第7話 サヨナラが意味することとは
鏡月が試合会場に着くと早苗が待っていた。
昨日の一件があった為か周囲の視線が刺さるように痛かったが鏡月はそのまま無視して早苗の目の前に行く。
「後日連絡すると言ったはずだけど?」
「悪いな。お前が下位能力者をボコボコにしているのを見たら何かイライラしてな。お前は何でそこまでして強くなろうとする? その割には周囲と壁を作り一人で強くなろうとする? 他の誰かを思いやり一緒に強くなるじゃダメなのかよ?」
「ダメよ」
周囲の視線に加えて突き刺さるような早苗の視線に鏡月は一瞬怯みそうになったがここは我慢する。
「どうしてだ?」
「私の周りにいた友達は私の能力を知った瞬間恐怖し逃げていったわ。それはそうよ。その気になれば私が人体を一つの物として認識すれば大ダメージを与える事だって出来る。つまりその気になれば人を殺せるって事よ。それでいてあらゆる能力をこの剣で切る事が出来るのよ。そんな私を皆が遠ざけたわ」
鏡月は拳を強く握りしめる。
「仮にそれが本当だとしてもお前のしている事はただの一方的な暴力だ。それだけの力があるなら誰かを護る為に使ってもいいじゃねぇか。何でそうしない? いつまで過去に囚われ続けるんだ?」
「なら聞くけど、こんな私を受け入れてくれる人がいると思う? だったら一人で強くなって誰にも何も言わせないぐらい強くなるしかないじゃない!」
「バカ野郎。辛いなら辛いって言えよ! 友達が欲しいなら俺がなってやる。だからもうその力を一方的に使うのは止めろ」
「煩い! なら私に勝ったら認めてあげるわよ。私より弱い奴で私に近づいてくる奴は皆私じゃなくてこの能力や私と偽りの友達と言う自慢話の為の材料でしかなかった。もし貴方が今までの人達と違うってんならそれを証明して」
「わかった。試合を始めよう」
鏡月は早苗が何故こんなにも強いのにまだ力を欲しているのかを聞けて良かったと思った。昨日会ったばかりの鏡月にここまで話してくれたのはきっと鏡月なら助けてくれるかもしれないと思ったからなのかもしれない。
だから、勝つためにここに立ち、勝って里美にしたことは間違いだったと気づかせてあげないとダメだと自分に言い聞かせる。
「わかったわ」
早苗は返事をして空中に表示された試合申し込み欄の許可ウインドウに剣を持っていない左手で触れる。
早苗の手が触れた事により空中に試合開始のカウントダウンの数字が大きく出現する。学年主席と下位能力者の勝負の合図に里美と雄二が観覧席から心配そうに鏡月を見守る。
「お願い。無理だけはしないで」
里美は鏡月が無事に自分達の元に帰って来ることを祈った。
上空に出現した数字が〇になり試合が始まる。
今の鏡月には作戦や秘策と言った物がなかった。
だから出来る事は一つしかなかった。
――勝てる勝てないじゃない、やるかやらないかだ
鏡月は全力で早苗に向かって走る。
今までの対戦者は早苗を警戒して能力を使わずに突っ込んでくる事はなかった。
だから一瞬驚いてしまった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
その一瞬をチャンスと考え鏡月は声を出し全力で自身のオリジナル格闘術の攻撃範囲まで距離を詰めよる。鏡月の格闘術の正体は小さい頃から自身の正義感の為に沢山の人と喧嘩して身につけた言わば型があってない物である。
鏡月は力を込めて右ストレートに左回し蹴りと攻撃していく。
だけど全て早苗に躱されてしまう。
「遅い。能力で攻撃して来ない事からまさかとは思ったけど、本当に下位能力者だったんですね」
「だったら何だって言うんだよ!」
攻撃を躱す早苗に向かって鏡月は叫びながら追撃をする。左ストレート、かかと落とし、全て躱されるが攻撃の手を緩めなかった。
「下位能力者の能力は非戦闘向きの事から戦場では役に立たないわ。それなのに己の立場を考えず私に説教をしてくるとはとんだお馬鹿さんだなと思っただけです」
「そうゆう所だよ。下位能力者やら上位能力者やら何でそれだけで人を判断する?」
「それが一番判断しやすいからです」
鏡月の攻撃を躱す早苗は余裕なのか鏡月の質問にバックステップをしながら答える。鏡月はオリジナルの足さばきで早苗との距離が開かないようにする。そしてひたすら拳で殴り続ける。途中息が苦しかったが一回でも攻撃の手を休めれば勝機がないと思いひたすらに気合いで攻め続ける。
「それが間違いだって言ってるんだ。お前みたいに特異能力者と呼ばれている人間からしたら下位能力者なんて雑魚かもしれねぇ。だけどな下位能力者だって毎日見えない所で頑張ってるんだよ。お前と同じように心に悩みを抱えながらな!」
「嘘を言わないで下さい」
「嘘じゃねぇよ! お前と同じように俺にだって悩みの一つや二つあるからな!」
鏡月の言葉が早苗に届いたのか一瞬早苗の動きが止まる。鏡月は全力で間合いを詰めて本気の右回し蹴りを早苗の溝内に叩き込む。早苗の顔が苦しそうだったが、鏡月の次の攻撃にすぐに備えてきた。結局今の攻防で鏡月が早苗にまともにダメージを与えたのはこの一発だけで後は全部躱されるか防御された。
「うそ……」
「そんな……」
「鏡月が今まで誰も触れる事すら出来なかったあいつに触れた」
「君は一体……」
「頑張って」
鏡月と早苗の試合を見ていた里美と雄二が驚いていた。里美ですら早苗には一発もダメージを与える事が出来なかった。しかし鏡月は気合一つで諦めずに攻撃の手を休めず追い詰めて、たったの一発だったが確かにダメージを与え先制攻撃に成功した。
「今の一撃は効きました」
「そうか」
「では今度はこちらの番って事で」
早苗はそう言って、鏡月に向かって走り出す。鏡月も早苗に向かって走り出す。両者が走りお互いの攻撃範囲に入った瞬間、早苗の目が弱者を倒す目から強者を倒す目になる。目の色が変わった事から死神の眼を使った事にすぐに気づく。つまりこの試合において早苗が本気になったと鏡月は直感だけでそれを察する。そのまま憶する事なく右ストレートで殴りかかる。早苗は落ち着いて鏡月の攻撃を躱し腹部を目掛けて斬りかかる。
「これで終わりです」
早苗が勝利宣言をする。しかしここで早苗が驚く事になる。
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