第9話 最後の七夕祭り
目覚ましが部屋中に鳴り響き、
いつも通りの朝が始まる。
目を擦りながら壁に貼ってあるカレンダーを見た。
そのカレンダーの7のところに丸がしてあった。
「今日は……七夕か。」
7月7日。それは僕の誕生日であり、彼女の誕生日だ。
『ハッピーバースデー君と僕』
そう頭の中で聞こえてきた。
彼女が死んでもう半年が経つのか。
時の流れの早さを改めて感じた。
この半年僕は何を生きがいにしていたのか。
何で生きていたのか。
ならいっそう彼女の元に行きたい。
そう思うことが何度ももあったけど、
君のために僕は生きてきた。
君がいなかったら、僕はもう死んでたかもしれない。
カーテンを開けると外は快晴だった。
星が綺麗に見えそうだ。
リビングに向かうと、机にはパンが置いてあった。
そこに1枚の置き手紙があった。
今日は仕事だから行ってくるね。
机の上にパンを置いてるから食べてね。
今日は七夕祭りだから、ソファの上に
望遠鏡置いているから持っていきなさいね。
誕生日なのにごめんね。
帰ったらたくさん祝ってあげるから。
毎年これだ。誕生日の時に仕事が入り、
ごめんねと言う。
僕はテレビの電源をつけた。
「今日は流星群がきます。
流星群と七夕の融合です。
これは10年以来の出来事です」
今日は午後4時に健吾と約束した。
時計を見ると9時を指していた。
まだ早い気がするが、
お昼はどこかで食べれば良いし。
僕は望遠鏡を持ってチャリに乗った。
家を出るとすぐ近くに商店街がある。
暇つぶしに寄ることにした。
商店街には大きな笹が天井に掛かっていた。
懐かしさを感じた。時計は朝の9時を指していた。
まだ時間があるが、あの日と同じように
お昼は商店街で食べることにした。
リュックを背中に背負い、チャリを漕ぎ始めた。
空を見上げると青い空が一面に広がっており、
今日は今までで1番の星が見れそうな気がした。
商店街に入ると笹の葉が天井にぶら下がっていた。
どうでもいい願事ばかりが書いてある。
ラーメン屋が見えてきた。
あの店主は楽しくやってるかな。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
元気な店長がやってきた。
「1人です」
「そうか。こっちの席にどうぞって
お兄ちゃん去年のバースデーラーメンを食べにきた
人じゃない?」
「はい」
「彼女さんは?連れてくるって言って無かったけ?」
「いや……その……」
「そうか。まあ座りな。
ゆっくり話を聞いてやるから」
席に誘導され、座りメニューを開いた。
去年同様、誕生日の人半額の文字があった。
しかも去年よりボリュームが2倍になっている。
本当に大丈夫なのか?
「すいません。きょうが誕生日なので
バースデーラーメン1つ」
「今日が誕生日って最高だね」
「はい」
そこから彼女の話で盛り上がった。
店主はなんでも分かってくれている。
あまりにも店主のノリが良すぎて
ついていけなかった。
「今日の七夕祭り結局誰と行くのか?」
「友達と一緒に行きます」
「ハッピーバースデートゥーユー。
はい。できたよ。バースデーラーメン」
それは卵、海苔、チャーシュー5枚、めんま、
ネギの全てが入っており、ボリュームも
普通のラーメンの5倍近くあった。
これで半額は安すぎる。
まずはスープを飲んだ。
スープは少し濃かったが、美味しかった。
一口飲むと止まらなくて、いつのまにかスープが
半分になっていた。もちろん、麺も美味しかった。
その食べている時間は本当に幸せで
ただ自分が今日誕生日だと言うことだけ考えていた。
「ごちそうさま。めっちゃ美味しかったです」
「だろう?また来年バースデーラーメンを
食べにおいで」
「わかりました。毎年食べに行きます」
「待ってるよ」
まだ1時過ぎで約束の4時には程遠い。
何をしようか。考えていると、占い屋があった。
そういえばあの時、占ってもらったな。
何を占ってもらったか忘れてしまった。
何をみても彼女のことを思い出してしまう。
こうやって誕生日のセールや笹を見ると
改めて今日が誕生日だと感じる事ができる。
食べ終わった後、会場に向かった。
向かう途中、着物を着た同級生に何人か会った。
会場に近づくにつれ、人は増えて行った。
駐輪場に止めてグランドに向かった。
去年のことを思い出してしまう。
だから、今年は行かないつもりだった。
昨日、健吾に「彼女いない同士で回ろうぜ」
と言われて仕方なく来たが、
やっぱり涙が出てしまう。
もっと一緒にいられると思ったのに。
グランドには大きな笹があった。
その威圧感は半端じゃなかった。
笹には沢山の短冊があった。
笹の隣に短冊があって、来た人から願い事を書いて
飾るのが七夕祭りのルールだ。
健吾とは4時に待ち合わせしているので
まだ早いと思い、
みんなの短冊を見て回ることにした。
「彼女が欲しい」
「頭が良くなりたい」
「良い大学に受かりたい」
「ともだちがひゃくにんほしい」
老若男女問わずにたくさんの人が書いている。
どれもしょうもない願い事ばかりだった。
でも、僕の方がもっとくだらないかもしれない。
そんなことを思いながら短冊に願いを書きに行った。
「光輝」
後ろから呼ばれた気がして振り返ると健吾がいた。
「健吾。待ち合わせは4時じゃなかったけ?」
今の時間は2時だ。いくらなんでも早すぎる。
「それを言ったら、光輝だって早すぎるよ」
僕と健吾は顔を見合わせると笑った。
「だって、暇だったから」
「どうせ、楽しみだったくせに」
「そんなわけないじゃん」
「願い事何かいたの?」
「秘密だよ」
「見せろよ。友達じゃん」
健吾は強引に奪ってきた。
そして見て目を丸くしていた。
「え……。彼女って誰だよ」
「それは……これから出会う人のことだよ」
必死に誤魔化したが効かなかった。
「お前、真面目に考えろよ。
輪廻転生でも無理だよ」
「……うん」
空気が鉄のように重く感じた。
どうにかこの空気を変えないといけない。
すると、同級生の2人がポテトを持って歩いていた。
そうだ。屋台に行けば良いんだ。
七夕祭りの屋台は12時から空いていて、
お昼をここで食べる人も多い。
「またいつか話すから」
「それより、屋台に行こうや」
「ああ。良いけど」
僕たちは屋台に向かった。
屋台が沢山あった。
りんご飴と綿菓子とポテトと射的と
スーパーボールすくいと焼きそばなどがある。
僕たちはまず、射的に向かった。
射的の的は青と白と黄色と赤の星が4種類ある。
青の星は一番小さく当てるのが難しいのに対し、
赤の星は一番大きく簡単に当てれる。
これは星の寿命と関係している。
誕生してすぐの星は青色であるのに対し、
1番年をとっているのが赤色である。
全て彼女から聞いた話だ。
健吾が100円払って打ち始めた。
狙いは青の星らしい。
当たれば健吾が好きそうなカードが手に入るが、
どうだろうか。
健吾の一発目。
放った球はまっすぐに進み、
青の星の微かに上を通過した。
思ったより惜しかった。
「うわあー。悔しい」
「次は行けるよ」
健吾の2発目は青の星を綺麗に捉えた。
3発目。
まっすぐ飛んだ球は青の星をまた捉えた。
合計ポイントは20ポイント。
健吾は嬉しそうな顔をしていた。
好きなカードを2枚選び、
「次は光輝の番だぞ」と言った。
僕が射的をしようとした時、
ある言葉が蘇ってきた。
『私、星が好きだから。打ちたくないの』
「次のところ行こうぜ」
「えっ!?お前射的やらないの?」
「星が好きだから」
「何だよそれ笑笑」
その後、ポテトやかき氷を買って食べながら
グランドに戻ってきた。
時刻は6時。そろそろ花火が始まる頃だ。
その時、星が降ってきた。
そうだ。今日は流れ星が見えるんだった。
流れ星を見るとあの日の記憶が蘇る。
僕が願おうとした時、ひゅーーと音がした。
ドッカーン
花火が空に打ち上がった。
花火と流れ星。
星と花が咲き乱れていた。
そうだ。あの時も。
やっと思い出した。
君と初めて出会った日も星と花が咲き乱れていた。
僕は目を瞑り願った。
「君にもう1度逢いたい」と。
星と花。どこかで聞いたことがあるが、
どこで聞いたのか。
目を開けて隣を見ると健吾がカメラを持っていた。
『カメラで撮ったら、その撮っている1分が
無駄になるよ。記憶を残すより、心に残した方が
良いと思うよ』
「健吾、カメラで撮ったらダメだよ。
心に残さないと」
「それもそうだな」
健吾は素直に受け入れ、カメラをしまった。
僕は光から色んな事を教わった。
だからこそ恩返しがしたかったのに。
「おーい」
と呼ばれた声がした。
「おい、健吾。なんか言った?」
「いや。何も言ってないよ」
健吾だと思ったけど、健吾じゃないのか。
じゃあ誰だ?
「おーーい。元気?」
「なんか聞こえない?」
「聞こえないけど」
僕にしか聞こえないのか。
「光輝君。久しぶりだね」
この声はどこかで聞いたことがあるような。
僕は声のする方向に行ってみた。
森の奥に入るとそこには光が立っていた。
「え、なんで?」
「久しぶりだね」
僕には意味が分からなかった。
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