第19話

「これで良し!」


 夏祭り当日。私はレンタルした綺麗な薄ピンク色の浴衣をお母さんに着せてもらっている。

 今まではすみれ色の浴衣しか着たことが無かったから少し新鮮な気持ちがする。

 

「うん! 可愛い!」


 お母さんは私の肩に手を置いてそう言った。


「か、可愛いって……」


 正直浴衣姿を可愛いと言われて物凄く嬉しい。それがたとえお母さんが言ったお世辞だったとしても。


「でもどうしてこの色なの? 菫色の浴衣お気に入りだって言ってたじゃない」


 確かに私は昔から菫色が大好きだ。だから浴衣を買ってもらう時にも菫色の浴衣を選んだ。

 でも、今日着ていく浴衣の色は薄ピンク色。決して菫色が嫌いになったわけじゃないし、初めて買ってもらった浴衣は今も気に入ってる。


「内緒」

 

 私は人差し指を口元へと持っていきそう言った。


「何~、教えてよ~。まぁどうせ蒼汰くんが関わってるんだろうけど」

「なっ!」

「本当に陽愛って分かりやすいよね~」

 

 お母さんは私を揶揄うようにして笑った。

 そんなお母さんに対して、私は頬を膨らませて「もう!」と怒る。


「ごめん、ごめん。それよりも時間は大丈夫?」


 お母さんに時間を指摘され、私は壁に掛けられている時計に目を配る。


「あっ! もう時間ない!」


 蒼汰と約束している集合時間まで残り十分しかない。

 幸い、ここから集合場所の駅まではそこまで遠くはないので急いで行けば間に合うだろう。

 私は「ごめん、もう行かないと!」って言って飛び出した。


「あっ! ちょっと待ちなさい陽愛」

 

 お母さんは急ぐ私の手を掴んで止めた。

 

「な、何? 本当に遅れちゃうよ」

「でもほら、髪ちゃんとしないと」


 そう言ってお母さんは私の髪を整えて、ピンク色の花の形をした髪飾りを付けてくれた。

 私は持っている手鏡で確認する。

 私にはもったいないくらい可愛い髪飾り。綺麗でこの浴衣にも似合っている。


「これで蒼汰くんもイチコロねっ! 楽しんできなさいね。お父さんには夏祭りの事言っておくから、夜遅く帰って来ても良いからね。でも危険な事はしちゃダメよ? 待ってるからね」


 そう言ってお母さんは笑顔で私に手を振ってくれた。


「髪飾りありがとう。言ってくるね、お母さん」


 私はそう言ってお母さんに手を振り返した。

 そして、もう一度蒼汰との待ち合わせの場所へと向かって歩き出す。

 駅の近くに行くにつれ、浴衣を着たカップルや子連れ親子が沢山いる。

 

「そ、蒼汰はどこ」


 駅について周りを見渡す。

 もしかしてまだ着ていないのかな? そう思った時、ベンチから立ち上がろうとしている蒼汰の姿を見つけた。

 蒼汰を呼ぼうと口を開いたが、直ぐに口を閉じた。

 少し不安だった。蒼汰は私の浴衣姿を見て可愛いって思ってくれるのか。でもお母さんも可愛いって言ってくれたんだもん。大丈夫だよね。


「やっほー、蒼汰」

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