第5話 夏の夜、公園にひとり2

 狐は祓った。

 彼女は無事。

 自分は、今、公園のベンチ。


「はあ」


 今更になって、現実が押し寄せてきている。なんとか、心の揺らぎを抑えた。狐がいない。街は平和で、彼女も生きている。それでいい。自分と彼女の日々を賭けた価値はあった。

 それでも、どうしても、思い出してしまう。

 抱きついてきたときの、彼女の温度。クーラーの効かせた部屋。溶けかけのアイス。もこもこのソファ。

 願っても、二度と手に入らないものばかり。


「これからは、夏の夜が、長くなるな」


 自分のひとりごとは。もはや、公園のベンチしか、聞いてない。


「あっ」


 視界の端。

 彼女。

 アイスを舐めながら、こちらに向かって歩いてくる。

 立ち上がろうとして。

 思いとどまった。

 彼女は、自分を覚えていないだろう。

 彼女から視線を外して、公園のベンチをぼうっと眺める。


「まるで、公園のベンチが俺の恋人だな」


 彼女に聞かれないように、ものすごい小声のひとりごと。

 そこに、彼女がいるのに。

 ふれ合えない。

 それだけだった。

 彼女の、のそのそした足音。

 聞こえなくなるまで、顔は上げなかった。


「はあ」


 涙は出ない。

 ただ、恋が終わっただけ。それだけ。

 切ない気分だけしか、残らなかった。

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