第8話 文化祭の星

2学期の始業式がおわり、ホームルームが始まった。

「これから2学期です。

2学期は2週間後に文化祭があるのでそれに向けて

部活やクラスで催し物をします」

催し物か。何をするんだろう。

焼きそばとか作るのか。ゲームを企画するのか。

楽しみでいっぱいだった。

「ただ一年生は全員、回るだけなので

先輩たちが出す催し物を楽しんできてください」

その瞬間、一気に気持ちが急転直下した。

ただ回るだけなんて楽しくもないし、

面白くもないし。

でも、部活では出来るのかな?

部活に行ってみると、光が待っていた。

「光さん久しぶり」

「久しぶり」

「何でライン無視したの」

「ごめん。色々あって」

「大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「僕たちって催し物するの?」

「するけど……何しようか?」

しばらく沈黙が続いた。

何か無いのか。楽しそうな催し物は……。

頭の中にある言葉が浮かび上がってきた。


『皆さん。こんにちは。ようこそコニカミノルタ

プラネタリウムへ。皆さんを素敵な銀河に

連れ行きましょう

今回は春の大曲線について話しましょう。

春の大曲線とは大熊座の北斗七星から

牛飼い座のアルクトゥールスと乙女座のスピカを

結んだカーブのことを言います』


そうだ。プラネタリウムだ。

「プラネタリウムとかどう?」

「いいね。それ」

それから、プラネタリウムの設計図を立てて、

プラネタリウムを作り始めた。

しかし、光は2日に1回休むようになっていた。

そのおかげで全然進まなかった。

1週間してようやく骨組みが完成した。

「この調子で間に合うの?」

文化祭まであと1週間だ。終わる気がしない。

「大丈夫だよ。健吾君とあまちゃんがいるから」

そうか。あいつらなら絶対に手伝ってくれるだろう。

次の日、僕は健吾にお願いした。

「なあ、健吾。一緒にプラネタリウム作って

くれないか。時間がないんだ」

「良いよ」

やっぱり健吾はいいやつだ。何でも分かっている。

「ありがとう」

天音も来て、4人でプラネタリウムを仕上げていった。

文化祭前日、光がアナウンスをして、

僕は星を見ていた。

「今回は春の大曲線について話しましょう

春の大曲線とは大熊座の北斗七星から

牛飼い座のアルクトゥールスと乙女座のスピカを

結んだカーブのことを言います」

あの時のアナウンサーの真似をしていた。

そして、春の大曲線が浮かび上がった。

「これで完成だね」

「明日が楽しみだなー」

光がマイク越しに言った。

「最高の文化祭にしようね」

「うん」

家に帰っても眠れなかった。明日が文化祭。

それを思うと興奮してくる。

僕は光のことを大好きなのかもしれない。

もうとっくに好きというパラメーターが

傾いているのかもしれない。

僕はゆっくりと目を閉じた。


目が覚めると目の前に光がいた。

何でここにいるの?意味がわからなかった。

すると、光の体がだんだん薄くなっていった。

「光、大丈夫?」

「今までありがとう。さようなら」

その瞬間、光が空に上り、星になった。

「待って」


気がつくとそこは自分のベットだった。

夢だったのか。

ピロリン

ラインがきた。僕は震えながらそのラインを

確認した。

公式ラインからだった。

「何だ。公式か」

ピロリン

続けてきた。見てみるとそこには光の文字があった。

「今までありがとう。さようなら」

え……。

それはお母さんの友達から来た最後のメールと

同じだった。

まさか……。

僕は急いで学校へと向かった。

お願い。死なないでくれ。お願いだから。

学校へ着いた時、光は倒れていた。

「大丈夫?大丈夫か?」

首に手を当てたが、息はなかった。

「何で?何で?何で?」

自殺をした理由が分からなかった。

涙が溢れた。

僕の精神はぶっ壊れた。

意識が朦朧としてきて、倒れてしまった。

気がつくと、保健室にいた。

「大丈夫?気を失っていたみたいだけど」

大丈夫。そんな言葉では片付けられない。

今でも信じられない。

「何で光は死んだんですか?」

「実は伊藤さんは癌を持ってたの。

余命はあと1週間。

確か、今日が手術の日って言ってた気がするけど」

あんなに楽しそうだったのに。

あんなに一生懸命作ったのに。

光は手術だったのかよ。

教えてくれたら良かったのに。

「何で僕に相談してくれなかったのか」

「君を心配させたくなかったんじゃない?」

「そうか……」

プラネタリウムには誰もいなかった。

それもそのはず。開園してないから。

光と一緒にやるはずだったのに。


『私は同じ入学生の光(ひかり)だよ。

生徒代表挨拶をするんでしょ。

緊張するのはわかるけど頑張って!

応援してるよ』


『ねえねえ。これにしようや』


『最高の文化祭にしようね』


思い出が次々に甦る。

僕は天文部の部室に向かった。

鍵が開いていた。やっぱりここに来てたのか。

中に入ると手紙が置いてあった。

その手紙を開いた。


光輝君へ

今まで黙っててごめん。

私は肺に癌を持っていて、余命があと1週間なの。

だから今日手術を行わないといけないの。

文化祭したかったのになー。

その手術の成功率は1%。もう99%無理なんだよ。

だから、私は自殺を決意した。

本当にわがまま言ってごめんね。

入学式の日、たまたま通りかかったら君がいて、

びっくりしたの。

本当に君に会えて良かったよ。

何も言えなくてごめんね。

言う勇気がなかったの。

君を心配させたくなかったの。

その優しさだけは汲んでほしい。

今までありがとう。

あ、隣に赤い石が置いてあるでしょ?

これは昔、君からもらったものだと思い出したんだ。

ルビーの意味は純愛。

さようなら。


                   伊藤光より

その手紙の隣には赤い宝石があった。

僕があげたもの?あげた記憶がなかった。

もう少し僕を頼って欲しかったのに。

僕の足は無意識に屋上に向かっていた。

僕も君のところに行きたいよ。

君に会いたいよ。

僕は前に進んで行った。

下を見ると多くの人がいた。

そうだった。今日は文化祭だった。

ここで落ちたら誰が見つけるんだろう。

飛び降りようとした時、

『待って』

どこからか声が聞こえた。

誰だよ。どこにいるんだよ。

周りを見てもどこにもいなかった。

誰だったのか。その時、ある記憶が蘇った。


『星って200万年生きるんだって。

良いなー。私も星になって200万年ずっと

光輝くんと一緒にいたいなー』


足が止まった。光のためにも生きないと……。

僕は屋上を後にした。


光の葬式は開かれなかった。

光への悲しみは拭えなかった。

屋上は再び使用禁止となった。

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