第17話 手の内は隠しておくもの

「では、せめてこの仙羊パニールの毛で作った人形に、タトラ殿とわたくしの髪を入れこんで……お守り代わりにお持ちください」


 なんてラクシャに言われて、うかつに魔人形を受け取ったのが、間違いのはじまりだった……。





 あのあとも、騒々しくめまくり……。寝落ちしたりで……気づいたらもう夜明け前。


 みんなを起こすと悪いから、うん、それ以外に他意はないけど、〈隠密行動コンシール・アクト〉で、こっそりニートの里に瞬間魔動テレポートした。


「ッシャァ! ヤッタ!」と、東雲しののめ薄明うすあかりに躍りでて……。


 ニートの里に入ったところで、オレの影にあり得ない違和感が……。


 いや、レーネがいる村から南東に、小国2、3個ぶんは離れてるんだ、潜影ダイブが届くわけがない、……のにレーネが影から飛びだした。


 〈夢影脱出ナイトメア・エスケープ〉? 指定した拠点ホームに一瞬で帰還するって、


「ちょっ、勝手にひとの影を拠点ホームにしないでっ!?」

「話しあう前に、ロアンが勝手に跳んだんだもん。仕方ないよ」


 ぐぅぅっ……。オレの気づかい瞬間魔動テレポートが、そんな横暴拠点ホームの口実になってしまうとはっ。


 しかもレーネは、オレの渋い顔などお構いなしで、


「そんなことより、こうして一緒にこれたから。2人でカメさんの里デートを楽しもうよっ」


ウキウキとオレに手を伸ばす。その時、


「抜け駆けはさせませんよ!」

「えっ、ラクシャさま、これどうなってるんですか?」


 ラクシャに貰った人形が、淡い光に包まれて、レーネとの間に飛びだした。そのままどんどん大きくなると、タトラと瓜二うりふたつの姿になって。


「わぁ、本当に自分の体みたいですっ」


 試すように手足を動かすタトラは、ラクシャの魔力で動く魔人形? 2人の髪を媒介に、一時的に意識を移している、だと……。


「これ、わたしが動かしていいのですか?」と言いながら、無駄にキレあるタトラの動きに、一抹の不安を覚えつつ、


「はい、わたくしが外で動くのは何かと問題がありますので」

「ならお邪魔虫は帰って。ロアンはわたしが見てるから」


 早速レーネがラクシャに絡んだ。けど、


「すみませんレーネさん。お邪魔はしませんからご一緒させて貰えませんか?」

「……別に、タトラはいいよ、ラクシャは帰って」

「わたくしの魔力で動かしているのに、戻れるわけないでしょう?」


 タトラが間に入っているから何とかなるか、な?

 それにしても……。せっかくぼっち旅行で羽を伸ばせると思ったのに、トホホ……。とガックリする間もなく、


「うるさいぞっお前たち! いま何時だと思ってるんだっ!」


 騒いでたレーネたちより甲高かんだかい、けどつややかな声の持ち主は……。

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