4.四人の女の子とひとつ屋根

第14話 高度な頭脳戦のつもりです

「まあ、そうなんですか」


 タトラがにこやかに、冷ややかな笑顔を浮かべる。


「待って、きっと誤解してるからっ」

「大丈夫です。わたしの方こそ、ロアンさまを誤解してました。これからは、住みこみでお世話させて頂きますね」

「えっ? っと、なんでそうなるの?」


 ゼッタイ誤解してるってっ。


「だって、ぼっちでないと力を失うと言いながら、今日だけで3人も女の人を連れこんで。わたしだけダメなんて納得できません」


 ぐうの音もでない正論だった。もちろん、はたからはそう見えるかもしれないけど、誤解であることに変わりはない。


 その原因、ラクシャとレーネに非難の視線を投げつけるけど、


「大丈夫です。わたくしめかけの10人や20人で目くじらを立てるほど、心が狭くありません」

「わたしも、ロアンの傍にいられるなら我慢する。ロアンも男の人、だもんね?」

「なんでオレが浮気したみたいになってるのっ? むしろオレの方が被害者ですけどっ?」


 ……………………。

 ……ですけどっ?


「ではタトラ殿の荷物は、わたくしの式神に運ばせましょう」

「ありがとうございますラクシャさま」


 スルーですか、そうですか。くそぅ、数の力で押し切るつもりだ。……やっぱり、なあなあで済ませようなんて甘かった、激甘だったよっ。


 ひさしを貸して母屋を取られる。隙を見せれば、外見だけは可愛い小悪魔たちに、ぼっちの園が蹂躙されるっ。


 おっきな胸や、まぶしい太ももに惑わされるなっ! 守るんだっ、この楽園をっ!


「ちょっと待って。オレの部屋から取ってくるものがあるから」


と部屋に逃げこむ。もちろん戦術的撤退だ。稼いだ時間で、なんとしても解決策を見つけだすっ!


「〈隠密行動コンシール・アクト〉、〈ソロ会議ミーティング〉」


 こっそり議論することしばらく。……よし、作戦が決まったっ!


 交渉ネゴシエート系のスキルを重ねがけして、キッチンに戻る。にしても〈ソロ会議ミーティング〉便利だな。もうずっと発動させとこう。


「ごめん、待たせちゃったかな。じゃあ、ちょっと恥ずかしいんだけど……」


 オレたちの幸せのためっ、


「オレはぼっちだ。愛想は悪いし、お世辞も言えない。笑いも取れなければ、集団で生きていけない自信があるっ」


 ………………。

 いや、真顔じゃなくて……そういうとこだからね?


「だから理想のタイプは、オレの欠点を補ってくれる、陽キャでコミュ力のある女性なんだっ」

「えっ? ……ああ、さすがロアンさま、ちゃんと笑いが取れましたよ」

「う、うん、面白すぎて逆に言葉がでなかった」

「はいっ、冗談がとってもお上手です」


 ははは、ありがとう。本当は、陽キャのパリピなんて苦手だけど、実はいい子な気がしてきたよ、相対的にっ。


「オレはラクシャの依頼で、しばらく村をける。その間、3人には守って欲しいんだ」

「……わかりました。何人なんぴとたりと村には入れません」

「大丈夫、アリの子一匹、見逃さないから」


「ラクシャ。チーズを運んでた式神は、荷車ごと紙人形に戻してるよね。村長たちと相談して、それを平等に配って欲しい。チーズの腹持ち具合や、調理法に保存法。注意点があれば一緒に教えてあげて」

「そっ、そんなこと、……ロアンさまだってできないでしょう?」


 できませんけど何か?

 いや、因果双報ネメシス的にね? 別段、全然、ホントに、やろうと思えばできるけどっ。


「だから欠点を補ってくれる女性が理想なんだ」

「くぬぬ……」


「レーネも、ちゃんと話して、行商人や旅人は通してあげてね」

「……狙撃して、当たれば無罪、避けたら処刑?」

「うん、それただの虐殺だから」

「ロアンの暴君……」


 どう見てもレーネの方が暴君ですけどっ?


「タトラの家、やしろには式神がいるみたいだし、ミトラとも話してどうするか決めてね。ただ、ここにくるなら、オレの苦手な気軽な生活、息抜きの仕方とかを教えてね」

「そんなっ、わたしだって、村の人や旅人さんとお話しできます」


 いや、ラクシャとレーネはお話しできないよ? だからこそ、


「でも、戦えないタトラに、村の警備はさせられないから」


 ふふふ、オレの計画に死角はないのだっ。


「ロアンさまだって、碌に旅人さんと話せないのに……」


 ………………。

 別に、話せるか話せないかで言えばペラペラですけどっ?


 と、異を唱えようとしたところで、どうやらアシュリーが起きたみたいだ。起きだしてゴソゴソしてる気配を感じる。


 出てくるかな? 出てきたら、みんなにどう言おう……?


 アシュリー・アシュナン。


 戦闘中はスキル解析などで手一杯だった〈ソロ研究所ラボラトリー〉によると……


アシュナンは属国どころか、このエウラシム大陸の胃袋を押さえる農業大国。多くの国が、その食料輸出に頼っている。


 しかも、農民一人一人が近衛騎士クラスの戦闘力を持つという意味不明な農耕民族。アシュリーも姫だけあって、非常識な戦闘力を持っていた。


 ……農業とは?


 じゃなくて。だとしたら、アシュリーは自分の意志でオレを倒しにきたことになる。……まあ、多少すれ違いはあったけど、おおむね円満解決したはず……だよね?


「急に黙りこまれて、奥にいるかたのことですか?」

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