第5話

「ただいま、お母さん」

「お、お邪魔します」


 陽愛からいきなり家に誘われ、俺は久しぶりに陽愛の家にお邪魔することにした。

 昔は良く陽愛の家に遊びに行っていたが、中学に上がってからは全く来なくなった。

 

「お帰り、陽愛。それと、もしかして蒼汰くん」


 陽愛のお母さんは俺を見て驚いたようにそう言った。

 

「は、はい。お久しぶりです」

「久しぶり~。最後に蒼汰くんを見たのって入学式の時だったから一年ぶりね。昔は良く遊びに来てたのに来なくなっちゃったから陽愛も寂しかったんだよ~」

「ちょ、ちょっとお母さん! 余計な事は言わなくても良いの!」


 陽愛はお母さんの口を両手で塞ぐ。

 

「別に恥ずかしがることないじゃない」

「べ、別に恥ずかしがってるわけじゃ……そ、蒼汰! 部屋に行こう、部屋に!」

「え、ちょっと」


 陽愛は俺の腕を掴んで無理やり部屋に連れて行った。

 陽愛の部屋に入るのは久しぶりだが、昔とさほど変わっていない。

 相変わらず綺麗に整頓されていてザ、女の子って部屋だ。

 ベッドの上には昔からある大きなテディベアが置いてあり、机の上には昔の写真が飾られている。


「さっきはごめんね、お母さんが変な事言って」

「別に良いよ。それよりも昔とあんまり変わってなくてなんか安心する」

「そう? まぁ確かに変わってないね」


 陽愛はそう言いながらベッドに腰を下ろす。


「どうしたの? 座らないの?」

「え、ああ。座るよ」


 俺はそう言って絨毯の上に座る。


「何でベッドの上に座らないの? もしかしてもう一度私の下着が見たいの?」

「ち、違うよ!」


 決してそういう訳じゃない。

 ベッドの上に座るのは悪いと思って絨毯の上に座ったんだ。


「じゃあベッドの上に座りなよ。嫌なら別に良いけど」

「じゃあ座る」


 俺は一度立ち上がりベッドの上に座った。

 

「で、何で俺を家に誘ったの?」

「え? ただ蒼汰ともっと一緒に居たかったからだけど……ダメ?」

「ッ! べ、別にダメじゃないけど」


 ダメなんて一ミリも思わない。むしろその理由で俺を家に招いてくれたことが嬉しい。

 そんな事を思っているとドアが開いた。


「蒼汰くん、陽愛。飲み物とお菓子持ってきたから食べてね」


 ドアを開けたのは勿論陽愛のお母さん。 

 陽愛のお父さんは仕事で陽愛は一人っ子だから今この家には三人しか居ない。


「ありがと、お母さん」

「ありがとうございます」


 俺がお礼を言うと、陽愛のお母さんは「ごゆっくり~」と言いながらゆっくりとドアを閉めた。


「もしかして陽愛、お母さんに俺と陽愛が付き合っていること言った?」


 昔は俺と陽愛を見てあんな風に言ってくる人ではなかった。

 

「え? 言ってないけど、どうして?」

「いや、ただ単純に気になっただけ」

「言った方が良いかな?」

「いや、別に言わなくても良いよ」


 別に言わないといけないわけじゃないし、言わなくてもいいだろう。


「そう? じゃあ言わないでおくね。私もちょっと恥ずかしいし」


 陽愛は笑いながらそう言う。


「ねぇ、せっかく私の家に来たんだから何かゲームとかして遊ぼうよ!」

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