第17話

「それで? 夏祭りは蒼汰くんと行くの?」


 お母さんは私のベッドに腰を下ろしたまま動かない。

 お母さんにはもう蒼汰と付き合っていることを認めてしまった。

 颯太も言っていた通り、私は多分凄く分かりやすいのだと思う。

 だからお母さんも気づいていたはず。そんなお母さんにおざなりな言葉をこれ以上言い続けても意味がないと思った。


「そのつもりだよ。蒼汰と約束してるから」

「へぇ~。勿論浴衣着ていくんだよね? サイズ大丈夫かしら」


 そう言ってお母さんはベッドから立ち上がり、浴衣が仕舞ってあるタンスに向って歩いていく。


「ちょっと待ってお母さん」


 私がそう言うと、お母さんは歩く足を止め、私の方へと振り返った。


「浴衣はレンタルすることにしたの」

「レンタル? どうして? 浴衣なら持ってるじゃない」

「持ってるけど……」

「まぁ良いよ。陽愛のしたいようにしなさい。せっかくの夏祭りデートなんだから」

「うん。ありがとう、お母さん」


 そして再びお母さんは私のベッドに腰を下ろした。


「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいこと? 何?」

「陽愛か蒼汰くん。どっちから告白したの?」

「べ、別にどっちからでも良いでしょ!」

「も~、そんなこと言っちゃったら陽愛から告白したってバレバレだよ。本当に陽愛は可愛いんだから」


 そう言ってお母さんは私の頭を何度も撫でた。

 確かにそうだ。あんな風に言ってしまえば私から告白したなんて少し考えれば分かってしまう。

 私って本当にバカだな。


「そんな照れることないじゃない」

「そんなこと言われても……お母さんに私が蒼汰に告白したことがバレたんだもん。恥ずかしいに決まってるじゃん」


 私は枕に顔をうずくめながら言う。


「お母さんもね、告白したんだよ?」

「お母さんが? お父さんに?」

 

 私が聞き返すとお母さんはゆっくりと頷いた。

 てっきりお父さんがお母さんに告白したと思っていた。


「だから分かるよ」


 そう言ってお母さんは再び私の頭を撫で始めた。


「頑張ったね」


 お母さんは私が蒼汰を好きな事をずっと昔から知っていた。そして応援してくれていた。

 そんなお母さんにそう言ってくれたことが凄く嬉しかった。

 つい涙を流しそうになったけれど、なんとかこらえた。


「怖かったよね。分かるよ、すごく分かる。お母さんもお父さんに告白する時は断られたらどうしようって、凄く怖かったし不安だったもん」

「怖かった。振られたらどうしようって。振られたら立ち直れる自信なんて全くなかったから。そして、不安だった。振られないか不安だったわけじゃないんだ。蒼汰の彼女が私で本当に良いのかなって、不安だった」


 幼馴染として今まで接してきて遊んできた私を、彼女として受け入れてくれるのか。

 幼馴染が彼女になるの、蒼汰は嫌じゃないかなって、凄く思った。

 けれど、私は蒼汰と付き合いたい。蒼汰のそばに一生居たい。

 その思いだけは絶対に誰にも負けない自信があった。

 幼馴染としてじゃなく、彼女として蒼汰のそばに居たかった。

 

「そんな事言わないの! 陽愛は世界で一番可愛いんだから!」

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