第5話 鳴り響いた電話はラブコール?
昨日里美を家まで送った鏡月はその後一人で来た道を戻り家に帰宅し疲れていたのでベッドに行きすぐに寝た。そして、間もなくして日の出と共にカーテン越しに入ってくる眩しい太陽の光によって鏡月は目を覚ます。
「もう……朝か」
瞼を擦りながら鏡月はベッドから起き上がり洗顔をする。洗顔をしながら昨日の事を考えていると鏡月はある事に気づく。特異能力者は普通の能力者とは違う力を持つ反面、普通の能力を苦手としている者が多い。つまり早苗の死神の目さえ何とかすれば鏡月にも勝機があると考えた。洗顔を追えロビーにあるソファーに腰を降ろし鏡月は死神の目に有効な対抗策を考える。勿論これは早苗が普通の特異能力者である場合だ。もし普通の能力もただ使わないだけで苦手としていない場合は別の対抗策を考えないといけない。
「目と言えば、目潰しとか猫騙しとか……いや流石にそれは無理か……」
鏡月はベランダから見える景色を見ながら、
「うぅ~ん」
と、声を出す。
ベランダから見える景色をぼんやりと見ていると、モヤモヤしていた心の中が少し晴れる。
鏡月は目を閉じて昨日の里美と早苗の試合を思い出す。
昨日の試合、一見里美の圧倒的優勢に見えた試合序盤。里美が半分程の力と言っていたがそれでも間違いなくランキング上位じゃないと苦戦する攻撃と防御を同時にしていた。しかし早苗は里美の攻撃を全て完璧に捉えていた。この時点で早苗の動体視力がとても高い事が分かる。更に早苗が防御から攻撃にシフトする瞬間、早苗は里美の攻撃を躱しながら間合いを詰めそのまま里美の空気の壁を破壊した。
「どう考えても俺に勝ち目ないよな~。攻撃、防御、動体視力、運動神経どれも俺より上の相手にどうやって勝てって言うんだ。あの時は里美の手前偉そうな事を言ったけど……さてこの状況どうするかな~」
鏡月が部屋で独り言を呟く。
ベランダから入ってくる肌寒い風が鏡月に向かって部屋に入って来た。
「とりあえず……いい案も出ないし今日は学園休むか」
鏡月はこのまま早苗と試合しても勝てる見込みがなかったので今日は学校を休む事を決意した瞬間、タイミングを見計らったように机に置いてあったスマートフォンが音を鳴らしバイブレーションする。
「もしもし」
『もしもし。今何処にいるの?』
電話の相手はよく聞きなれた声の持ち主で里美だった。
「家だけど?」
『今何時だと思ってるの? 早く学園に来なさい。いくら一年生オリエンテーションマッチング中は自由登校だからって最初からサボりは許さないわよ』
「実は今日体調が悪くて………」
鏡月が学校を休む為の口実を適当にでっち上げて誤魔化そうとしたその時、
『はぁ~。嘘はいいから早く来て。あいつが天下無双を初めてるんだけど、やっぱり昨日あいつと何かあったんでしょ?』
と言ってきた。
鏡月は心の中で流石は中学の時からいつも一緒なだけ合って下手な嘘は里美には通用しないかと思った。
「天下無双?」
『うん。さっきから挑戦者を次々と瞬殺してるのよ。しかも対戦者募集コメントに「誰の挑戦でも受けます。下位能力者の方でも構いません」って書いてあるんだけど、この下位能力者ってどう見ても鏡月の事でしょ?』
「えっ? 俺?」
突然の急展開に鏡月の頭がパンクをする。
『だって下位能力者であいつが警戒するって言ったら鏡月しかあり得ないと思わない? 普通の下位能力者が中級能力者でも瞬殺される相手に勝てるわけないじゃない。それでもこう書いてあるって事は昨日鏡月とあいつに何かあったって事でしょ?』
的確に状況を整理し分析していく里美に鏡月は思わず感心してしまった。
「まぁ、なかったと言えば嘘になるけど」
『やっぱり。昨日の鏡月の態度からもしかしてとは思ってたけどあいつに喧嘩売ったわね? 校内で噂になってるわよ。「学年主席の不意打ちを簡単に躱した下位能力者がいる。しかもそいつはあの学年主席に向かって説教をした」って。心当たり本当にないの?』
鏡月はまさか昨日一件がここまで大きく学校中で噂になっていたとは思いにもよらなかった。てっきりバカが何か言ってたぐらいの軽い感じでしか噂にしかならないだろうと思っていたので驚いてしまった。
「………………ないです」
『本当はあるわね?』
「………………あります」
里美のため息がスマートフォンのスピーカー越しに聴こえる。
ため息を吐きたかったのは鏡月もだったがここは我慢する。
『ならオリエンテーションマッチングの観覧席で待ってるから今から来て。詳しい話しはそれから聞くから。いい?』
「はい。今から急いでいきます」
鏡月が返事をするとスマートフォンのスピーカーから通話が切れたプープーと音が聞こえてくる。ここで先ほど我慢したため息を吐いて鏡月は荷物を持ち学園に気持ち急いで駆け足で向かう。
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