第10話 アルタイルになって

「君が願ったから逢えたんだよ」

「僕が願ったから?」

その時、ある言葉が頭の中に浮かび上がった。


『星と花が咲き乱れる時、あなたの願いは

叶います。ラッキーアイテムは赤い石です。

赤い石を持つ事で願いが叶うでしょう』


空には星と花が咲き乱れていた。

この事だったのか。

「ごめんね。何も言えなくて。

怖かったの。君に言ったら……。

私が死んだ時どれだけ悲しむか。

なら黙って死んだほうが良いかなって思って」

「馬鹿かよ。僕がどれだけ悲しんだか、

知らないくせに。勝手に死ぬなよ」

僕はあんなに逢いたかったのに。

あんなに話したかったのに。

無意識に話した言葉はきつい言葉だった。

全ての感情が滝のように溢れてくる。

「病気を持ってるって言ってくれたら、

僕は君ともっと話してたのに。

今、僕は君を守れなかった事。

プラネタリウムの完成を見届けられなかったこと。

全てを後悔している。

そんな中でも君の言葉を胸に生きてきた。

だから……お願い。このままずっと話したい。

ごめんね。あの時の願いが届かなくて………」

あの時願った事。僕たちが願った事。

それは叶わなかった。

僕の目には涙が出ていた。

もっと楽しい話をしたかったのに。

もっと面白い話をしたかったのに。

もっと…もっと…

光の目には涙が輝いていた。

「自分勝手でごめん……」

「謝って済む問題じゃないよ。

君の身体はもう戻らないんだから。

君の命も。もう少し生きることについて

考えて欲しかった。

僕だって何千回死にたいと思ったよ。

君の元に行きたいと思ったよ。

でも、こうして生きているのはどうしてかわかる?」

「わからない」

「君が生きて欲しいと言ってくれたからだよ」

光は膝から崩れ落ちて泣き始めた。

「ごめん。ごめん……」

光はずっとごめんと言い続けた。

「顔を上げて。空を見てごらん」

光は空を見上げた。

光の体が薄くなってきた。

「もう行くの?もっと話したいよ」

「私は君に出会えて本当に良かったよ。

10年前の今日も私のことを励ましてくれた。

あの時からずっと好きだったんだ。

もう一度会えたら良いなー。

そんなことを思いながら過ごしていた。

でも、神様はそうはさせてくれなかった。

私は癌になり、入院していた。

もう会えないと思っていたある日、

君を入学式で見つけた。

私は急いで君の元に行ったけど、

君は私のことを忘れていた。

それもそのはず、だって10年経ってるもんね。

同じ天文部に入った時は運命を感じたね。

まるで彦星と織姫のような。

君との恋愛と同時進行で癌は進んでいき、

私は自殺を覚悟したんだ。

本当にごめん。でも、君に会えて良かった。

君が私の生きがいだったから。

今までありがとう。

そういえばあの時、君は私の願い事が叶うように

願ったよね。じゃあ私は君に生きて欲しい。

もっと星について知ってほしい。

もっといろんな世界を見てほしい

後悔が無いように生きてね

さようなら」

僕は泣きながら

「願い事は黙って言うんだよ」と言った。

君は今まで1番の笑顔を見せた。

光の体はどんどん薄くなっていく。

「光。僕は生き抜くよ。たとえ辛いことがあっても」

「名前で呼ばれると恥ずかしいね。ありがとう」

光は消えて空に上っていった。

お父さんが言っていた

『人は死んだら星になるんだよ』

君も星になるのかな。

君はどの星になるのかな。

光は消えていく瞬間、何かを言ったような気がした。

あまり聞き取れなかったが、何となくわかった。

僕は心の中で

ハッピーバースデー君と僕。

そう言って健吾の元に向かった。

花火と流れ星は終わっていた。

君にもう1度会えて良かったよ。

占い師に感謝しないと。

これからも僕の心の中でずっと生きている。

僕は鞄につけたルビーを強く握りしめ、

もう1度空を見上げた。


『君の願いが叶いますように』

『ありがとう。でも、願い事は黙って言うんだよ』

『そうなの?』

『私も君に会えて良かったよ。宝石もらえたし』

『それなら良かった』

『私も君のことを願うよ』

『いつまでも君といられるように』

『願い事は黙って言うんだよ』

『さっき聞いた気がするな』


光。僕は君のために生きるよ。

だって君が願ったんだもん。

今日は星と花が降る夜。

絶対に願い事は叶う。いや叶えて見せる。

君が出来なかった事。君がしたかった事。

君にも僕の将来を見てほしい。

僕はこれから理科の教師になるよ。

色んな人に星の素晴らしさを知ってほしい。

七夕に産まれたからにはそれぐらいはしていきたい。

君が織姫だとしたら僕は彦星なのかな。

君にふさわしい彦星になれるように

これから頑張るよ。

100年後、僕は君に会いに行くよ。

アルタイルになって。

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星と花が降る夜に 緑のキツネ @midori-myfriend

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