第3話 狐

 彼女が狐だと知ったのは、仕事で、だった。一緒に住んで、ふれ合って。お互いに、互いを敵だとは思っていなかった。


「本当に、彼女は、狐なんですか?」


『狐だ。しかも、無意識に周りに取り憑く。無害なぶん、たちがわるい』


 この街は、狐に脅かされている。

 いつの間にか現れて、取り憑き、人を不幸にしたりする、人ではない何か。たまたまそれを見つけたのが狸だったために、狐と呼ばれていた。

 この街では、人ではない人に仇なすものはすべて狐と呼ばれ、正義の味方が対処する。


「俺は彼女と暮らしていますが、狐の実害はありません。無害な狐ということも」


『順序が逆だ。わるいやつを狐と呼んでいるのだから、狐に指定された時点でわるいやつだ』


「しかし、俺には何も」


『彼女の素性を知らんようだな』


 情報。送られてくる。


「官邸の内偵調査官」


 国の利益のために、暗躍する人間。


『彼女の人としての地力が、狐を抑えているのだろう。彼女から狐が開放されれば、それこそ大変なことになる。彼女もそれを理解していて、部屋から一歩も出ていない』


 部屋から出ていないのは、嘘だった。夜中にアイスを買いに外へ。


「そうか」


 夜にアイスを買いに行く。狐を逃がすリスクを負って、外に出ていたのか。それで、彼女は。外にアイスを買いに行くわるいやつだと言っていたのか。


『やるのか。やらんのか』


「祓えばいいんですよね、俺が」


『彼女の心は、もうほとんどしんでいる。祓えば、お前との記憶も飛ぶだろうな』


「そうですか」


 安心した。

 彼女が無事なら、それでいい。


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