ソロ充するのも楽じゃない。

味噌わさび

第1話 一人

 俺は、一人が好きだ。


 飯を食うのも一人、どこかへ遊びに行くのも一人……ソロ充なんていう言葉があるが、俺はとにかく一人でいるのが好きなのだ。


 実際、一人でいれば誰かに気を使うことなく過ごすことができるし、気楽なものだ。だから、俺はそれが寂しいとか、辛いとか、そういうことを思ったことはない。


 恋人が出来そうな時もあったし、家族と過ごすという選択肢もあった。しかし、俺はそれを拒み、一人で暮らすことこそが最善であると思っていた。


 ただ、最近は……どうにも気にかかることがあった。


 その日も俺は、深夜の近所を一人で散歩をしていた。


 日々の散歩は、俺にとっての楽しみだ。特に深夜に誰もいない近所を徘徊するのは、世界が自分一人だけになったかのようで、とても気分が良い。


 ただ、最近俺に降り掛かっている問題は、つい最近起こり始めたものだった。


 いや、正確には、俺が感じているだけだ。実際にはそんなことはないのかもしれない。だが、どうにも気になってしまう。


 ふと、俺は立ち止まって振り返る。その先には……誰もいない。暗い夜道を街灯が照らしているだけだ。


「……気のせい、だよな」


 俺はそう思って再び歩き出す。どこに行くにもどうにも俺は……誰かがいるように感じてしまうのである。


 今まではそんなことはなかったのに、最近になってなぜかそんな感覚を受けるようになってしまった。おかげで俺はあまり気持ちよくソロ活をすることができていない。


 かといって、気にしなければいいだけのこと……俺はあまり深く考えずに、散歩を続ける。


 しばらく歩くと、近所にある地下通路までやってきた。通路の中には電灯が設置してあるが、薄暗い場所である。


 俺は一瞬躊躇ったが……いつもの散歩道。コース変更するのはなんだか癪だった。


 地下通路に入ると、俺の足音が妙に響く。トットット……一定間隔で足音が聞こえる。


 しかし……どうにもおかしかった。俺の足音に混じって、コツコツとなにかの音が聞こえるのだ。


 俺はいきなり立ち止まってみる、それと同時にコツコツという音も止まった。


 ……俺は決心をして、踵を返す。そして、全力で来た道を家に向かって走り出した。


 家までは三分もかからない距離……ドアを開いて鍵を閉めれば、それで終わりである。


 そのまま俺は走って、一人暮らしのアパートの階段を駆け上がり、そのまま鍵で扉を乱暴に開けて、部屋の中に飛び込んだ。


「はぁ……はぁ……」


 ……もはや否定できない。明らかに俺以外に誰かが居るのだ。俺にソロ活を許してくれない……ともすると、人間ではない何者かが。


「おかえり」


 と、一人暮らしの俺の部屋に声が響いた。


 いや……確かに今、声が聞こえてきた。


 俺は思わずその場に固まる。そして、ゆっくりと声のした方に顔を向ける。


 そこには……異様に青白い顔をした女が、ニンマリと嬉しそうに俺の事を見ていた。


 俺は即座にソイツこそが、俺にソロ活を許してくれなかった存在であること、そして、ソイツが、どう見てもこの世の存在ではないことを理解した。


 いや、もう一つ理解した……というより、改めて感じたことがあった。


 ……どうにも、一人でいることを選択し続けるのも、楽じゃないのだなぁ、と。

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