第4話
放課後、多くの女子生徒は近くのお洒落な喫茶店等に、男子生徒はカラオケやゲームセンターに行こうと会話をしている中、俺は一人アパートへと向かう。
寂しいことに俺は中学高校と、誰かと一緒に放課後に出掛けたことがない。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
丁度校門を抜けたあたりで誰かが俺の腕を思いっきり引っ張って止めた。
後ろを振り返って確認すると、案の定陽愛が俺の腕を引っ張っていた。
「何で先に行っちゃうの⁉」
走って来たのか、息を切らしながら陽愛は聞いてくる。
「何でって、俺陽愛から待ってって言われてたっけ?」
俺は今日陽愛と話した時を思い出すが、朝に話しかけられた時も、昼休みの時間も、帰りに待っててほしいなんて一言も言われていない。
スマホにも陽愛から連絡は来ていなかったはずだ。
「言ってないけど、恋人なんだから普通一緒に帰るでしょ」
「そ、そんなこと言われても分からないわ!」
恋人だからといって、必ずしも一緒に帰らないといけないわけでは無いはず。
でも、陽愛と一緒に帰るのは一つの夢だった。
今まで陽愛はクラスの生徒、他クラスの生徒から放課後にどこかに誘われていて、俺と陽愛が一緒に帰ったことは一度も無い。
だから恋人になった今でも、陽愛は誰かに誘われると思っていたから俺から陽愛に一緒に帰ろうと誘わなかった。
「分かってよ! 幼馴染でしょ!」
「お、幼馴染だからってなんでも知ってるわけじゃないし以心伝心ができるわけでもないんだよ」
「じゃあ恋人として、これから私の事を全部知って! 私も蒼汰の事を全部知るから!」
「わ、分かったよ」
「じゃあ一緒に帰ろ?」
そう言って陽愛は俺の隣に並んだ。
「う、うん」
この時を何度夢見た事か。
陽愛と一緒にこうして二人並んで帰る。誰もが羨ましいと思うこの行為。
これが幼馴染の、恋人の特権。
「もしかして私と一緒に帰るの、ドキドキする?」
今も隣に並んで歩く陽愛に俺の心音が聞こえているのではないかと心配になるくらいドキドキしている。
「ねぇ、ねぇ~。ドキドキしないの?」
陽愛は俺と繋いでいる手を恋人繋ぎに繋ぎ直した。
陽愛のその行動に俺の胸は強くうたれる。
「もう! 答えてくれないなら確認しちゃえ!」
「ちょ、ちょっと!」
陽愛は俺の心臓のある個所に手を当てた。
陽愛に触れられると更に俺の心拍は勢いを増す。
「凄く早い。やっぱりドキドキしてるんだぁ~」
「きゅ、急にやめろよ」
「あれ? ドキドキしてるのバレちゃって照れてるのかなぁ~? 私のも確認してみる?」
「か、確認って」
俺の視線は必然と陽愛の胸に行ってしまう。
「何胸見てるの? えっち……手首で確認できるでしょ?」
陽愛は悪戯な笑みで俺に手首を差し出す。
「わ、分かってるよ」
「本当に?」
「本当だって!」
そう言って俺は陽愛の手首を掴んで心拍を確認する。
「陽愛だって早いじゃねぇか」
「だって私凄くドキドキしてるんだもん。蒼汰と、彼氏と一緒に帰れて」
「ッ‼」
陽愛の口から彼氏という言葉を聞いて俺は顔が熱くなる。
「私、ずっと蒼汰とこうして帰るのが夢だったんだよ?」
「え?」
「でも私、いろんな子から放課後どこかに誘われて、中々蒼汰と帰れなかったの。知ってるでしょ? 私が断れない性格って。でも、蒼汰と恋人になれたことが嬉しくて、蒼汰とこうして一緒に帰りたいって思いが強くなってね、今日も誘われたんだけど断れたんだ。蒼汰は私と帰るのイヤだった?」
「い、イヤなんかじゃない。全然嫌なんかじゃない」
上目遣いで聞いてくる陽愛に、俺は直ぐに否定をした。
大好きな陽愛と、彼女と一緒に帰るのが嫌な奴なんて絶対に居ない。
「ふふ、なら良かった」
俺の隣で陽愛は可愛らしい笑みを浮かべる。
ずっと見ていたくなるような美しい笑顔。
「それより後一週間経ったら夏休みだよ、夏休み!」
「そうだね。もうすぐ夏休みか」
「夏休み、二人でいっぱいデートしようね! 夏祭りでしょ? 海にも行きたいし、ショッピングモールにも行きたいなぁ~」
陽愛は今から夏休みの事を想像して楽しそうにしている。
俺も昔、幼い頃は陽愛と互いの両親と一緒に夏祭りや海水浴にも良く行った。
けれど中学生になってからは行かなくなった。一度もだ。
「この中だと一番最初は夏祭りかな? 蒼汰と夏祭りなんて久しぶりだね!」
「五年ぶりだったはず」
「五年も⁉ そんなに経つの⁉」
年月が経つのは物凄く早い、特に最近は早く感じる。
「懐かしいなぁ~。私、あの頃から蒼汰の事好きだったんだよ? 気づいてた?」
「き、気づくわけないだろ?」
「そう? じゃあ蒼汰は私の事何時から好きになった?」
「そ、そんなの……分からない」
「分からない?」
陽愛は俺の返答を予想していなかったのか、もう一度聞き返してきた。
俺は何時から陽愛の事を好きになったのか覚えてない。いや、分からない。
気づいたら好きになってたんだ。
「気づいたら、好きになってた」
「そ、そうなんだ……」
俺は陽愛に面と向かって好きと伝え顔を赤くする。
陽愛は面と向かって好きと言われたからか、顔を赤くする。
二人そろって顔を赤らめながら家に向って歩いていく。
こうして歩いているうちに、俺の住んでいるアパートの前まで来た。
「じゃあな、また学校で」
「ちょっと!」
俺がアパートに向おうとすると、陽愛はまたしても俺の腕を掴んでそれを止めた。
「今度はどうしたの」
「私の家、来ない?」
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