第8話 決着
鏡月自身の身に危険が迫った事により自動的に加速世界が発動する。全てをスローモーションで見る事が出来る鏡月にとってはこの状態からでも簡単に早苗の剣を躱す事が出来た。そのまま、能力が切れるまでの約十秒間で剣を躱し反撃を開始する。出来るだけ多くの打撃を早苗の身体に入れる。これが最初で最後の鏡月にとっての最大のチャンスでもあった。加速世界が終わるとしばらくの間、全ての能力が使えなくなる。それが基礎的な能力で合っても加速世界の発動の為にオーバーワークした脳がクールダウンするまでの間は能力が全く使えない人間になる。
「悪いな。でもこれで終わりだ」
十秒が経過し加速世界が終わる瞬間、鏡月は体重移動をして右回し蹴りをお腹に入れる。早苗の身体が後方に転がるのを見て鏡月は肩で息をする。
「はぁ、はぁ、はぁ、勝ったか」
「成程。これは確かにあの子が警戒するわけね」
突如身体に激痛が来たのを我慢して早苗が立ち上がる。剣を地面の床に刺して杖代わりにして立ち上がる早苗に鏡月はどうする事も出来なかった。加速世界が使えない状態では先ほどみたく強気に攻撃する事が出来なかった。仮にすればどうなるかは今までの早苗の試合結果から目に見えていた。
「うそだろ……」
「流石に痛いわよ。でもこう見えて私身体だけは頑丈なの。剣の間合いは短いから昔はそうでもしないといけなかったから」
「そうか」
「その能力は何? 全く目に見えなかった。正確には数値化出来ないばかりか貴方の動きが物凄く速くなったように見えただけだけど」
「俺自身正直わからない。生まれつき持っていた力だからな」
「能力は目に見える。逆に目に見えない能力はこの世にない。そして身体能力向上をするだけの能力はないはずだけど?」
「さぁな。俺もこの力のせいで小さい頃いじめられた。だけど俺はお前みたいにこの力で誰かを傷つける事はしなかったよ!」
鏡月はこのまま相手が動くのを待っていても今の自分では対処出来ないと思い半分諦めて全力で早苗に向かって走り出す。早苗の身体に少しでもダメージが残って動きが鈍い間に勝負を決める事にした。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「バカみたいに又正面からですか。同じ手は通用しません」
早苗はすぐに動けるように余力を残し、殴りかかってくる鏡月を剣で斬りかかる。身体が切られた事により鏡月はそのまま流血するがお構いなく攻撃を続ける。
「そんな! 私の一撃が当たった?」
先ほどの攻防から早苗は鏡月が再び加速世界を使ってくると読んでいた。しかし鏡月が加速世界を使わなかった事と自分の攻撃が当たった事、鏡月が流血しても尚お構いなしに攻撃してくる事に驚いていた。
「っう。まだだ!」
痛みを我慢し鏡月は早苗に対する攻撃を止めなかった。
「まだ、負ける訳にはいかねぇんだぁ!」
「もしかしてさっきの力……」
「お前を倒して里美に謝らせて、てめぇの間違えを教えてやる!」
鏡月の攻撃を動揺しながらも剣で攻撃してくる早苗を畏怖させるように鏡月は立ち向かった。そして一撃、一撃、一撃と身体に増えていく傷を無視して途中何度も激痛で意識が飛びそうになるが必死に戦い続ける。
里美が両手を握り呟く。
「鏡月……もう止めて」
その祈りが鏡月に届く事はなかった。
「このまま戦えば死にますよ?」
動揺しながらも早苗は鏡月に警告する。自分の身体がボロボロになりながらも正面から立ち向かってくる鏡月に早苗はどうしていいかわからなくなる。
「だったら何だって言うんだ。俺は俺との約束を護る為、そしてお前と友達になる為に最後まで戦うだけだ!」
「少しだけ貴方となら上手くやれそうな気がしました。あの子が認める貴方となら。だからサヨナラです」
死に物狂いの鏡月に対して早苗は目を閉じ集中して鏡月を峰内ではなく本気で切りかかる事にした。切られた鏡月の身体からは大量の血が溢れ出てくる。今まで我慢していた痛みとは比較にならない程の激痛が鏡月の身体を駆け巡る。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
先ほどまでどのような状況でも攻撃の手を休めなかった鏡月が叫び声をあげて地面に傷口を抑えながら倒れる。
「………………」
早苗は黙って倒れる鏡月を見る。
「鏡月!」
観覧席から里美は鏡月の名前を呼んで勢いよく立ち上がり試合会場に向かって走り出す。
「やはり君では学年主席に勝てるわけなかったんだ。なのにどうして……そこまで……」
雄二は試合会場から目を逸らしながら呟く。
鏡月が戦闘不能と判断され空中に「勝者 藤原早苗」と大きな文字が出現する。早苗が剣に付着した血を持っていた布で拭いていると声が聞こえた。
「逃げるんじゃねぇ。…………俺は……まだ………まけてねぇ」
鏡月の言葉に早苗は何がここまで鏡月を動かすのか気になった。自分が死ぬかもしれない状況でまだ戦おうとする鏡月。そして試合中に「友達になる為に最後まで戦う」と言ってくれた。周りの人間が遠ざかっていく中、逆の事をする人間に興味を持った。だけど早苗の中で譲れない思いがあった。過去の嫌な記憶が鏡月と友達になる事をためらわせた。
だから、
「明後日のオリエンテーションマッチングが終わるまでなら待ちます。本気で私と友達になりたいとか謝らせたいと思うならそれまでに傷を回復させてもう一度私の前に来なさい。そしたら貴方からの挑戦は特別に受ける事にします」
と、意識が朦朧としている鏡月に告げ早苗は試合会場を立ち去った。
立ち去ろうとした早苗に鏡月は最後の力を振り絞って、
「その言葉忘れるんじゃねぇぞ」
と言って力尽き意識を失ってしまう。
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