第6話
蒼汰がアパートに帰って部屋には私一人になった。
さっきまで蒼汰と一緒に居たからこの一人の空間が寂しく感じてしまう。
下に降りればお母さんがいるけど、蒼汰が良い。
今までずっと大好きだった幼馴染の蒼汰とやっと付き合えたんだから。
それなのに蒼汰、さっきまで私と二人っきりだったのにハグの一つもしてくれなかった……私は昨日したのに…………
私はそう思いながらベッドに横になり、テディベアを抱きしめる。
昔から使っているテディベア。毎日眠るときには必ず横に置いて眠っている。
子供っぽいって思われるかもしれないけど、別に思われても良い。
だって今までこのテディベアは蒼汰だと思いながら抱きしめていたから。
テディベアを抱きしめる時、毎回何時になったら蒼汰とこうして抱き合えるんだろうと思っていた。
けれど、昨日勇気を出して私から蒼汰に抱き着いた。
正直死ぬほど恥ずかしかった。多分顔も火照っていたと思う。
それなのに蒼汰からは抱きしめてくれなかった。
「蒼汰のバカ! バカ、バーカ‼」
私はテディベアに顔をうずくめ、足をバタつかせながら何度もそう言った。
我ながら本当に子どもっぽい。
お母さんからも何度か「陽愛って本当に昔と変わらないで子供っぽいよね」と言われた。
別に高校生だってまだ子供だから良いもん! と自分で肯定する。
確かに私は小さい頃から蒼汰の事が好きだし、寝るときはテディベアを横に置いて眠る。昔と変わっていないのは間違いないけど……でも私だって少しは成長してるもん!
そんな事を思っているとドアをノックする音が聞こえた。
「陽愛、入っても良い?」
お母さんの声だ。
「え、うん。良いよ」
私は急いでテディベアから離れてベッドに座る。
「どうしたの? お母さん」
「ただお菓子の入ってたお皿を取りに来ただけだよ? 蒼汰くん、久しぶりに来たんだし夕飯くらい食べていけばよかったのにね。陽愛ももっと蒼汰くんと一緒に居たかったでしょ?」
お母さんはお皿を持ち、笑いながらそう言ってくる。
お母さんは多分私が蒼汰の事を好きなのを知っている。
蒼汰と付き合っていることは知ってないと思うけど。
「べ、別に学校でいつも会ってるし……」
嘘だ。学校では蒼汰とあまり話せない。
休み時間は私の席の周りに沢山の人が来ちゃうし、今日は友達からの寄り道の誘いを断れたけどまた断れるかは分からない。
「そうなの? でもこの前蒼汰くんとはあまり話せていないとか言ってなかった?」
「話せてはいないけど会ってはいるもん!」
私は一度も話しているなんて言ってない。ただ会っているとしか言っていない。
本当は学校でも話したい。もっと、もっと話したい。
「だったら夕飯食べてってもらえばもっと話せたじゃない」
「もう! 良いの!」
私は胸の前で両手をブンブンと振りながらそう言った。
「別に照れなくても良いのに~。お母さんは応援してるからね!」
お母さんはそう言って部屋を出て行った。
「別に、照れてないもん……」
でも、多分私の頬は火照っている。
「私って分かりやすいのかな……」
自分の両手を頬に当てると、やはり火照っているのが分かった。
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