第7話 番外編 自分の体験した奇妙な話

 私は幼い頃、幽霊やら呪いやらを信じないタイプだった。信じてないからこそ、心霊スポットに行ったり、怪しげな厚い魔導書を買って呪文を唱えたりすることができたのだ。けれど、私はある経験によって、実体のない存在のことを認めざるえなくなってしまったのである。


 それは私が小学6年生の時だ。そのときクラスでは、学校の7不思議が流行っていた。特にトイレの花子さんの話は聞かない日がないぐらい人気で、実際に花子さんをみたという生徒まで現れた。その後、花子さんとあったと言う生徒が徐々に増えてき、その話を聞いて放課後に肝試しをする子が出てきた。実をいうと私もその一人である。


 肝試しは、当初私を含む五人で行う予定だったが、いきなり用事ができたり、怖くなって離脱する子が現れ、最終的には二人で行うこととなった。

 花子さんが出ると言われるトイレは、図書室のある旧校舎で、なかなか雰囲気がある場所だった。トイレの入り口には引き戸があり、立て付けが悪いとかなんとかで、ピンクの明るい扉に変えられていた。あまりにも旧校舎の雰囲気に合わないその扉は、却ってなんとも言えない不気味さを漂わせていた。怖い。そう思っていると、友達が手を握ってきた。この友達は自分よりも年下で普段はとてもか弱い子なのだが、そのときの手を握る力は尋常ではなく、思わず声が漏れるほどに痛かった。その時点で帰ればよかったのだが、私は何かに誘われるように、友達を連れ、トイレに入っていった。


トイレの中は思いの外広く、窓には少し夕陽の光が漏れていた。全体はタイルに引き詰められていて、夕陽の光を反射して明るくなっているようだった。電気はしばらく使われてないせいか全くつかなかったが、正直言ってどこにでもある普通のトイレって感じで、全然怖くなかった。これじゃあとてもじゃないが花子さんなんて出てこないだろう。友達も安心したのか、笑って「入る前の雰囲気どこいった。」なんていって笑っていた。

 その後、一応花子さんに会うための『儀式』はしておこうという話になった。儀式は3個目の扉を3回叩いて「花子さんいらっしゃいますか?」と訪ねて扉を開けると、花子さんが出てくるというありがちなものだった。そこのトイレは押し戸だったので、中が見えないようになっていた。一応人がいないかを一つ一つ調べ、誰もいないこと確認した。そして、扉をトントンと叩いて、「花子さんいらっしゃいますか?」と言った。無反応。試しに扉を開けてみるも、誰もいない。その後、友達がふざけてドアをバンバンと叩いたが、やはり無反応だった。


 「やっぱ花子さんなんていないんだね。」そう言って友達がトイレから出ようと出入り口の扉に手をかけた。しかし扉は開かなかった。私は笑って「引き戸だよ。そこ。」と友達の代わりに扉を開けようとした。だが、開かない。いくら引っ張っても、開かない。おかしい。入る時はあんなにすんなり開いたのに。立て付けが悪いとかそういうものじゃない。まるで鍵がかかっているように開かない。さっきまで明るかった室内は夜のように暗くなっていた。夕陽はまだ落ちていない。けれど、何者かに遮断されたかのように、光は届かなかった。

 「ほーん。さてはあいつらだな。肝試し行かないなんて嘘つきやがって。もうわかったから開けろよ。」なるべく平静を取り繕い言った。だがそんなことがあるわけないのはわかっていた。なぜなら、扉には粗末な窓が取り付けられており、そこから廊下の様子がみれるからだ。廊下には誰もいなかった。

「助けて!!誰か!!誰か!!」

友達は半泣きしながら叫んだ。意味ないことはわかっているはず。だがそれでも叫ばずにはいられなかったのだろう。その時、トン、、、、と扉が叩く音が聞こえた気がした。私は友達の方を向いた。黙って首を降っている。

 トン。今度ははっきり聞こえた。奥の扉を叩いた音だったと思う。それも中から。トントン。今度は2回。音が大きくなっている?

トントントン。いや、大きくなっているのではない。

近づいてきている。徐々に、ゆっくりと。

 友達は、トイレなのにも関わらず、床に足をつけ、何かをぶつぶつ呟いている。放心状態だ。私も、立っているのがやっとだった。何かに縋るように窓をみたが、不自然なほど人がいない。トントントントン。手間のトイレから聞こえた。私は扉を開けるほどの勇気はなかった。だが、なんとか声を絞り出す。大きく息を吸って、奴に尋ねた。

「花子さん、、、、?」

音はない。まるで時が止まったのではないかと思うほどの静寂。

「そこにいるの、、、、?」























ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!!!

 

 音がした。何十何百の扉を叩く音。鼓膜をぶち破るほどに。これはやばい。やばいなんてものではない。花子さんなのかそれ以外なのかはわからない。ただ、奴が人間ではない何かで、私たちに危害をくわえようとしていることは確かにわかった。

 扉を思いっきり蹴りとばす。何回も何回も。足が腫れ上がるほどに。痛覚なんてなかった。正しく言うなればそれを気にしている暇などなかった。このままだと、私が、私達が、死んでしまう。心からそう思った。


 どれぐらい時間が立っただろう。利き足はもう使えない。一縷の希望にかけて、扉に手をかけた。すると、面白いほどあっさり開いた。驚いていたが、すぐに友達の手をとり、転がるようにトイレからでた。扉を閉めて、校門へ急いだ。その時だった。ゴン、、、。出入り口の扉を叩く音がした。多分、それは外からだった。

 

 その後、他の友達に肝試しのことを聞かれたが、そのときは思い出すのすら怖くて、「何もなかったよ。」と答えるのがやっとだった。あれから4年たつが、その時の友達とも疎遠になり、例のトイレも改修でもうない。それでも、まだ奴があそこにいる気がしてならなかった。

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