第4話 男女の友情
家に着いた鏡月は里美をベッドに寝かせて、する事が特になかったので部屋にある荷物の整理を始める。ここ最近引っ越して来たばかりと言う事もあり部屋の中がまだ散らかっていた。実家から持ってきた荷物を段ボールから出し予め決めておいた場所に直していく。荷物の整理がある程度終わるとマンションの六階へと入ってくる夕日が鏡月のベッドで寝ている里美を赤色に染める。
鏡月は里美を見て、
「いつになったら……起きるんだ」
と、呟く。
それから女の子を抱えて帰宅したことで汗をかいたので着替えを用意してお風呂に入る事にした。
鏡月は湯船に浸かりながら今日の事を考えていた。
「もし俺が学年一位と戦ったら多分瞬殺される。ならどうすればいい……」
試合会場で鏡月が見た早苗の剣筋はとても速く肉眼では捉える事が難しかった。仮に捉えてもそこから対応できる手が一切思い付かない。早苗の能力の前では全てが合ってないような状態になる。死神の目を何とかしない限り鏡月に勝ち目はない。
「加速世界なら学年一位の剣を確実に躱せる。けど十秒じゃ躱すのが精一杯で反撃が出来ない。どうすればいいんだ。あの剣をどう対処すれば俺はあいつに勝てる?」
鏡月はお風呂の天井を見ながら自問自答する。
「里美みたく能力から別の力を作り出せれば戦い方も増えるけど……下位能力者の俺には無理だもんなぁ~。俺にあるのはこのよく分からない自動発動する加速世界だけ……」
気が抜けた声を誰に言うわけもでなく鏡月はただ口にする。
「まぁ後でゆっくり考えるか」
鏡月はそのまま目を瞑りリラックスする。頭で考える事を止めると身体が脱力し疲れが抜けていく感覚がした。充分に身体の疲れが抜けたのを確認して鏡月は立ち上がりお風呂を出る。そのまま着替えて部屋に戻る。
部屋に戻ると里美が目を覚ましており、ベッドの上でくつろいでいた。鏡月はそのまま冷蔵庫に行き、お風呂上がりの牛乳を飲みながら里美を見る。
すると、里美が後ろを振り返り鏡月と目が合う。
「おはよう。よく眠れた?」
「ところで私は何でここにいるの?」
里美は鏡月が何か良からぬ事を考えているかのように毛布で胸元を隠す。鏡月はそんな里美を無視してベッドの横に行き床に座る。
「何故そんなに警戒してるの?」
「だって……目が覚めたら鏡月の家に私が居るから」
「まぁそれはそうだな」
里美は鏡月に冷たい視線を向ける。
「それにお風呂入ってたって事は……やっぱり鏡月も男だし裏ではそうゆう事考えているのかなって思ったから」
「あはは……」
鏡月が苦笑いする。
「って事は……やっぱり……」
鏡月はこのままでは埒が明かないと思い本題に入る事にする。
「一応聞くけど里美が寝ていた理由に心辺りないの?」
「え?……あっ……」
鏡月の言葉に何かを思い出したような反応を示す里美。
「私確か学年主席に切られてそれで意識を失ったんだ」
里美はそう言って自分の身体を見て何が起きたかを察する。綺麗な肌に出来た青じみを見ながら呟いた。気づけばすっかり日が落ち暗くなっていたが鏡月はこのまま里美を男の部屋に泊めておくわけにはいかないと判断する。
「まぁそうゆう事だな。とりあえず家まで送る」
「ありがとう」
二人は荷物を持ち部屋を出る。
帰り道、里美がチラチラと何度か鏡月の事を見てきたが鏡月は黙って気づかない振りをして歩く。
すると里美が口を開く。
「ねぇ、鏡月?」
「うん?」
「鏡月にとって能力ってどんな存在なの?」
「そうだな~とりあえず何かを守る、誰かを護れる力かな。っても俺みたいな下位能力者が言った所でだけどな」
「ならもし私が助けてって言ったら鏡月は私の事を助けてくれるの?」
「当たり前だろ」
鏡月が微笑みながら里美を見ると嬉しそうに里美も微笑む。
「なら何かあったら私を護ってくれる?」
「あぁ」
二人は街灯の明かりが照らす夜道を歩く。
二人が黙って歩いていると里美が鏡月の顔を見て首を傾げる。
「さっきから難しい顔してるけど何かあったの?」
「ん? あっいや別に?」
突然の事に鏡月は慌ててしまった。
そんな鏡月を見て里美はクスクスと笑う。
「嘘が下手すぎ。それに慌ててから」
「あはは……」
笑いながらも里美は鏡月の顔を見て心配そうに尋ねる。
「それで何があったの?」
「何でもないよ?」
「本当に?」
「あぁ」
「なら今はそうゆう事にしておいてあげる」
「ありがとう。一つ聞きたいんだけどいいか?」
「今日戦ってみて里美から見た学年一位はどんな風に見えた?」
鏡月の言葉に里美は空を見上げながら考える素振りを見せる。
そして、
「うぅ~ん~」
と、さり気なく聞いた鏡月の意図とは違い真剣に思い出そうとしてくれる。
鏡月はそんな里美に心の中で感謝する。
「一言で言えば強者よ。上級生でも剣の間合いではあいつに勝てる者は少ない……と思う。私もまだ能力を完全に扱えていないから雷の出力を半分程に抑えていたんだけど、それでもそれを簡単に切るあいつの動体視力と反射神経は人の域を超えていた。もっと正確に言うなら達人とでも言った方がいいかもしれない。それだけあいつは強い」
真剣な表情で言う里美を見て鏡月は黙って頷いていた。
「もし里美が能力を百%で使ったら勝てたと思うか?」
「多分無理。雷の出力をあげた所で当たらなければ意味がないし、何よりスピードを上げてもあいつの反射神経を超えないと多分全て防がれる。だけど本気でしたら、能力による手数が少なくとも今日の倍、そして防御力は今日の数倍になるからある程度いい勝負にはなったと思うけど……。そこは実際して見ないとやっぱり分からない」
「そうか。ありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言い微笑んでくれた鏡月を見て里美も微笑みながら返事をする。
「なら私からも鏡月に質問してもいい?」
「あぁ」
「鏡月から見たあいつはどんな風に見えたの?」
「里美と同じで一見強がってはいるけど、何処か非常になりきれない根が優しい女の子に見えた」
鏡月が口にすると、里美は学校の荷物が入ったカバンを肩に掛けて左手で鏡月の左手を掴み右手で鏡月の左わき腹を強く抓る。
「いたい……ったいったいから」
「誰が強がってるって?」
里美は誤魔化すかのように鏡月に顔を見て質問する。
「さと……みぃ」
「ん?」
「……わかった。俺が悪かったから離してください?」
「本当にわかったの?」
「はい」
「ならいいんだけど」
里美は口を尖らせながら鏡月の手と脇腹から手を離す。鏡月は逃げられないように捕まれていた左手と抓られていた左わき腹を交互に右手で擦る。
「ってぇ……マジで痛いんだけど?」
「これでも手加減した」
「手加減ねぇ……」
鏡月は抓られた左わき腹を見る。
「ん? わき腹見てるって事はもう一回して欲しいって事でいい?」
「遠慮しておきます」
「そう」
「里美ってすぐに手が出る……」
鏡月が最後まで言おうとしたその瞬間口を尖らせた里美が冷たい視線で鏡月を見ている事に気づいたので自重する。
「出る何よ?」
「えっと……出る……出るけど可愛い女の子だなって」
「ばかぁ……」
里美は小さい声で言う。
あまりにも小さかった為、隣を歩く鏡月にもその声はハッキリと聞こえなかった。
「何か言ったか?」
「何も言ってない。それより全身が痛い。女の子にいつまで荷物持たせるつもりよ。男ならちょっとは親切にしなさいよ」
「はいはい」
鏡月は里美の持っていた荷物を受け取る。
「鏡月ありがとう」
「どういたしまして」
二人は里美の家に向かって歩き続ける。
いつの間にか街灯がない夜道を月明かりが照らしてくれていた。
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