ラブソングを貴女に
一帆
第1話
高校生活最後の文化祭。
―― ノーチラスのボーカルは、
私は、もやもやした気持ちを抱えたまま、『☆RITO☆ソロライブ』と書かれた会場に入る。
ノーチラスファンは学校に多くて、狭い講堂は女子生徒で押し合いへし合いの超満員。私もやっとの思いで会場に入ることができた。他のノーチラスのメンバー、
会場はむっとした熱気に包まれている。ひそひそ声もする。きっと
ジリリリリという始まりのベルと共にスポットライトがついて、ぱあっと壇上が明るくなる。みんなの視線が壇上にむく。
アッシュグレーに染めたマッシュカットの短い髪。
すらっとした背。
中性的な顔立ち。
壇上に立つ
―― やっぱ、すごい人気。
キュルと切なく弦がなる。
「今日は、RITOのソロライブに来てくれてありがとう。楽しい時間を過ごしてくれるとボクも嬉しい。一曲目は、『三時のお茶会』。この曲は、ボクがいたノーチラスの楽曲です。それでは、『三時のお茶会』のアコギバージョンでみなさんにお届けします」
……
甘いケーキをほおばる キミにTOKIMTKI
チョコレートケーキ チーズケーキ
甘いクリームのように笑う キミにDOKIDOKI
ストロベリームース ティラミス
……
『三時のお茶会』は、中二の時の私と
ノーチラスでは、
私は
◇
「
ホワイトボードに、文化祭で演奏する曲を書きだしている
「今度の文化祭はソロででるって言った。ノーチラスも辞める」
ベースのチューニングをしていた
「考え直せない?」
「無理」
「それって、身勝手だってわかってる?」
「わかってる」
「今から一人でライブをするのはとても大変よ」
「……わかってる。でも、もう生徒会に提出してきた」
「あなた一人の問題じゃないのよ」
「ごめん」
「はいそうですかって言えると思ってる?」
「だから、ごめんってば」
「そう……。では、理由を聞かせてくれる?」
温厚な
「……もう、限界なんだ……。だから、最後のライブは……」
「……。わかった。
そのあと、
◇
曲が進むにつれて、どんどん、会場が静かになっていく。鼻をすする音まで聞こえてくる。みんな、壇上の
―― これが
決してノーチラスでは出来なかったライブがそこにあった。
「……、もう、最後の曲になります。ここで、特別ゲストをよびます。
ノーチラスのリーダーの
黒いシャツに黒いロングドレスの
「ボクはこの曲を歌いたくて、ソロライブを行うことを決めました。この曲はボクの想い。等身大の今のボク。ノーチラスというグループの中ではどうしても表現できない。最後の文化祭、どうしても自分の世界を表現したかった……。
文化祭直前ということもあり、ノーチラスのメンバーにはいっぱい迷惑をかけてしまいました。ごめんなさい。本当にごめんなさい。一人になって初めてノーチラスというメンバーが、自分にとってかけがえのないものだと再認識しました。今、ここに立っていても、メンバーがそっと背中を支えてくれているような気がします。
ソロライブを開きたいというボクの身勝手な我儘を聞いてくれたノーチラスのメンバーに最大の感謝を送りたいと思います。明日は、みなさん、ノーチラスのライブ、見に行ってくださいね!
最後の曲は、…… 『告白』です――」
……
キミが好きだという髪型にしても
キミにこの想い 届かない
キミと手をつないで歩いてみても
ボクのこの想い 届かない
ふざけてキミの頬に軽くKISS
キミはわらって許してくれるけど
それはLIKEじゃないことをキミは気づかない
ボクの居場所はいつもキミの隣
キミはいつもボクに用意してくれてるけど
それはLOVEじゃないことをボクは知っている
……
私の知らない曲。私の知らない歌詞。でも、歌詞の内容はよく知っている。だって、これは、…………。
「
みんな言いたいことがたくさんあるって顔をしている。私だってそうだ。
でも、何を言いだせばいいかわからなかった。
「ねえ、みんな。これから、打ち上げは、いつものお好み焼き屋さんでぱあっとやらない? 明日のノーチラスのライブも今日の
おしまい
ラブソングを貴女に 一帆 @kazuho21
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