第18話

 夏祭り当日。

 事前に陽愛と決めていた集合場所の駅に十分前に着いた俺は、陽愛が既に来ていないか周りを見渡す。

 幸い、まだ駅に陽愛の姿は見当たらない。

 俺よりも先についていて待たせていたら陽愛に申し訳ないし、陽愛を一人にすると危険だからな。

 夏祭りという事もあってか、駅には綺麗な浴衣を着ているカップルらしき人達が沢山いる。

 やはり夏祭りには沢山の人が向かうんだな。

 陽愛との約束の時間まではまだまだある。近くのベンチに腰を下ろし、スマホのカメラで髪が乱れていないかテェックをする。

 人生で初めての彼女との夏祭りデートなんだから、髪とかもちゃんとしておきたい。

 

「これで良し」


 手を櫛代わりに髪を整え終えると、俺は誰かから連絡が来ていないか確認をする。

 すると一通の連絡が来ていた。


『陽愛ちゃんとの夏祭りデートしっかりしろよ』


 斗真からだった。

 昨日の夜、今日の夏祭りデートに緊張して、斗真にどうしたら緊張しないかを聞いたのだ。

 そしたら返事は『知らねぇよ。緊張するときは緊張するんだから仕方ないだろ。そもそも蒼汰が陽愛ちゃんと夏祭りデートをして緊張しない方がおかしいわ』と返って来た。

 斗真の言う通りだ。ずっと、ずっと好きだった陽愛と幼馴染としてじゃなく、恋人として夏祭りにデートに行けることになって、俺が緊張しないわけがない。

 事実、今も俺の心音は物凄く早い。

 なぜなら今日の陽愛は浴衣で来るからだ。

 陽愛から昨日の夜に『明日は浴衣で行くから楽しみにしててね』ときていた。

 陽愛の浴衣姿は昔に何度か見ているが、やはり恋人として見るのとはまた別だ。


「喉乾いたな……」


 近くにある自動販売機を見て、そう呟いた。

 自動販売機で缶コーヒーを買い、再びベンチに座りそれを飲む。

 他にも種類がある中缶コーヒーを選んだ理由は簡単だ。俺が寝不足で今も少し眠たいからだ。

 今日が楽しみでぐっすりと眠れなかった。だから缶コーヒーでカフェインを摂るのだ。

 エナジードリンクでも良かったのだが、あいにく自動販売機には売っていなかった。コンビニで買えばいいのだが、歩いてまでエナジードリンクじゃないといけないわけでは無いからな。

 缶コーヒーを飲み終え、空き缶をごみ箱に捨てに立ち上がろうとした刹那――


「やっほー、蒼汰」


 可愛らしい声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 振り返ると、そこには薄ピンク色の可愛らしい浴衣を着た陽愛が俺に手を振って立っていた。

 そんな陽愛を見たら眠気なんてふっとんだ。なんだよ、缶コーヒーじゃなくても良かったじゃないか。

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