第4話 さよなら
「おかえり」
「ただいま」
彼女が、抱きついてくる。自分も、軽く抱きしめる。夜だから。
この、ふれ合いも。狐が取り憑き先を変えようとしている行動なのか。
「ん」
こちらの感情を理解したかのように、彼女が離れる。
「ばれちゃった」
彼女。廊下を走っていく。
リビング。
彼女のお気に入りのソファ。
「どうぞ」
祓われる気でいる。
「記憶が消える」
「なんの?」
「おまえと、俺が。一緒にいた記憶。記憶に取り憑く狐だから、そのまま引き剥がすと、記憶が消える。俺は、それでいいと思っているし、かまわないと」
「だめ」
彼女。
ソファから立ち上がって、逃げようとする。
軽く抱きしめて、引き留めた。
「だめ。忘れたくない。あなたと一緒じゃなきゃ、やだ」
彼女は、そう言うと、思った。
ぼろぼろの心で、狐を抑えつけていたから。自分の存在だけが、彼女にとって、唯一の安らぎだったから。
「すまんな」
そのまま、祓った。
「だめ。おねがい。わすれたくない。むり。あなたのことを。わたし。また逢って、あなたに。ふれ合う自信が、ないの。おねがい。待って」
彼女が、腕のなかで、縮こまって。
眠った。
「はあ」
これで彼女は、大丈夫。
自分のことなど忘れて、日常に戻る。
この部屋には、自分はもう帰ってこれない。
ソファに、眠る彼女をそっと横たえた。このソファにも、もう座ることはできない。
彼女の隣で、少しだけ長くソファに座って。
部屋を出た。
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