第8話 金

 あるところに、それはそれは立派なお金持ちのおじいさんがいました。どこが立派なのかと言いますと、おじいさんは貧乏人を決して差別などせずに、お金や食料、衣服などを恵んでやっているのです。いつも笑顔で優しいおじいさんは老若男女問わず愛されていました。


 そんなおじいさんも昔は、ケチでお金に目のない人でした。そのうえ、ギャンブル好きで、当てが外れると周囲の人に暴力を振るようなどうしようもない人でした。しかし、最愛の妻を亡くしてからというもの、今までギャンブルに注ぎ込んでいたお金を、慈善活動にあてるようになっていったのです。


 おじいさんは、募金ではなく、いつも直接困っている者のもとへ出向いて、物資の提供をしていました。皆が「何かお礼をさせて欲しい。」といっても、彼は決まって「じゃあお代として1セント頂戴。それ以外は何もいらないよ。」とだけ言いました。もちろんそれではあまりにも釣り合っていないのですが、彼はいつも決まって1セントだけもらって去っていってしまうのでした。それを見て、誰もが口を揃えて「彼ほどできた人はいないだろう。」言うのでした。


 しかし、ある日おじいさんは殺人罪で逮捕されてしまいました。そのことに、誰もが驚き、耳を傾けました。中にはおじいさんを釈放するようにデモを起こす人もいました。しかし、それは意味のないことでした。なぜなら、おじいさん自身が「人を殺した。」と自首してきたからです。

 

 なぜ人殺しをしたのか。あなたは善人ではなかったのか。警察は言いました。おじいさんはシワシワの顔を涙で濡らしながら、ゆっくりと話し始めました。

「私は家内が数十年前に死んでいます。なぜかと言うと殺されてしまったからです。あんな優しく、誰にでも笑顔で接していたのに。家は荒らされ、金品のいくらかが持っていかれてました。たかだか盗みのためだけにあんな、、、、。そのうえ、犯人は見つからず、そのまま時効になってしまったのです。」

おじいさんはしわくちゃの顔をさらにぐちゃぐちゃにして泣き叫びました。

その様子に、警察は憐れに思いながらも、それでも尚追求を続けました。

「では、復讐だでも?そもそもなぜ奴が仇だと?」

「妻の死んだ現場には、汚い衣服が投げ捨てられていました。それは明らかにスラム街の方々が着るようなモノでした。指紋は残っていましたが特定はできませんでした。そこで、直接食料などの物資を渡しに行き、その対価として1セントもらっては、犯人のもの(指紋)かと調べていたのです。そして、今日殺した奴が、、、、。」

そこまで聞いて警察は大方のことがわかりました。しかし、一つだけわからないことがありました。指紋を調べるだけなら、一回だけ物資を与えて1セント貰えばそれで済む話です。しかし、男は様々な人に対して、繰り返し物資を提供していたと記録にはあります。それはなぜかと尋ねるとおじいさんはこう答えました。

「最初は一回きりにしようと思っていました。当時は妻やギャンブル以外にお金を使うのは馬鹿らしいと思っていましたから。しかし、気持ちのいいものだったんですよ。悲しげな顔をしていた人が笑顔になるのを見るのは。」






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