ある山奥に二人でドライブに行った。友人と共に。彼は物書きで、ある物語を構想中だという。山には銭湯があって、露天風呂に入った。壮大な山の景観と木々の一本一本を眺めながら、あたたかい湯に癒されていた。すると、どこからともなくサアアという音が聞こえてきたかと思うと、一気に天気は暴風雨になった。急いで風呂から上がり、屋根の下の木のベンチに座った。
激しい雨水がマシンガンのように屋根に打ち付ける。雨風に揺れる山というのもまた、美しかった。木々の一本一本が激しい嵐を必死に耐え忍んでいるかのように見えるからだった。彼はそこで私に、物語を語り始めた。悪魔に出会ったことで人生が大きく変化する男の話だ。主人公に訪れる暴風雨のような展開と、苦境に揺らされながらも必死に耐え忍ぶ木々のような姿に、私は胸が躍り、感動したものだった。
彼は語り終えると私に言った。「どうかな?」
私は言った。「ぜひ書くべきだ」
皆はいま、ついに形を成したその物語を目にしている。はじめは彼の頭の中にだけあったものが、あの雨の日、あのベンチの上で、はじめて生を受け、今回こうして受肉したのである。
私はこの物語の誕生に立ち会えたことを光栄に思う。皆にも思う存分堪能してもらいたい。
ベンチの右側に座っていた男より