第3話 第三位VS第一位 激突
上空に出現した数字が〇になり試合が始まる。
――早苗が抜刀して構える。
――里美が風を操り、風から発生された雷を形状変化させ槍を三本作りその場に待機させる
両者が見つめ合い相手の出方を伺う。
緊張した空気が会場全体を包む。
観覧席にいた一年生達は二人が動くのを静かに見守る。
「バカ。早くやめろ。今ならまだ間に合う!」
会場に着いた鏡月は里美に向かって叫ぶ。
しかし里美は鏡月の声に反応は見せるものの早苗との勝負を降りる気配を見せない。鏡月は迷ったが試合会場には特殊な結解が張られており、これ以上は近づけないので黙って里美を信じる事にする。
「くそ……頼むから怪我だけはしないでくれ」
鏡月は里美の無事を口に出して祈る。
ずっと見ていて気付いた事があった。
それは早苗が本当の意味で本気になったら同じ特異能力者でもない限り勝ち目が極端に低い事だ。
死神の目は万物に死を与える。例え里美が能力で何をしても早苗の前では空気の壁ですら数値化され簡単に破壊される。万物に死を与えられると言う事は本来であれば視認が難しい存在でも早苗にはハッキリと見えている事になる。
「来ないの?」
早苗の言葉に里美が表情を僅かに曇らせる。
――剣の間合いに入れば里美に勝ち目はない。
――剣の間合いこそが早苗の攻撃範囲だからだ。
だからこそ里美は遠距離攻撃を選んだ。
「なら遠慮なく」
里美のその言葉と同時に、空中に静止していた三本の雷の槍が早苗に向かって勢いよく飛んでいく。更に里美の周りに厚い空気の壁が三百六十度、隙間なく囲むように展開される。里美の周りにある風が音を鳴らし高速で回転して次々と雷を発生させ槍に形状変化をして早苗に向かって飛んでいく。
「これが里美の本気」
鏡月は目の前で起きている光景に驚いていた。これでは上位能力者でも何人が里美の雷の槍を防ぎながら、空気の壁を破壊出来るのだろうと見ている者にそう思わせるだけの何かがあった。
「覚悟して!」
里美の声に早苗が構え飛んでくる雷の槍全てを視認する。
早苗の剣の攻撃範囲に入った雷の槍が次々と早苗の剣によって切られていく。雷の槍は早苗の目によって的確に切られると同時に大ダメージを受け、死を迎えた雷の槍が消滅していく。
「そんな!」
里美は目の前の光景に驚いた声をあげる。里美の現状持てる最大威力の攻撃を誇るであろう攻撃を簡単に対処していく早苗に会場の皆が声を失い見ていた。それは近くで見ていた鏡月も同じだった。
「この程度の攻撃では私に傷を与える事など出来ないわよ。それに貴女まだ手加減してるわね。その能力で人を傷つける事を恐れているように見える。私を舐めているのかしら?」
早苗の言葉に里美が反論する。
「煩いし黙れ!」
「ふんっ。もういいわ。散りなさい」
早苗の言葉が言い終わると同時に早苗が里美に向かって走り出す。雷の槍が早苗に向かって次々と放たれるが早苗は最小限の動きで躱していく。里美を守る空気の壁が早苗の剣の攻撃範囲内に入った瞬間、早苗の剣が空気の壁と接触し数秒で破壊された。
「ヤバい」
そのまま早苗は後方にジャンプする里美を追い詰め目の前に剣を向け里美に連続して斬りかかる。
「その力、未完成だったのね」
早苗が剣を鞘に戻すと空中に「勝者 藤原早苗」と大きな文字が出現する。
里美はそのまま地面に倒れる。試合が終了したことにより試合会場に張られていた結解が消滅したのを確認して鏡月が走って地面に倒れている里美の元に行く。
「しっかりしろ! おいっ里美!」
「無駄よ。意識を失っているから何度呼び掛けても返事は返ってこないわ」
里美の身体を持ち上げて呼び掛ける鏡月に早苗が告げる。鏡月は冷酷な早苗を睨みながら問いかける。
鏡月の言葉には怒りが含まれていた。
「お前、それだけの力を持っておきながら何で里美をここまでした?」
「私は試合前に本気で行くと警告したわ。でもその子は私相手に手加減をした。だからここまで一方的になったの。もしその子が本気だったら本気の私でも苦戦するわ。要は自業自得よ」
鏡月はそっと里美の身体を地面に寝かせて立ち上がる。
「お前と言い里美と言い何で対戦相手に自分の力を見せつけようとする?」
「知らないの? この学園以外でも上位能力者と特異能力者は殆どがランキング持ち。そしてランキングは私達の将来に直結してくる。だから自分の力を少しでも周りに見せつけないと私達はダメなのよ。私はこの能力学園を含むこの街の頂点に立ちたいだけ」
鏡月は早苗の言葉を聞いた瞬間、何て身勝手なのだろうと思った。そんな自己満足の為だけに中級能力者や下位能力者が一方的に倒されて上位能力者や特異能力者の踏み台にされなくてはいけないのかと思った。
「なら聞くが。お前達の将来ってのは誰かを踏み台にしないと実現出来ないゴミみたいな夢なのかよ?」
先ほどまで鏡月に興味すらを見せなかった早苗の目が鏡月だけを見る。
「ゴミ? なら聞くけどこの世界は弱肉強食。そんな世の中でこの街の頂点を目指す方法が他にあるって言うの?」
「そんな事知らねぇよ。ただ誰かを踏み台にしないと実現できない夢や目標を俺は認めない。里美の意識が戻ったらちゃんと里美に頭を下げて謝れ。私利私欲の為に能力を使ってごめんなさいってな!」
叫ぶ鏡月を見て早苗の表情が変わる。
「さっきから聞いていれば偉そうな事をごちゃごちゃと。私利私欲? そんな事皆してるわ。何で私だけ言われないといけないの? それに貴方みたいな下位能力者に指図される言われはないわ」
「皆は関係ねぇ。そんなのはただの言い訳だ。俺はお前に言ってるんだ。間違っている事を相手に教えるのに下位能力者が特異能力者に言ったらダメな理由もねぇ」
両者が睨み合う。
「もしこれ以上私に命令したら貴方明日から病院で生活する事になるわよ?」
早苗が鏡月に向かって剣を抜き警告する。
「上等だ。やれるものならやってみろ最強」
「警告は確かにしたわよ」
早苗の目を見ればそれが冗談ではなく本気で言っている事がすぐに分かった。だけど鏡月はここで引くわけにはいかなかった。里美のように相手に選択を与えるならともかく一方的に自己の都合だけで戦う早苗を許すわけにはいかない。鏡月は里美をお姫様抱っこして試合会場にあるベンチに運ぼうとした時、後ろから早苗が剣を抜き鏡月に向かって走ってくる。
「敵に背を向ける等甘い!」
鏡月は里美を抱えたまま早苗の剣を躱す。
「え?」
剣が空を切った事に早苗が戸惑う。確かに鏡月の背中を捉えた剣が空を切った。本来であれば確実に鏡月を切れた。にも関わらず能力すら使わずに避けた鏡月に早苗は動揺してしまう。
「学園一位が不意打ちとはな。そこまでしてお前は上に行きたいのか?」
呆れたように言葉を投げ捨てる鏡月。
「煩い! それより今能力を使わずにどうやって私の攻撃を躱したの?」
「どうって言われても普通にお前の影が見えたから状況を察して躱しただけだけど?」
早苗が鏡月に後ろから剣で攻撃し、剣が鏡月の身体に触れる瞬間に「加速世界」が自動発動した。鏡月の思考が加速する。周りから見たら鏡月の動きがとても速くなったように見え、鏡月からは世界の時間がとても遅くなったように見える。鏡月は先程思考が加速した瞬間に早苗の剣を見て躱しただけである。
「それでお前はどうするんだ? 今ここで俺と戦うのかそれとも里美に謝るのかどっちを選ぶ?」
動揺する早苗に鏡月が里美をベンチに寝かせて近づいていく。鏡月としては、能力を使ったばかりなので戦闘開始と言う事態は回避したかったが自分の信念を守る為に強気な姿勢で早苗と向き合う事にした。
「謝る……わ。ただし貴方が私に勝てたらの話し。だから……」
本当に上手く事が運ぶと思っていなかった鏡月は歩いていた足を止めて首を傾げる。
「だから?」
「後日私と勝負して。その子が試合前に言っていた。私より警戒をしない相手がいると。それが貴方だと分かった以上私は貴方を倒さないと気が済まない」
「言いたいことがよく分からないがそれでお前が里美にしっかりと謝るなら受けてやる」
「なら詳しい事は後日連絡するわ」
早苗はそう言って鏡月と里美に背中を向けて歩き出す。鏡月はとりあえず怪我なしで奇跡的にこの場を乗り切れた事に安堵する。里美をよく見ると服が破れておらず、肌が露出した所が青くなっていた。鏡月は早苗の事を誤解していた事に気づく。あの口ぶりから今すぐにでも病院に連れていかなければ命が危ないと思っていたが、どうやら全て峰内だったみたいだ。峰打ちとは「峰で打つこと」ではなく、「普通に切りかかり相手の身体に届く寸前で刃を返すこと」であり、斬撃や打撃の威力ではなく「斬られた」と思い込ませることで意識を断つものであると言われている。つまり早苗は里美に自分が切られたと思い込ませる事で里美を無力化したことになる。
「結局あいつにも人の良心があったってことか」
鏡月は早苗が歩いて言った方を見ながら呟く。
鏡月はそのまま里美をお姫様抱っこして帰宅する。里美の意識が途中回復すれば里美の家に送っていくつもりだったがしばらく目を覚ましそうになかったので自分の家に連れて行く事にする。能力学園に通う生徒は殆どの生徒が一人暮らしである。鏡月と里美も一人暮らしで里美の意識が回復しない事には里美の家には行けなかったが鏡月としては男の部屋に意識のない女の子をこのような形であげる事に戸惑いがあった。
「はぁ……何か申し訳ない以前に早く目を覚ましてくれないかなぁ」
鏡月の心の声がポロっと口から出てくる。
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