蒼汰。あーん」


 そう言って陽愛は手で千切った綿菓子を俺の口元へと持ってきた。

 

「どう? 美味しいでしょ?」

「うん。美味しい」


 綿菓子を食べるのも夏祭りに来た時くらいだからな、なんだか懐かしい。

 色々な事もあって時間気になりスマホを確認すると、花火の打ち上げまでは残り十分ちょっとだった。

 そろそろ人が集まる前に花火が良く見られる場所に移動しないといけない。

 花火の打ち上げが終わっても直ぐに屋台が閉まるわけじゃない。まだ行きたい場所があるなら終わってからでも大丈夫だろう。


「陽愛、そろそろ行かないと時間が」

「もうそんな時間なんだ。ごめんね、私がさっき――」

「それはもう良いよ。俺が陽愛に辛い思いさせてたのが悪いんだし」

「そ、そんなことないよ。蒼汰は何も悪くない。私のただの我儘だから。ほら、行こ」


 陽愛は俺の腕を掴んで歩き出した。

 ――――だけど、俺が行こうとしている場所とは違う方向へ歩き出した。

 

「お、おい。道間違えてない?」

「間違えてないよ。一番花火がよく見える場所に行くんでしょ?」


 陽愛は俺の手を握ったまま歩き続ける。

 歩くにつれて人の数は減っていき、陽愛と俺の歩く足が止まるころには周りには誰一人として人は居なくなっていた。夏祭り会場からは五分ちょっとで着いた。

 目の前には綺麗な川が流れており、南の方には俺達がさっきまで居た夏祭り会場の明かりが見える。

 

「ね、花火が一番よく見える場所でしょ?」


 確かにここからなら花火は問題なく見える。

 夏祭り会場に比べれば人は少ない。いや、俺と陽愛以外は見当たらない。

 

「何でこんな所知ってるんだ?」


 陽愛からこんな所があるなんて一言も聞いていなかった。

 

「秘密だよー。ねぇ、それよりも座ろうよ」


 陽愛はアスファルトの地面に座り、隣に手おいてそう言った。

 俺は陽愛に言われた通り、隣に座り川の――花火が打ち上がる方向へと向いた。


「あとどれくらい?」

「あと四分だね」


 遂に花火の打ち上げまで残り四分になった。

 陽愛と今日夏祭りに行く約束を交わしてから、この時をどれだけ待ち望んだことだろう。

 それも陽愛のおかげで周りには誰も居ない。二人っきりだ。

 こんな嬉しいことはない。

 

「ねぇ、蒼汰」

「何?」


 俺は陽愛の方を向いているが、陽愛は花火が打ち上がる方向を見たまま俺の方を向かない。

 

「ありがとね。私と付き合ってくれて。あの時、私の告白を受け入れてくれてありがとう」

「な、なんだよ急に。俺だって陽愛の事好きだったんだし、告白する勇気がなかったから中々陽愛に告白できなかった。だから告白してくれた陽愛には凄く感謝しているんだ。もし陽愛が告白してくれなかったら、俺は多分未だに勇気が出ないまま陽愛に告白できずに陽愛と付き合えてなかった。恋人になれていなかったと思うし」


 俺がそう言い終えると、陽愛はクスクスと笑い始めた。


「も~、蒼汰必死すぎ。ただ伝えたくなっただけだから」

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