第6話 Your gaze 〜後編〜
俺は、LINEで送られた待ち合わせ場所に着くと、買い物袋を持った2人が待っていた。
「悪い……遅れた……」
「遅いよ〜」
「遅かったわね」
…怒ってはないようだ。
「すまんな…」
「何買いに行ってたの?……って、手ぶらじゃん。」
「ああ、すっかり忘れてた…」
「買い物を忘れるって……はるとくん、今日何しに来たのよ」
長谷川から的確なツッコミをもらってしまった。
「何かあったの?」
れいかが心配そうに聞いてきた。
「ああ、実はな………」
俺は、2人に迷子の女の子を助けた話をした。2人は驚くかと思っていたが、それほど驚いていなかった。
「……って、事があったんだ」
「…そんな事があったんだ。それなら仕方ないね」
「ええ、そうね」
2人とも疑いもせず、すんなりと信じてくれた。
「よかったよ、わかってくれて」
「ここでわかってくれない人は、ただの我儘な人だよ……」
おっしゃる通りだった。
話が終わったところで、長谷川が再び喋り始めた。
「じゃあ予定通り、3人で回りましょうか」
「ああ、そうだな」
俺たちは、3人でショッピングモールを回った。
3人仲良く、ショッピングモールを回っていたのだが、服屋に入ったところで事件が起きた。
長谷川が事件の火付け役だった。
「はるとくん、どっちの服が私に似合うかしら」
長谷川は、花柄のワンピースと水玉のワンピースの2着を持ち、自分に合わせ聞いてきた。
「え、えっと……」
正直どっちでもいい……。
「ど、どっちも似合うと思うぞ」
我ながら苦しい回答だった。
「……じゃあ、どっちか買おうと思うの。だから選んでちょうだい。」
長谷川は聞き方を変え、確実に選ばなきゃいけない状況を作った。
俺は、仕方なく選んだ。
「え、じゃあこっ——「こっちの方が似合うと思うよ」
俺が選択しようとすると、れいかが割り込み花柄のワンピースに指差した。
「あら、れいか?私ははるとくんに聞いたのよ?」
長谷川は何故かれいかを睨んだ。
れいかは全く動じていなかった。
2人の間で火花が交錯していた。
少しの沈黙の後、れいかが口を開いた。
「あ、そうだったの?でも、はるともそう思うよね?」
「え?」
俺は思わず聞き返してしまう。
「……思うよね?」
れいかの目は全然笑っていなかった………。
ここでイエスと言わないと刺されるような………そんな寒気がした。
「あ、ああ、そうだな!そっちの方が似合ってるぞ!長谷川!」
俺はれいかの意見に流されることにした。じゃないと、後で殺されそうな雰囲気を放っていたからだ。
長谷川は深いため息をついた。
「………じゃ、こっちを買うわ。」
長谷川は、花柄のワンピースを買うことにしたそうだ。
「そ、そうか。」
俺は、女の友情の闇を少しだけ見てしまったような気がした。
その後、長谷川は会計を済まし、俺たちは店を出た。
時刻はお昼時だった。
「予定ではお昼の時間だけど、お昼でいいかしら?」
「ああ、昼食にしようぜ。お腹減っちまったよ」
「たしかに、もうペコペコだよ」
れいかは、ハハハ…と笑いながらお腹をさする。
「じゃあ、お昼にしましょう」
「だな」
俺たちは、あらかじめ決めておいた店で昼食を済ませ、午後は予定通り映画を見ることにした。
このショッピングモールには映画館が付いているため、買い物ついでに行く事ができるのだ。
俺たちのように、買い物ついでに行くお客さんも少なくなかった。
映画館に着くと、ここにも人が大勢いた。
「うわー人がいっぱいだ」
「今日、上映してるのは〜」
俺はネットで調べると、食い気味で長谷川が喋り始めた。
「私が見たいのは、恋愛映画よ」
「れ、恋愛!?」
れいかは顔が赤くなる。
「…俺たち、恋愛映画1回も見た事ないんだよな〜」
「う、うん…見たことないね」
「あら、そうなの?じゃあ、見ることをオススメするわ」
長谷川は、一歩も譲らなかった。相当恋愛映画が好きらしい。
「まぁ、れいかがいいなら俺はいいけど…」
ちらっと見ると、れいかは燃えていた。
どうりで、隣から熱気を感じると思ったんだ……!
「おい!れいか、しっかりしろ!」
俺は即座に、肩を持ちれいかを揺さぶった。
すると、火はどんどん弱まっていった。
「はっ!ごめん、はると!」
れいかは、完全に火を自分の体に吸収し、「もう大丈夫」と答えた。
「で、恋愛映画でいいんだな?」
「う、うん……見てみたい…かも」
れいかは、顔を赤らめながら答えた。
「じゃあ、これにしましょう。友達が泣けるって言ってたわ」
映画のタイトルは『君を見ると』ポスターには男女2人が写っていた。
このポスターに写っている2人の恋愛を描いた映画なのだろう。
「まぁ、面白いならいいんじゃないか?」
「わ、私もそう思う」
「……決まりね。私は人数分のチケットを買ってくるわ」
長谷川はチケット売り場まで駆け足で向かった。
相当楽しみなのだろう。
「じゃあ、俺たちは、ポップコーンとか買いに行こうか」
「そうだね、えりちゃんにも伝えとく。」
れいかは、スマホ取り出し、LINEを送ったようだ。
そして、俺とれいかは、ポップコーン売り場の列に並んでいた。
すると、また誰かが後ろから見ている気がした……。
後方からの視線を感じ、俺は振り返った。
「あれ?はるとじゃん!」
後ろにいたのは猿だった。
「なんだ猿か…」
「なんだとはなんだ!失礼な!」
このやりとりに俺は、デジャヴを感じた。
「で、何してんだ?」
「ああ、友達と買い物ついでに映画を見に来たんよ!」
俺たちと全く一緒だった。
猿と会話していると、れいかが入ってきた。
「ん?はると、その男の子は誰?」
「こいつは、猿……って、クラスメイトだろ……」
俺はれいかの頭をペシっと叩いた。
「ごめんね猿くん。私忘れっぽいんだ〜」
れいかは、アハハと笑っていた。
「………」
猿は何も言わず下を向いていた。
「………猿?」
急に喋らなくなった猿に、俺は声をかけた。
猿は顔を上げ、口を開いた。
「………お前たち、付き合ってるのか!?」
「「は?」」
予想外の一言に俺とれいかは、ハモってしまった。
「ごめん猿、今なんて言った?よく聞こえなかった」
「だから、お前たち2人は、付き合ってるのか?」
聞き間違いではなかったようだ……。
れいかを見ると、顔を赤くしていた。
嫌な予感がした。
「わ、私が、は、は、はると、と……」
「あ、このパターンは……」
「え?」
ボンッ!
嫌な予感は的中した。
俺はれいかと猿の手を掴み、列から飛び出した。
そして、安全な場所に移動した。
「おい!猿変なことを言うなよ!」
「す、すまん…」
「れいか!大丈夫か!」
俺は急いで、れいかを正気に戻させる。
れいかはすぐに正気に返った。
「———はっ!……ご、ごめん……」
そう言うとれいかは、体に火を吸収させていった。
そして、完全に火は無くなった。
「はぁ……よかった…」
「すまん……」
猿は相当反省しているようで、頭を下げ謝っていた。
「まぁ。私は大丈夫だから…。」
れいかは必死にフォローする。
「でも、悪いことしちまったから、お詫びにこれ…受け取ってくれ!」
猿は、財布から何かを取り出し、俺に渡した。
『ポップコーンLサイズ 無料券』と書いてあった。
猿曰く、このお店で使えるクーポンらしい。
「これを使うために、並んだんだが……使ってくれ!」
「わかった。ありがたくもらうよ」
俺は、猿から貰ったクーポンを財布にしまった。
「じゃ、俺はこれで!また学校でな!」
「ああ、また学校で」
猿は手を振り去っていった。
俺は呆れながらも、れいかに猿の話をしておいた。
「はぁ…あれでも、いいやつなんだ。許してやってくれ…」
「アハハ…全然怒ってないから大丈夫…!」
「そうか、ならよかったよ。」
俺は安心する。
さて、長谷川も待たせてしまってるし、列に戻らないと。
「じゃあ、戻ろうか」
「うん」
俺たちは再び列に戻った。
並んでいる途中、れいかは呟いた。
「…私たちって、付き合ってるように見えるのかな……?」
「!?……ま、まあ、男子と女子が一緒にいたらカップルに見られても、おかしくはないんじゃないか?」
さらに、幼馴染で仲がいいので、傍から見たら仲のいいカップルだろう。
まあ、れいかは勘違いされたくないんだろう……。
「……なんだ、俺と付き合ってると思われたくないのか?」
少し冗談を言ってみた。
……こういう所が母さん似なのかもしれない……。
れいかの反応は薄く、静かに答えた。
「……どっちだと思う?」
いつもと違う返答だった。
いつものれいかだったら、焦ったり怒ったりするんだが………今のれいかは少し違った。
なんと言えばいいのか迷っていると、れいかは口を開いた。
「……知りたい?」
俺は反射的に頷いた。
それを見たれいかは、俺の耳に近づいてくる。
そして、囁いた。
「……ひみつ」
「!?」
ドキッとしてしまった。
れいかは、フフッと笑い、俺の耳元から離れた。
あの入学式の日、れいかの部屋で、れいかの笑顔を見た時に起きた心臓の音。
あの日のように、体が一気に熱くなる気がした……。
その後俺は、胸の高鳴りが収まるまで、れいかの顔をまともに見れなかった。
なんて考えていると、れいかに肩を叩かれる。
「はると、次私たちだよ」
「あ、ああ…」
気付かないうちに、進んでいたようで、次が俺たちの番だった。
俺は、飲み物を決めていないことに気がつき、れいかに聞いた。
「れいか、飲み物どうする?」
「私、コーラ!えりちゃんは、お茶でいいんじゃないかな?」
「りょーかい」
俺は、オレンジジュースでいいか…。
そして、俺たちの番になった。
レジの前に立つと、店員が元気よく挨拶をしてきた。
「いらっしゃいませー!ご注文はお決まりでしょうか?」
俺はさっき猿から貰ったクーポンを出した。
「これと、ドリンクセット3つください」
「はい!少々お待ちください!」
店員はクーポンを確認した。
すると店員は申し訳なさそうな顔をした。
「すみません……このクーポン期限昨日までです。……どういたします?」
「は………?」
あのクソ猿っ………!今度会ったらぶん殴ってやる……!
俺は心にそう誓った……。
まあ、映画にポップコーンは付き物なので、普通に買うことにした。
「あ、じゃあ、普通にポップコーンのLサイズ1つください」
「かしこまりました!お飲物は何にいたしますか?」
「コーラ、麦茶、オレンジで」
「かしこまりました!サイズはいかがなさいますか?」
サイズを聞き忘れていたので、横でスマホをいじるれいかに聞いた。
「あー、れいか?サイズどうする?」
「Mでいいよー」
「わかった…。すみません、全部Mでお願いします」
「かしこまりました!合計1990円です」
俺は財布から2000円を出し、払った。
「はい!こちら、レシートとお釣りです!横の列でお待ちください!」
俺は、レシートと小銭を受け取り、2人は横の列に移動した。
「…まさか期限が切れてるとはな……」
「アハハ…まさかだったね…」
その後、俺らはポップコーンと飲み物を受け取り、長谷川が待つ場所へ移動した。
案の定、長谷川は「遅いじゃないっ!」と怒っていたが、ポップコーンを奢ると言うと、許してくれた。
スタッフにチケットを渡し、俺たちは中に入った。そして、映画が始まった…………。
映画が終わり、俺たちは近くのベンチで喋っていた。
「まさか、ホラー映画だったなんてな……」
「……泣けるって、感動して泣けるじゃなくて、怖くて泣けるの方だったなんて……」
珍しく、長谷川が頭を抱えていた。
俺たちが見た映画は、泣けるラブストーリーでは無く、怖いゾンビ映画だったのだ。
「あんなの、完全にタイトル詐欺じゃない!」
タイトルは『君を見ると』騙されても仕方がない……。
ストーリーは、人類とゾンビが戦う話で、主人公は物語の中盤、ゾンビに噛まれガールフレンドを襲うというシーンがあった……。
その時主人公が言ったセリフが「君を見ると、食べたくなってしまうっ!」だった。……多分そこをタイトルにしたのだ。
「しかもB級!面白くもなかったわ!」
そう、1番の問題点は、つまらないという点だった。
アクションシーンもどこかチープで、誰が見ても、低予算映画とわかる出来だった。
「まあまあ……落ち着いてえりちゃん」
珍しく怒る長谷川を宥めるれいか。
「せっかくの映画だったのに、申し訳ないことをしたわ……」
俺たちにつまらない映画を見せてしまったと、長谷川は謝るが、あれはタイトルが完全に悪いので、長谷川は全然悪くなかった。
「いいよ全然!」
「ああ、問題ないぞ長谷川」
俺とれいかは、長谷川を励ました。
「そうだよ!今度また見に行こう!」
「れいか………はるとくん……」
長谷川は小さく呟いた。
「ああ、俺も付き合うぜ」
俺も賛同する。
「ありがとう……」
長谷川は俺たちに頭を下げた。
それを見たれいかは、何かを閃いたのか、俺と長谷川にとある提案をした。
「そうだ!せっかくだし、プリクラ撮りに行こう!」
「え?」
長谷川は顔を上げ、キョトンとしていた。
俺も理解ができなかった。
そして、れいかは立ち上がった。
「さ、行くよ!」
れいかは、座る俺と長谷川の手を引っ張った。
「お、おい…」
「おっと……」
俺と長谷川は、れいかに引っ張られ立ち上がった。
「さあ!ゲーセンに行くよー!」
れいかは、元気よく言った。
「はぁ……しょうがないわね…」
長谷川は呆れていたが、どこか嬉しそうだった。
「フッ………」
いつも通りに戻った長谷川を見て、俺は思わず笑ってしまった。
その後俺らは、ゲーセンに行きプリクラを撮った。
プリクラを撮り終え、ゲーセンを出ると、もう夕方だった。
長谷川は時計を見て、一息つき、口を開いた。
「そろそろ帰りましょうか」
「ああ」
「うん」
俺たちはショッピンモールを出た。
そして、今日午前中に集まった駅に着き、解散することになった。
「今日はありがとうね」
「うん!」
「フフフ……そろそろ帰るわ」
「またな長谷川」
「えりちゃんバイバイ〜!」
俺とれいかは長谷川に手を振った。
「フフ……また、学校で」
長谷川は笑みを浮かべた後、振り返り帰っていった。
「さて、私たちも帰りますか」
「だな」
俺たちは家に向かった。
帰り道の途中、コンビニの前を通り過ぎる時、れいかが立ち止まった。
俺も立ち止まり、れいかを見た。
「喉乾いちゃったから、コンビニ寄ってもいい?」
「ああ、ここで待ってるぞ」
「ありがと、ちょっと待ってて!」
れいかは、コンビニに入っていった。
俺は、コンビニの前にあるベンチに座り、スマホを開き暇を潰すことにした。
しばらくすると、前から視線を感じた。
れいかだろうか……。
俺はスマホをポケットにしまい、前を見た。
そこには、れいかではなく、知らない女が立っていた。
「………誰?」
女は、れいかよりも背が高く、そして冷たい目をしていた。
「はじめまして、はると」
何故か俺の名前を知っていた。
すると、コンビニかられいかが出てきた。
「ごめん、お待たせー……その人誰?」
れいかの顔が変わった。
「どーも、不知火さん。はじめまして」
その女は、れいかに近づいた。
俺は、その瞬間れいかのもとに飛び出し、れいかの前に立った。
嫌な予感がする……。
「ん?」
「あんた、それ以上れいかに近づくな」
「………?」
女は首を傾げた。
その後、深いため息をつき、口を開いた。
「まあ、挨拶はできたし、私は帰るわ」
その女は振り返り、去っていった。
俺たちは動けなかった……。まるで、足が凍ったかのように……。
女はそれに気がついたのか、再び俺たちに近づき、囁いた。
「また、学校で会いましょう。不知火さん、はるとくん」
女は不敵に笑った。
燃えるよ!れいかちゃん! u-ra @u_ra
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