第2話 一発触発の乙女たち

 

 二人がお辞儀をして試合開始のカウントダウンの数字が上空に大きく出現する。

 カウントが〇(ゼロ)になるまでの間、里美と対戦相手が話していた。

 その様子が空中に表示された映像と一緒に二人の会話が聞こえる。


「お前が第三位か」


「そうよ」


「手加減はしない。覚悟しろ」


「御託はいいから本気で来なさい」


「その威勢がいつまで続くかが楽しみだ」


 大柄な男が己の力を見せつけるようにハンマーをその場でぶん回しながら里美を威嚇する。しかし里美は表情一つ変えずに髪を触りながら平然と答える。その言葉には余裕があり緊張の欠片すら感じられない。初めての試合にも関わらずに何処か落ち着いている里美の姿に観覧席にいた多くの人間が注目する。


「それにしても手加減いらない……。私も舐められたものね」


 上空に出現した数字が三になった瞬間、里美が触っていた髪から手を離す。

 その瞬間雰囲気が変わる。

 今も近くの試合会場で試合をしている早苗と同じように強者だけが持つ独特な重圧を里美が放つ。


「いいわよ。少しだけ私の本気を見せてあげる」


 そして、上空に出現した数字が〇(ゼロ)になり「試合開始」と言う文字に変わる。

 同時に里美の対戦相手がハンマーを振り上げながら突撃。

 里美がそれを見て不敵に微笑む。


「攻撃が単調ね。それに遅いわね」


 言葉が言い終わると対戦相手が里美の頭を目掛けて先ほど振り上げたハンマーを力一杯に振り下ろす。がハンマーは見えない壁に当たったかのように途中で動きを止める。


「バカな!」


 対戦相手が動きを止めて驚く。


「この勝負里美の勝ちだな」


 鏡月は観覧席から笑みをこぼしそう言った。

 里美の能力は風を操る能力で目には視認が難しい空気の壁を作っていた。その結果分厚い壁に阻まれ対戦相手のハンマーが空中で止まった。この事実に何人が気づいたのだろうと鏡月が思っていると風が強くなる。そして、風が空を切る音を鳴らしながら空気摩擦によって雷を作り出す。


「降参するならもう止めるけどどうするの?」


 里美の質問に対戦相手が後ろにジャンプして一旦距離を置いて呟く。


「成程。第三位は風を操り、電気すら己の力で生み出し操ると聞いていたが、本当にそんな事をするとは……驚いた。だが……これならどうだ!!!」


 対戦相手が雄叫びをあげながらハンマーを両手で振り上げそのまま力一杯地面に振り下ろす。ハンマーが地面に衝突すると同時に試合会場の地面が揺れ地響きが里美を襲う。


「だから遅いって言ってるじゃない」


 里美は風を操り自身の身体を空中に固定し、風から発生された雷を形状変化させ槍を作り対戦相手へとそのまま放つ。放たれた槍は対戦相手の左足に突き刺さり身体を感電させる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 感電による激痛が対戦相手を襲う。里美は顔色一つ変えずに対戦相手の前まで移動して着地する。


「中級能力者にしてはよくやったと思うわ。降参する?」


「はぁ……はぁ……」


「降参しないなら今度は電圧をあげるから覚悟してね」


 里美の言葉に対戦相手が冷や汗を流す。


「わかった。降参する」


 対戦相手が降参したことにより、空中に


「勝者 野口里美」


 と大きな文字が出現する。


 すると、里美の目の前に先ほどまで近くで試合をしていた早苗がやって来る。


「貴女やり過ぎよ?」


 里美と早苗の周囲がとても重たい雰囲気になる。


「藤原早苗?」


「早苗でいいわ」


「そう」


「それより何で中級能力者相手に手加減してあげないの?」


「これでも十分にしたわよ?」


 早苗が里美と対戦した相手を見ると足を引きづりながら里美から逃げるように移動していた。


 里美は首を傾げる。


「あれを見て同じ事が言えるの?」


「えぇ。だって挑発されたから。それに言わせてもらうけど貴女だって散々人を切っておいてよく言えるわね」


「私は相手によってちゃんと力のセーブをしているわ」


 里美が鼻で笑う。


「そう。でも人を能力だけで判断してたらいつか痛い目に合うわよ」


 いきなり早苗に対して警告する里美。


「どうゆう意味かしら?」


「私は貴女の力を認めている。だけどそれ以上に対戦したら負けるかもと思う相手が下位能力者にいるって事よ」


「私より?」


「えぇ」


「面白い。なら私と今から戦いなさい。それで私の本気を見てから今と同じ事を言えるか試してみなさい」


 早苗は自分より強い相手がいるといった里美に勝負を持ちかける。里美は一瞬どうするか迷ったが、挑発されたからには逃げるわけにはいかなかった。

 里美の中の第三位としての立場がそうさせた。

 早苗の試合を見た時から勝てない事は分かっていた。それでも戦わずして逃げる事等出来なかった。今後、模試線や試合で何回も戦わなければならない相手にここで逃げたら一生勝てないと彼女の心が言った。


「わかったわ」


「野口さんには悪いけど今回は本気で行くわね」


 両者の納得により、試合開始のカウントダウンの数字が上空に大きく出現する。学年主席と第三位の勝負の合図に会場にいた一年生全員が注目する。


「あのバカ。何考えてる」


 鏡月は椅子から立ち上がる。

 そして走って試合会場に向かった。

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