第4話 東京に輝く星
4月の終わりのことだった。突然の謎のラインに困惑していた。
「東京に行こう」
意味がわからない。ここは広島だ。
東京に行くには4時間ぐらいはかかるし、
お金もかかってしまう。
いつ行くのか、どこに行くのか。
疑問で溢れていた。
「なんで?」
「東京に1泊2日で星を見に行こう」
わざわざ東京で星を見る意味があるのか。
「何で東京なん?」
「普通に楽しいじゃん」
東京=楽しいというのがあるかららしいが、
行きたい気持ちよりダルい気持ちが勝っていた。
それから1時間のやり取りの結果、
東京に強制的に行かされる事になった。
これは一種の誘拐だ。
でも、何を言ってももうダメだとわかり、
ゴールデンウィークの2日間を光と過ごす事にした。
そして、旅行当日。
尾道駅に僕たちは朝の8時に待ち合わせをした。
僕は7時50分ぐらいに着いて待っていた。
10分経ち8時になったが、未だ来ない。
風邪をひいたのか。病気になったのか。
急用が入ったのか。
でも、自分的には良かった。
本当はゴールデンウィークずっと寝ていたかった。
8時10分になり、帰ろうとした時、
「お待たせー」
肩が縮まった。後ろを振り返ると、
光が大きいリュックサックを持ってやってきた。
たった2日間なのに。そんなにいるのか。
まるで1週間旅行するような格好だった。
「ちょっと支度してたら遅れちゃって」
「10分待ったけど」
「じゃあ早速行こうよ」
僕の待った苦労を無視して駅に向かった。
僕は呆れながら光について行った。
新幹線に乗り、東京を目指した。
その間、ずっとトランプやUNOをやった。
光は7並べや51などの頭を使うゲームが苦手なので、
3時間ずっとババ抜きだった。
もうジョーカーを見るのにうんざりしていた。
たまにするUNOもなかなか終わらない。
後の1時間は寝ていた。
目が覚めたとき、
「次は東京。お出口は左側です」
アナウンスが鳴り響き、やっと着いたかと
一安心した。
長かった地獄からやっと解放された。
地面を踏む感覚も無くなっていた。
「まずはバスに乗ろう!!」
腕を掴まれて連れて行かれた。
結構強く握られた。
バスに乗りながら今日のスケジュールを
聞かされた。
「まずは東京スカイツリーに行って
次にどこかでお昼食べてまた移動して、
ホテルに泊まる」
今日だけで何万円使うか。
怖くて手が震えていた。
でも、もう吹っ切れた。
光と一緒にいられる事。それを楽しもう。
そして告白をしないといけない……。
電車に乗って30分、スカイツリーがある駅に着いた。
スカイツリーは目の前で見るととても高かった。
「うわあー高いなー」
それもそのはず。634mもあるのだから。
早速中に入ると、エレベーターに乗り、
天文デッキを目指した。
天文デッキに着くと、僕の足はエレベーターから
動けなかった。
「どうしたの?早く東京の街並みを見に行こうや」
僕の足は固まっていた。
勇気を振り絞って一歩を踏み出したがすぐに
後退りしてしまった。
僕は昔から高所恐怖症だった。
前回行った天文台はギリギリ大丈夫だったが、
ここまで来るともう……。
「行こう」
光に腕を掴まれて連れて行かれた。
気がつくと透明の床の上にいた。
「した見てみて」
下を見てみると足と頭がぶっ壊れて
頭の中でアラームが鳴っていた。
危険区域だ。ここは人が入ってはいけないところだ。
落ちたらどうするのか。もしこのガラスが
割れて落ちたらどうするつもりか。
隣を見渡すと、10人ぐらい乗っていた。
10人も乗ると落ちるかもしれない。
落ちたらどうなるのか。落ちる瞬間、
僕は何を思うのか。これを走馬灯と呼ぶのか。
お母さん、お父さん、昔死んだお姉ちゃん、
今までありがとう。
僕はもう死ぬかもしれない。
「何やってるの?落ちるわけないじゃん」
光が近くにやってきて、そこでジャンプをする。
僕は今度こそ死を覚悟した。
顔には涙が流れてきた。
「うわーーーーーー!!!」
僕は大声で叫んだ。周りの人なんか気にせずに。
それぐらい怖かった。
もう無理だよ。
光は仕方ないような顔をして僕を元の床に戻して
くれた。
「あ……ありがとう」
「こっちこそごめんね」
光も少し反省しているようだった。
「お詫びに何か買いに行こうや」
「うん」
エレベーターで下に降りて、ショップに行った。
スカイツリーのソラカラちゃんのグッズや
ソラカラちゃんにちなんで星のグッズもあった。
「ねえねえ。これにしようや」
と可愛らしい声で言ってきた。
見てみると、東京スカイツリーの模型の
色違い2つだった。
1つが青でもう1つが赤。
「僕も買うの?それを?」
「もちろん。お揃いのを買うの」
これをお揃いというのか。少し議論はあるが、
僕の今までの憧れであったお揃いだ。
少し照れくさいが
「良いよ」と返事をした。
「じゃあそっちも買ってね」
「お詫びじゃないのかよ」
「買ってあげるとは言ってないからね」
光はそうやって嫌なことを人に押し付ける癖がある。
透明床も今回のキーホルダーも。
でも、そんなところが僕は好きなのかもしれない。
仕方なく、自分の物は自分で買うことにした。
買ったキーホルダーはスマホにお互いつけた。
「これって恋人みたいだね」
確かに。言われてみれば、僕たちは恋人では無い。
ただの友達なのだ。そんなことをして良いのか。
買い物を終えた僕たちは近くのカフェでお昼を
食べることにした。
僕と光は同じパンケーキを食べることにした。
パンケーキは安くて美味しいからコスパが良い。
パンケーキを食べて外に出たら光が腕を掴んで
「じゃあ次の場所へ行こう」
次の場所ってどこだよ!?
歩くこと5分、ある建物に着いた。
そこにはコニカミノルタプラネタリウムと
書いてあった。
何だよこの名前は。コニカミノルタって何?
そんな疑問を思っていたら、
勝手に光が受付に行っていた。
きっと予約をしていたのか。
あっという間に中に入れてくれた。
中に入るとそこはドーム状の施設だった。
「この雲の椅子に座ってみよう」
「雲の椅子?」
光は雲の椅子に座って上を見上げていた。
僕も雲の椅子に座った。とても柔らかった。
「もうすぐプラネタリウムが始まるよ」
「プラネタリウムは初めてかもしれない」
僕はこの15年間の人生で1回も
プラネタリウムを見たことがない。
「君はあるの?」
「1回だけあるよ」
「いつ?」
「私が2歳の時かな」
「そんな昔のこと覚えてるの?」
「微かに覚えてる」
僕なんか小学生のことすら覚えてないのに。
人がどんどん集まってきた。
開始時間まであと5分を切った。
「これからナレーションがいろんなことを
教えてくれるらしいからしっかり聞くんだよ」
「分かった」
すると突然、暗くなりプラネタリウムが始まった。
「皆さん。こんにちは。ようこそコニカミノルタ
プラネタリウムへ。皆さんを素敵な銀河に
連れて行きましょう」
ナレーションが挨拶をした後、
小さな歌が流れて、真上に星空が浮かび上がった。
「今回は春の大曲線について話しましょう」
春の大曲線はもちろん聞いたことが無かった。
そもそも季節系のやつは夏の大三角しか知らない。
「春の大曲線とは大熊座の北斗七星から
牛飼い座のアルクトゥールスと乙女座のスピカを
結んだカーブのことを言います」
何を言っているか1つも分からない。
アルクトゥールスって何だよ。
世界史の人物のような名前だ。
最後にスがついたら世界史の人物だ。
横を見ると光は分かってそうな顔をしていた。
その時、真上に春の大曲線が浮かび上がった。
「うゎー綺麗だなー」
隣から聞こえてきた。
その後も星座の話が色々あった。
プラネタリウムが終わり、時間は15時になっていた。
そろそろホテルを探さないといけない。
ホテルはどこなのか。とても気になっていた。
「ホテルはどこなの?」
「あそこだよ」
光が向こう側を指差した。
その方向に目をやると、ラブホと書かれていた。
「ラブホ!?」
「その奥だよ」
その奥にはちゃんとしたホテルがあった。
「良かったー」
「何考えてたの?」
光がずっと聞いてくるが無視してそのホテルに
向かった。
ホテルに着き、受付を済ませて中に入る。
そこは天文部の部室と同じぐらいの
8畳ぐらいの部屋だった。
「一部屋だけ?」
「2部屋なんか頼めるはずがないじゃん」
「そうか」
「じゃあ寝る時は1つのベット!?」
「そうなるね」
「じゃあババ抜きしようよ」
ババ抜き。その言葉は僕にとって地獄の言葉だ。
朝の記憶が蘇る。
「飽きないの?」
「飽きるわけないじゃん」
飽きない意味がわからない。
普通なら10回もしたら飽きるのに。
もう100回はやった気がする。
そもそも、ババ抜きのどこが面白いのか。
1つもわからない。
ただ2人でトランプを引く。自分にババが無かったら
必ず相手が持っている。
4人から5人でして誰がババを持ってるか
考えるから楽しいのであって、
2人のババ抜きなんて楽しくない。
「嫌です」
「じゃあ明日もスカイツリーに行かせるよ」
スカイツリー。嫌な記憶が蘇る。
あんなところ2度と行きたくない。
一種の脅しのように感じた。
「分かったよ」
また地獄の時間が始まった。
外が暗くなり、そろそろ夜ご飯だろう。
ババ抜きの途中で
「そろそろ食べに行こうや」
「そうだね。この1回が終わったらね」
やっぱり終われなかった。
それからその1回が永遠に続き、気がつけば
真っ暗になっていた。光のお腹の音が鳴り、
やっと外に出て、レストランに行くことになった。
「もう疲れたよ」
「私は楽しいけどね」
「本当にすごいわ」
歩いてすぐのレストランで僕たちはハンバーグを
頼んだ。
ハンバーグが来るまでの間、いろんな話をしていた。
「君って兄弟いるの?」
「弟が1人いる」
「どんなやつなの?」
「めちゃくちゃ私を思ってくれて、優しい人。
一回入院した時もずっと見守ってくれた。
私と同じでバカだけど笑笑」
「そうなんだ」
なんとなく絵が浮かんできた。
「光輝君は兄弟いるの?」
「いないよ」
「えー。意外だな」
「そんなに意外?」
「うん。いそうな気がした」
そんな話をしていると、ハンバーグが届いた。
「うわあー美味しそう」
光は美味しそうに食べてる。
そんな顔が愛しい。もっと見ていたい。
僕も光に続いて食べたが、あまりにも美味しすぎて
倒れてしまいそうだった。こんなものがこの
世の中にあるのか。
食べ終わり、ホテルに帰った。
光がお風呂に入っている間、
理科の教科書を開いて読んでいた。
コロン
何かが落ちる音がした。
それは光のカバンから聞こえた。
光のカバンの周りを探していると、
そこにはルビーの宝石があった。
「何してるの?」
タオル1枚の光が立っていた。
胸が少し見えそうで心臓の音が速くなるのが
自分でもわかった。
「何でその格好なの?」
「嫌だ?」
「早く服着てきて」
「そんなに言わなくても良いじゃん」
光が服を着て戻ってきた。
「ねえ、このキーホルダー何なの?」
「これはね昔、大切な人からもらったの」
「大切な人?」
「誰かは覚えてないけど」
何か引っかかるところがあったが、
そこは置いといて理科の教科書を開いた。
「何の勉強してるの?」
「期末まであと少しだから用語を
覚えようと思って」
「意外と勉強熱心なんだねー」
「こう見えても成績は今までで7以下はとったこと
無いんで」
「うわー嫌味だわ。私は3と4のパレードだけど」
「3って5段階評価の2じゃんやばく無い?」
「大丈夫。留年はしてないから」
留年をするかしないかの問題じゃないとは
思うけど。
「風呂に入ってきなよ」
僕も風呂に入ってきて、上がってみると
部屋は暗くなっていた。光がベットで寝ていた。
時間はまだ11時なのに。
僕は光の隣に行き、寝ようとした。
隣には光の顔がアップで見えて、
顔が赤くなったのを布団で隠しながら寝た。
次の日、朝早く起きて新幹線に乗り、家に帰った。
勿論、帰りもババ抜きしかやらなかった。
ババ抜きの途中でラインの着信音が鳴った。
ライン見てみるとそこには健吾から
「今、デート中だろ?」
「もうすぐだろ。告るとしたら」
告白か。そのことを考えていなかった。
僕の思いを伝えないといけない。
今しかない。僕は覚悟決めて言おうとした。
「光、話したいことがあるんだけど……」
前を向くと光は目を瞑っていた。
「楽しか……ったなー」
寝言を言っていた。僕はグッと堪えて
空を見上げた。
まだ告白する時じゃない。
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