第5話 Your gaze 〜前編〜


 4月は終わり、学校生活にも慣れ始めた5月。


 入学してから最初の連休、GWが始まっていた。


 今日はれいかと、長谷川で遊びに行く予定があった。


 待ち合わせ場所は最寄りの駅。


 俺はれいかと、駅に向かった。


 駅に着くと、連休ということもあり、大勢の人がいた。


「うわぁ……。人がいっぱい……」


「大丈夫か……?」


 れいかは人混みが嫌いだ。


 だが、これだけ人を見ると、人混みが嫌いな気持ちもわかる気がする……。


「…ちょっと飲み物買ってくるね……」


「わかった…」


 れいかは近くにあった自動販売機に歩いて行った。


 その時、後ろから視線を感じた。


 振り向くと、長谷川がいた。


「……なんだ長谷川か」


「………なんだか腑に落ちないわね。その発言…」


 長谷川は、深いため息をついた。


「あ、えりちゃーん!」


 自動販売機かられいかが帰ってきた。


 右腕にペットボトル3本抱えていた。


 中身は全部お茶だった。


「私が最後だったようね。ごめんなさいね、待たせちゃって」


「いやいや、全然待ってないよ。そもそも集合時間に間に合ってるし!」


 れいかが謝る長谷川をフォローする。


「なら、良かったわ」


「あ、これえりちゃんに」


 れいかは、長谷川にお茶を渡した。


「あら、気が利くわね。ありがとう」


 長谷川は貰ったペットボトルをバッグにしまった。

 

「はい、はるとも」


「サンキュー」


 俺はれいかからお茶を受け取る。


「いくらだった?」


 俺は財布を取り出した。


「あ、大丈夫大丈夫!奢りでいいよ!」


「そうか、ありがとな」


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」


「ああ」


 俺たちは改札へ歩き始めた。


「電車座れるといいな〜」


「連休で家族連れも多いし、座れなさそうだな」


「私たちが今日行くところは、家族連れだけじゃなく、学生も多いからきっと混んでいるわ」


「…だな」


「いい服売ってるといいね〜!」


「そうね」


 俺たちが今日行くのは、隣町の大型ショッピングモール。他県から買い物をしに来る人もいるくらいなので、今日も混むだろう。


 俺たちは雑談を交えながら、電車に乗り込んだ。


「あ、椅子2つ空いてるから、お前ら座れよ」


「え、いいの?」


「あぁ、俺は、立ってるよ」


 俺はつり革に掴まる。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


「だね」


 2人は椅子に座る。


 次の駅に着くと、さらに人が乗ってきた。


 学生、家族連れ、休日出勤のサラリーマン……マジお疲れ様です…。


 電車内はほぼ満員だった。


「うお、結構乗ってくるな……」


「ほんとだね…。荷物持つよ」


「あぁ…サンキュ」


 俺は、持っていた財布やペットボトルをれいかに預ける。


 電車が出発し、俺は隣の人に迷惑をかけないよう電車の揺れに気をつけた。


 だが、これをずっと続けるのは疲れる……。


「目的地までは、いつ着くの……?」


「後2駅よ」


「大丈夫?変わろうか?」


 れいかが心配してくれる。


 まぁ、後2駅くらいなら大丈夫だろう…。


「大丈夫だ。ありがとう」


 俺は、心配してくれたれいかに返した。


 ——————その時だった。


 キキィィィッ!!!


 電車が緊急停止をした!


 俺は後ろから押され、前に倒れこむ。


「うわっ!」


 俺の前に座っていたのは、れいかだった。


 咄嗟の判断で窓に手をつく。


 ドンッ


 俺とれいかの顔が近くなる。


「「—————っ!?」」


 同時にれいかの顔が赤くなっていった。


 そう他の人から見ると俺は今壁ドンをしている。


 隣の長谷川は俺たちを見て唖然としていた。


 俺は、すぐに離れる。


「わ、悪い……」


「だ、大丈夫……」


 れいかは顔を赤くし、俯いている。


「……はるとくんって、意外と大胆なのね」


「ちげーよ。不慮の事故だ…」


 1分ほど停車してが、何事もなかったのかまた走り出した。


 そして、俺たちは目的の駅に到着した。


「よし、着いたな…」


「はいこれ、荷物…」


 れいかから、荷物を受け取る。


「あぁ、サンキュー助かった」


「う、うん…」


 むぅ…2人の間に謎の気まずさが走っていた。


 不慮の事故とはいえ、ちょっと恥ずかしいことをしてしまったな…。


 俺たちは、電車を降り、改札を抜け、外に出た。


 今回の目的地は駅から、徒歩5分のところにあるので、バスという選択肢もあったが歩いて行くことにした。


 左から、俺 れいか 長谷川 と並び、歩く。


 目的地の途中、小さな商店街のような所があった。


 商店街には和菓子の甘い匂いや、食べ物の美味しいお店が広がっていた。


「こんな所あったんだなー」


 このレトロな雰囲気は嫌いじゃなかった。


 お店の人の声とお客さんの声は商店街を賑やかにしていた。


「あ、これ美味しそう」


 れいかが、出店に1つに目をつけた。


 売ってる商品は人形焼きだった。


「人形焼きか〜。一袋買うか」


「いいわね。みんなでシェアできるし」


 長谷川も賛成のようだった。


「OK。すみません〜1つください〜!」


「はいよー300円ね!」


 お金を払うと、会計のおっちゃんは、人形焼きを手際よく袋に詰めていった。


「はい、これ!熱々のうちに食べちゃってね!」


「ありがとうございます」


 俺はを人形焼きが入った袋を受け取った。


「はい、れいか」


 俺はれいかに袋を渡す。


「ありがとう!」


 れいかがお礼を言った。


 どうやら、電車のことはもう気にしてないらしい。


 安心した時、俺は視線を感じ取り、後ろを振り返った。


「また来てくれよ〜!」


 ……おっちゃんが笑顔で手を振っていた。


 はぁ…ただの考えすぎだった。


「……お金いつ渡す?」


 れいかは申し訳なさそうに聞いてきた。


 駅で、お茶を奢ってもらったし、ここは奢ろう。


「あーいいよ。300円くらい」


「あら、随分と優しいのね」


「……逆に請求してみろ。それはそれで、ケチなやつだろ……」


「まぁ、確かにそうね」


 どっちにしろ、突っかかるつもりだったんかい。


「ん、美味しい!」


 れいかは、既に1個食べていた。


「えりちゃんも、ほら!」


 れいかは、長谷川に1個取らした。


 長谷川はそれを口に運ぶ。


「確かに美味しいわ。はるとくんも食べなさい」


「……なんで命令口調なんだよ」


 俺は袋から1個取り、口に運んだ。


「ん、うまいな」


 外のカステラの部分はふわふわで、中のあんこは甘すぎず、ちょうどよかった。


 そして、ほんのり温かい。


「買いたてだから、温かいな」


「温かいとさらに、美味しさが増すよね〜」


 俺たちは、人形焼きを摘みながら目的地へと歩いた。


 商店街を抜けると目的地のショッピングモールはすぐ目の前だった。


「着いたな」


「改めて、見ると大きいわね」


 ここが、俺らの住んでいる県で1番大きいショッピングモールだ。


 ここで売ってるのは、服はもちろん、食べ物、家具、雑貨………もう買えないものを探す方が難しい。


 そして、この客の数。どこを見ても人しかいない。


「わーやっぱり、人が多いね」


「えっと、まずどこに行くんだっけ?」


「まずは服屋よ。午後に映画も見るんだから、午前中に済ませるわよ」


 もう既に予定を決めており、午前中はショッピング、昼食を食べ、午後は映画を視聴し、帰宅の予定だった。


「じゃあ、まずここ行こう」


 そう言うとれいかは、スマホを俺たちに見せた。



 “女性下着売り場„



 いや、俺入れねぇ!!


「あら、はるとくんどうかしたのかしら?」


「い、いや、俺はここで待ってるから楽しんできてくれ……」


「あ、はると男だったけ?」


「……おい」


 れいかが雑なボケをしたため、俺も雑なツッコミで返す。


「わかったわ男女別行動にしましょう。時間が勿体無いから、はるとくんも好きなところを見に行くといいわ」


 長谷川にしては、ナイス提案だった。


「そうだね、終わったら連絡するよ」


「りょーかい」


 俺は2人と一旦別れ、目当ての場所へ移動することにした。


 目当ての場所がわからないので常設の地図を確認した。


「えっと、家電は……3階か」


 地図を見て、場所を確認すると後ろから視線を感じた。


「またか……」


 振り向くと、誰も立っていなかった。


 おかしいと思い、目線を下げると、5歳くらいの女の子が立っていた。


「………グスッ………」


 女の子は泣いていた。


 俺は慌てて話しかける。


「ど、どうしたの!?」


「……グスッ……」


 女の子は答えない。


「えと、お母さんは…?」


 俺は、お母さんがいるか聞いた。


 すると、女の子は口を開いた。


「………はぐれちゃったの。…グスッ…」


 どうやら、迷子のようだった。


「そうなんだ……。よし!俺とお母さん探そうか」


 女の子は泣きながら頷いた。


 えーと、とりあえず迷子センターに行こう。


 地図で見ると、ちょうど近くだった。


「よかった。ここから近い。ちょっと歩くけど大丈夫?」


 俺は聞いたが、女の子は何も答えない。


 えーっとこういった時どうしたらいいんだ……。


 迷子の子供とのコミュニケーション方法をスマホで調べた。


 えーまずは、名前を聞きましょう。名前で呼んであげると、警戒心が無くなります。目線の高さを合わせると尚いいでしょう………なるほど、やってみるか……。


 俺は、しゃがみ、女の子と目線を合わせた。


「君は何ていう名前なの?」


 なるべく笑顔で、優しく聞いた。


 すると、女の子は口を開いた。


「…グスッ………かなこ…」


「かなちゃんって呼んでもいいかな?」


 女の子は頷いた。


「じゃあ、かなちゃん、はぐれないようにお兄さんと手を繋ごうか」


「…うん」


 女の子はいつの間にか泣き止んでいた。


 ネットに書いてあることも信じてみるもんだな。


「かなちゃんは何を買いにきたの?」


「ミカちゃん人形」


 ミカちゃん人形…?おそらく女の子が遊ぶ、ぬいぐるみの類だろう。


 女の子の逆の手にはミカちゃん人形らしき人形を持っていた。


「あ、その子がミカちゃん?」


「ううん、この子は、ミカちゃんのおとこをねらう、どろぼうねこ…」


「へ、へぇ。そうなんだ〜……」


 結構攻めた設定なんだな……。子供向け……なんだよな?


 この子もこの子でなぜ、泥棒猫の方を買ったんだ……。


 かなちゃんの話に合わせていると、迷子センターに辿り着いた。


「あ、着いたみたいだね」


 早速、対応してもらおうとしたが、入り口のあたりで女の人が立っていた。


「……うちの子が居ないんです!……早く探してください…お願いします…!」


 誰かの母親だろうか……泣いていた。


 これだけ大きいショッピングモールで、この客の数だ。


 子供がはぐれてしまうのも、よくあることだった。


 俺は、女の人への対応が終わるのを待っていると、かなちゃんが口を開いた。


「……ママ……?」


 そう言うと、女の人が後ろを振り返った。


「かなこっ!」


 女の人はかなちゃんの母親だったようだ。


「ママだ!」


 かなちゃんは、自分の親だとわかると、俺の手を離し、母親の方に向かっていった。


 母親は膝をつき、かなちゃんを抱きしめた。


「よかった………!かなこ……!」


「ママ!」


 かなちゃんは、今までで1番の笑顔を見せた。


 ………これで一件落着だな…。


 俺は静かに去ろうとした。


「ちょっと待ってくださいっ!」


 俺はかなちゃんの母親に止められた。


 俺は立ち止まる。


「あの…うちのかなこを、ありがとうございます…!」


 母親はかなちゃんのことを抱きしめながら、頭を下げた。


「いえ、かなちゃんがお母さんと出会えてよかったです!」


 すると、かなちゃんは母親からすり抜け、俺の方を向いた。


「お兄さん!ありがとう!おかげで、ママにあえた!」


 かなちゃんはすっかり笑顔だった。


 俺はかなちゃんの近くに行き、しゃがんだ。


「もうお母さんからはぐれちゃダメだよ」


 俺はかなちゃんの頭を撫でながら、優しく言った。


「うん!」


「本当にありがとうございます……!」


 かなちゃんの母親は、頭を下げた。


「じゃ!かなちゃん楽しんで!」


「うん!ありがとうお兄さん!」


 俺は、迷子センターを後にした。


 家電屋さんまで行こうとすると、ポケットに入れたスマホが震えた。


 スマホを見ると、鬼のようなLINEが来ていた。


「あ、忘れてた!」


 俺は、駆け足でれいかたちのいる場所に移動した。




 

 










 


 

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