第2話 ベガとの出会い

プルルルプルルル

電話の着信音が微かに聞こえてきた。

ここは?夢か。現実か。目を開けてみると、

自分の部屋だった。眠たい目を擦りながら

電話に出た。

「も、しもし」

「おはーーーよう!!!!」

耳の鼓膜が破れそうなくらいの大きな声だった。

「何だ。健吾か」

「何だってこの時間にかけるのは俺くらいだろ」

「それもそうだな」

「早く着替えろよ。もうコンビニで待ってるよ」

電話は切れた。急いでパンを食べて、

まだ慣れてない制服を着て、チャリに乗り、

高校へと向かった。

チャリを漕いでいると桜が目に入る。

桜は別れと出会いを感じさせてくれる。

いよいよ高校生活の始まりか。

楽しみでいっぱいだった。

高校生といえば、恋愛や友達との遊びなどを

総称して青春と呼ばれる。

僕は本を読むのが好きで、恋愛小説を沢山読んだ。

その8割ぐらいが高校生が舞台だった。

特に恋愛は楽しみだ。

僕には恋という感情が分からない。

それもいつかわかるのかな。

家を出てすぐのコンビニで健吾が待っていた。

「おーーい」

健吾の声が聞こえた。

何ヶ月ぶりだろうか。春休み以降、

会っていなかった。

「おはよう。これからもよろしく」

「こっちこそよろしく」

健吾は嬉しそうに僕を見ていた。

健吾の目に映っていた僕も笑顔だった。

「じゃあ行こうぜ」

僕たちはチャリを漕ぎ始めた。

それから、今までの思い出話や宿題についての

話をした。

次第に話は今日の話に変わっていった。

「お前さ今日生徒代表挨拶だろ?大丈夫か?」

そうだ。この健吾と話していた30分間忘れていたが、

僕は今日の入学式の生徒代表挨拶を任されている。

言われたのは先週のことだった。

まだ太陽が少ししか登っていない

薄暗い早朝のことだった。

突然電話が鳴り響いた。

それは僕の目覚まし時計となった。

こんな時間にいったい誰だよ。

頭おかしいだろ。お母さんは出張に行っていて、

お父さんは癌で亡くなってしまったため、

おばあちゃんが毎日来てくれるが、

この日は1人だった。

僕はリビングの固定電話に向かった。

その電話番号に見覚えがあった。

えっ!?これって。

電話に出てみると予想通りだった。

中学校の担任からだった。

「早朝に電話かけてごめんね。

あの入学式の生徒代表挨拶を

任せたいんだけどどう?」

意味が分からない。なんで僕なんだ。

ああいう生徒代表挨拶は出席番号が1番の人が

やるんだと思っていた。

僕のおでこに汗が出てきた。

そんなの……無理だよ。

本番は先輩たちもいる中で噛むことは出来ない。

「ごめんなさい。僕には無理ですよ」

僕は勇気を出して断った。

他にも沢山いるだろう。

すると、思いもよらない返事が返ってきた。

「どこの中学生にも当たったんだけど

皆、断ったらしくて……。

星野くんしかいないんだけど、

この危機を救ってくれない?」

危機を救うって僕はどこそのヒーローかよ。

ここで嫌ですと断ればこの負のスパイラルが

永遠に続く。どうすればいいのか。

僕の天秤はやる方に傾いていた。

もうやるしかないのか。

「わかりました。じゃあやりますよ」

仕方なくそういうと、先生は嬉しそうな声で

「ありがとう。じゃあ原稿はメールで送るから」

「最後に聞きたいんですけど何で僕なんですか?」

「星野くんは生徒会長だったからだよ」

そうか。生徒会長だったからか。

生徒会長になったのは全部健吾のせいだった。

あいつが勝手に立候補させたのだ。

僕は仕方なく演説したらあまりにも良かったらしく、

8割近くの票獲得して生徒会長になった。

生徒会長になったからと言って

やる事はそんなになかったから、

すっかり自分が生徒会長であることを

忘れていた。

「頑張ります」とだけ伝えて僕はベットに入った。

あれは夢だと思っていたが、ちゃんと原稿がメールで

届いた。それから3日間、必死に練習して

今日を迎えるが、そのことを考えると

手汗が止まらなくなった。

「健吾ー。大丈夫じゃないよ」

僕の声は震えていた。

心臓の鼓動がロックを奏でていた。

「まあ大丈夫だよ。自信持って」

「元をいえば健吾のせいだからね」

「まあまあ。そんなことを言うなよ」

そんなことを話していたら高校に着いた。

ここが今日から3年間暮らす高校か。

あまり大きくはなかった。

それもそのはず、ここは小さな県立なのだから。

本当は私立に行きたかったが、

うちの家族は貧乏なため、

「公立に行け」と散々言われた。

だからしかたなく、近くの普通科がある高校に

受験した。

頭はそこそこ良かったため、勉強しなくても

受かる事が出来た。

僕は玄関に行くと、クラスが貼ってあった。

僕と健吾は同じクラスだった。

「健吾と同じクラスだね」

「よろしくな」

僕たちは教室に向かった。

教室に入ると空気が一気に変わった。

知らない人ばかりで

これから果たしてやっていけるか。

いじめに遭わないか。

楽しみだった高校生活が一気に不安に変わった。

全員揃い、先生が来て挨拶をする。

入学式の会場についに移動した。

僕の心臓は張り裂けそうだった。

はあー。もーだめかもしれない。

頭が痛くなり、お腹も痛くなった。

一旦僕は会場外に出ることにした。

開始まであと3分を切った。

挨拶のことを考えると吐き気がしてくる。

こんなに緊張した事は無かった。

あの生徒会長の演説は先輩がいなかったから

あまり責任を感じなかった。

けど今回は300人近くの先輩たちがいる。

この場から逃げ出したかった。

「君、大丈夫?」

知らない声が聞こえた。顔を上げるとそこには

1人の女子高生がいた。

「あなたは?」

「私は同じ入学生の光(ひかり)だよ。

生徒代表挨拶をするんでしょ。

緊張するのはわかるけど頑張って!

応援してるよ」

その言葉で僕の緊張は少し晴れた。

彼女は会場に戻っていった。

何か変な気持ちがするが、それは置いといて、

今は挨拶に集中するぞ。

期待している人がいるのならそれなりに頑張るぞ。

そんな気持ちになり、心拍数も少し落ち着いた。

会場に戻り、入学式が始まった。

校長先生の話が終わり、いよいよ

生徒代表挨拶がきた。

「入学生代表挨拶。代表星野光輝」

大きな声で呼ばれた。僕は返事をしたが、

少し裏返ってしまった。

どうせ皆笑ってるだろうが、僕には関係なかった。

ステージに上がり、周りを見渡すと

全生徒が目に見えた。

「桜が舞う季節に僕たち100人は

入学しました……」

それから緊張の1分半が続いたが、

なんとかやる事が出来た。

拍手が起こった。

何とか終わった。これで緊張から解放される。

無事に入学式が終わり、緊張の1日が終わった。

「お疲れ」

健吾が僕の背中を叩いて言ってきた。

「ありがとう」

でも、なんかまだ変な気持ちがしていた。

「なあ、健吾。まだ何か変な気持ちがするんだけど

何だと思う?」

「いつからなん?」

いつからと言われると、光に出会ってからだ。

「同じ入学生の光っていう人に会ってからかな」

健吾は笑い始めた。

「何がおかしいんだよ」

「それってもしかして一目惚れじゃない?」

一目惚れ。本で読んだ事があるが、

僕は光に恋をしているのか。

いや、そんなはずがない。まだ1回しか会ってないし。

あまり、可愛いとは思わなかったけど。

「そんなわけないじゃん」

「明日からその光っていうやつを探しに行こうぜ」

「相手がかわいそうだよ」

「まずはアタックが大切なんだよ」

健吾は1回だけ彼女がいた事がある。

それは、中学1年の春のことだった。

突然、健吾が嬉しそうに近づいてきた。

「どうしたの。健吾」

「おーれ、付き合っちゃった」

「えー!?誰と?」

「真央ちゃん」

真央は僕たちといつも一緒に帰っていた人だ。

そんな身内同士で、僕はビックリしたが、

とてもおめでたいことだ。

でも、別れたのは早かった。

それから2ヶ月後、健吾が落ち込んでいた。

何度大丈夫?と言っても答えてくれなかった。

そんな健吾からもらったアドバイス

『アタックが大切なんだよ』

がずっと頭の中を回っていた。

健吾が恋愛の話をずっとしていたが、

頭に入らなかった。

これが恋なのか。アタックか。

「じゃあまた明日ね」

健吾と別れてもずっと考えていた。

家に帰って外に出るとそこには無数の星が

彩っていた。

僕は星のことはあまり知らないが、

星を見ているといろんなことを忘れることができる。

星を見る時間は自分にとってまさに

天国のようだった。


次の日も早く起きて健吾と一緒に学校に向かった。

学校に着くと、すぐに健吾は僕を連れて

他のクラスに向かった。

「その光ってどんなやつなんだ?」

あの時は緊張していたため、

あまり覚えていなかった。

微かな記憶を辿りにせつめいする。

「えっーと。髪はショートで、大人っぽい」

「そんなやつ無数にいるけどな笑笑」

すると、そこに1人のショートの女子高生が

やってきた。

「あいつはどうだ?」

でも、どこか違う気がする。

「いや違うと思うよ」

それから朝のホームルームまで

いろんなクラスを探そうとおもったが、

歩き回っていると知らないところにいた。

まだ2日目で場所はあまり把握してなかったため、

迷子になってしまった。

「健吾、ここどこだよ」

「しらねぇよ」

前に進んでいると謎の階段を見つけた。

その先に扉があった。

「これって屋上じゃない?」

「楽しそうだな〜」

健吾は楽しそうに階段を登っていた。

僕も健吾についていった。

階段を登り切ると張り紙があった。


ここから立ち入り禁止   by校長


「屋上は無理だって」

「まじか。面白くないなー」

仕方なく下に降りた。健吾は悲しそうだった。

健吾はやっぱりわかりやすいなー。

感情がすぐに表情に出るんだから。

それよりここはどこなのか。

焦っていると目の前に校内マップがあった。

ここは教室の真反対のところだった。

「やっと帰れるわ」

「もとは健吾のせいだからね」

ゆっくり教室に帰ろうとしたとき、

キーンコーンカンコーン

チャイムが鳴り響いた。

「やばい!?」

僕たちは急いで教室に向かった。

早速遅刻なんかいやだよ。

反省文とかいやだよ。

教室に入ると先生の顔は赤かった。

「君たち、何をしていたの?」

これが強く震えていた。

「学校を散歩してました」

クラスの全員が笑った。

「まあ最初だからまだ許すけど次は反省文ですよ」

「わかりました」

何とか反省文は回避したが、僕たちにもう

2回目と言う文字は無かった。

そうして、地獄の4時間が始まった。

先生の話は川のように綺麗に流れていく。

どこにいるんだろう。

結局探すことが出来なかった。

会いたいなー。

そんな事を思っていた。

休み時間に窓を見ていると、そこに見覚えのある

女子高生が玄関に入ってきた。

「あ!?あの人だ!」

大きな声をあげて僕は走り出した。

「おい。光輝どこに行くんだよ」

後ろから足音が聞こえた。

きっと健吾だろう。僕の足は止まらなかった。

「あのー。光さん」

彼女と目が合った。また鼓動が速くなる。

「昨日はありがとうございました」

「別にいいよ。君、めっちゃ緊張してたから」

「あのー。苗字って何ですか?」

「あー。言ってなかったか。私は伊藤光。よろしく」

「僕は星野光輝です。よろしくお願いします」

彼女の顔が少し変わったが、すぐに笑いながら、

「敬語じゃなくて良いよ。同じ学年なんだし」

と言い、彼女は去っていった。

「どこのクラスなんですか?」

と聞こうとしたときにはもう彼女は

階段で上がっていた。

これ以上追いかけても無理だろう。

「結構かわいいじゃん」

健吾が羨ましそうにやってきた。

「LINEとか交換しないといけないな」

「あ!?忘れてた」

僕たちは笑い合った。

次に会うときにはLINEを交換しよう。

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