第12話 オレは真面目にしてるのに

 レーネの潜影ダイブも。きっと、オレの影にしか潜れない。無敵の潜影ダイブなんて滅茶苦茶だからな。


 つまりは、オレへの思いの裏返し。オレに感知されないことを誇りつつ、どうしても、どこかで見つけて欲しいと思っている。発動に、オレが必要だから。


 〈ソロエブリー〉と〈ソロエニー〉は、その真逆。ぼっちを受け入れ、肯定したから。ぼっちでないと発動しない。


 もう5年くらい前だけど。何をやっても、誰とも繋がりを築けなかった。けど、それを悲しむでも、恨むのでもなく。ひとりで生きればいいだけだと、気がついた。


 誇り高く、ぼっちにんだ。


 なのに、いまさら……。

 いや、それもまた未練か……。



 だったらっ、なにを選んでも不正解だというのなら……っ!



† ラクシャ視点



 ロアンさまの魔力と気が膨れあがった。人にあるまじき、すさまじい力。


 これ以上、進ませてはいけない。というクリュナさまの神意を、汲まないわけには……いきませんわ、ね。


 もうっ! ……わたくしに、こんな恥ずかしいことまでさせるなんてっ。平身低頭、感謝するまで許しませんからね!



† ロアン視点



 魔力と精神を研ぎ澄まし、体中に張り巡らせる。焼け焦げた草のにおいも、暑い熱気も、闇の中に消えていく。


「焼き尽くすんだっ! もう一度、オレの心を、真っ黒にっ!」


 ………………くっ、集中を乱されるな。


終焉しゅうえんの始祖、永遠を末期まつごの産声、光もくらむ闇の黒炎こくえんっ!」


 …………オレは恥ずかしくないしっ。


心淵しんえんの、黒きほむらおとしめる、すすけた黒を炙りだせっ!」


 ……ょっぉ。


「純黒の、清き御霊みたまとなりて、愛しのラクシャと添い遂げるんだっ!」

「ちょっとぉ!? さっきから、ラクシャはなに言ってるのっ?」


 くっそ、スルーしきれなかった。


「ロアンさまを代弁し、場を盛りあげようかと思いまして」

「オレ、そんな恥ずかしいセリフ言わないからね?」


「大丈夫です、歴史に残る名ゼリフを考えますから」

「残さないでっ、オレの黒歴史を捏造しないでっ!?」


 せっかくマジになりかけたのに、ラクシャのおかげで気が抜けちゃったよ。


 ……まあ、冷静にみてみれば。レーネの精神はガタガタだった。いまなら潜影ダイブの気配がなんとかわかる。あとは影から追いだすだけだ。


 本当は、ぼっち精神を叩き直すつもりだったけど。ラクシャのおかげで無駄に疲れたし。もういいよ、どうせ芸人枠なら……。


唯我独存アブソリュート・ソロ


 まだ使いこなせていない、じゃじゃ馬スキルを発動する。


 オレ中心に、自分しか存在できないぼっち領域を展開する。オレ以外の全てを拒む異空間。無敵の障壁。敵を喰らえば一瞬で消滅させる不可避の矛。


 なので、レーネを取りこまないよう、細心の注意を払う。多少オレの表面を覆えずに、薄皮が剥がれてもいいやくらいの感覚で。


 効果が効果だけに、体力と魔力の消費がえげつないけど、


 ゴシシッ。


 霊体アストラル・ボディがタワシで強擦きょうさつされる感覚と共に、レーネがそばに現れた。


「……嘘っ?」


 少し長い前髪に、菫色すみれいろの瞳が震えてる。夜に咲く、花のような美しさ。相変わらずの美少女だ。


「っ!……マグレ? そうよ、ナ、〈夢影潜影ナイトメア・ダイブ〉!」


 我に返ったレーネが、潜影ダイブしようとするけど、


「きゃっ!?」


 〈唯我独存アブソリュート・ソロ〉、ぼっち領域に阻まれて、尻餅をついただけだった。短パンから伸びる脚が闇に跳ね、相変わらず見てるぶんにはエロ可愛い……。


「……性悪女から、守っただけで、もう、影にも入れてくれないの……?」


 揺れる瞳で、声を震わせるレーネに、


「〈唯我独存アブソリュート・ソロ〉は超疲れるし、潜影ダイブされるくらいなら、普通に傍にいるんじゃダメ、かな?」

「……いいの?」

「普通に! 普通にしてくれるなら、オレに飽きるまで、ね」


 本当はすぐにでも、オレよりいい相手を探して欲しいけど。変にヘソを曲げられても困るし。


「ありがとうロアン、」


 顔の曇りを嬉し涙に変えながら、オレに飛びつこうとしたレーネの顔に、真っ赤な粉が降りかかる。


「嬉ひぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!?」


 レーネが目を押さえてジタバタと悶絶している。うん、元気そうでよかった。レーネのリアクションも可愛いな。


 ま、ラクシャが仕返しを考えてるのはわかってた。カウンター系? いや反射系のスキルか? こんな時間差で発動できるなんてさすがだ。しんどいけど〈唯我独存アブソリュート・ソロ〉を解かなくてよかったよ。


「ふふふ、ロアンさまにはしたない姿を見て貰いなさい」

「い゛や、見゛ない゛でロア゛ン゛!」


 そう言われると。涙に悶えながらも、あたふたと顔を隠す様子が可愛くて、つい見ちゃうよね。


 ……じゃなくて、それを言うならラクシャも、はしたない姿を見せてくれたけど……でもなくて、


「まあ、これでお互いさまということで、もう喧嘩しないでね? 解毒魔場デトックス・スクェア

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