星と花が降る夜に

緑のキツネ

第1話 プロローグ

10年前の七夕。

僕はお母さんからルビーの宝石をもらった。

「これは7月の宝石なのよ。大切にしてね」

お母さんが勝手に買ってきたルビーに僕は怒った。

「何でこんなもの買ってくるの!

僕はおもちゃが欲しいの!!」

ルビーの価値なんか分からない。

高いかどうかも分からない。

それなら遊べるおもちゃの方が良い。

お母さんは呆れて

「この宝石はあなたにあげるわ。

いらないのなら誰かにあげても良いし。

どこかに捨ててきても良いよ」

「分かったよ。おもちゃ買ってきてよ」

「また今度ね。それより今日は七夕祭りでしょ。

そろそろ準備しないと」

僕は準備をして、お父さんと七夕祭りに向かった。

高校のグランドには大きな笹があった。

僕も短冊に願い事を書くことにした。

「何にしようかな」

お父さんは先に書いていた。

「お父さん。何書いたの?」

「収入が安定しますように」

「しゅうにゅうって何?」

「知らなくて良いよ」

何を書こうか。5分ぐらい悩んだ結果、

「おもちゃが欲しい」と書いた。

我ながら最高の願い事だ。

もうすぐ花火が上がる。

花火と共に願うことで叶うらしい。

「見ろ。光輝。星がきれいだろ」

「綺麗だね」

「良いか光輝。人は死んだら星になるんだよ」

「星になる?」

星になる。意味がわからなかった。

「そう言われている」

「それって選べるの?」

「選べるよ。本人が強く望めば」

「じゃあ僕は彦星かな」

「アルタイルだな」

「アルタイル?」

「彦星の星の名前だ。織姫がベガだ」

「そうなんだ」

そんな事を話していると、

カウントダウンが始まった。

僕はワクワクが止まらなかった。

「3.2.1」

「0」

の合図でヒューーと音がなった。

バーン

花火が夜の空に咲いた。

「うわー綺麗」

僕はもっと近くで見ようと思い、前に進んでいた。

気がつくとお父さんを見失っていた。

「うえーーん」

どこからか泣く声が聞こえた。

その声のする方向に行くと、そこには

1人の僕と同じくらいの女の子がいた。

「どうしたの?」

「お母さんがいなくなった」

僕と同じような人がいるとは……。

星や花火よりも彼女を助けたいと思い、

どうしたら泣き止むか考えていた。

僕はカバンからルビーを出した。

「これいる?」

彼女は見た瞬間、「うわーほしいーー」

と笑顔になった。

「あげるよ」

僕は宝石なんか興味がない。

彼女は嬉しそうに手に取った。

「空を見てごらん」

彼女が空を見上げた。

そこには星と花が降り注いでいた。

僕の願い事は……

おもちゃがほしい。

そんな願い事はしょうもない。

誰かのために願い事をしたい。

僕は声に出して願い事を言った。

彼女は僕の顔を見て微笑んだ。

「ありがとう。でも、願い事は黙って言うんだよ」

「そうなの?」

僕たちは笑い合った。

「私も君に会えて良かったよ。宝石もらえたし」

「それなら良かった」

「私も君のことを願うよ」

彼女も声に出して願った。

「願い事は黙って言うんだよ」

「さっき聞いた気がするな」

僕は顔を逸らしてごまかした。

僕たちはどこかで会える気がする。

「バイバイ。また会おうね」

花火が終わり、僕たちは別れた。

お父さんもやってきて、僕は家に帰れたが、

彼女は無事なのか。

空を見上げると、ベガとアルタイルが輝いていた。

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