第8話 銀の雨

「お前は典型的な脳筋で、索敵は手下に丸投げだった。だからお前ベースで巨大化したら、あっさりオレを見失う」

「くそがぁっ、きたねえぞっ社会不適合者ヒッピーっ!」


「ふん。索敵だけじゃない。相手との間合いもそうだ。手下がお前の間合いに、敵を追いこんでいた。だからお前は、ろくに間合いを計れない」


 デカブツに肉薄し、死角を結んで体じゅうを斬っていく。とりあえず手加減してるけど、デカいぶん、悲鳴がうるさい。


 そこで、民家10軒ぶんくらい離れて、魔法矢マナアローを撃ちまくる。フットワークで間合いを保ち、やりたい放題やってると、


「くそがああああぁぁっ! 鬱陶しいっ! 村ごと吹き飛ばしてやるっっ!」


 デカブツが激昂げっこうし、大技の予備動作へと入る。うーん、反射させるか? それとも実体のない水月、つまりは武技や魔法などを斬る水月斬でかき消すか? それとも……


群狼殺法パック・ハント月狂ルナティック・メメっっっ!?」


 面倒なので腹パンして黙らせた。可愛い女の子ならともかく、咬ませの技を待つほど、オレは甘くないのだ。


 膝が崩れ、地面にうずくまるデカブツに罪状をつきつける。


「お前は3つの間違いを犯した」

「な、……に?」

「まず1つ。ラクシャはお前より強い。手をださなかったのは”下賤なやからと同じ土俵に立たない”という気位ゆえだ」


 多分、ね。


「バカ、……な」

「馬鹿はお前だよ、まったく。2つ。ラクシャと話すどころか、平気で野次やじれる自己中さ。他人ひとに話しかけるだけでも、人助けだからとか仕事だからとか、話す理由を用意する、気配りマスターのオレを見習え」

「く、そぉ……、こ、な、社会不適合者ヒッピー、に」


「3つ。その的外れな中傷だ。ぼっちは独りで全てを行う孤高の存在。仲間の恩恵に浸りきり、ぬるま湯でふやけた腑抜けに、非難されるいわれはない」

「そもそも、」


 ワンコが動けないのを見抜いたんだろう。ラクシャが傍にきて話を繋ぐ。


「全てを否定し、拒絶し、遠ざけ、滅ぼす。滅びへの焦渇しょうかつこそが魔の本質。それを忘れ、まるでひ弱な人間みたいに友達ごっこを誇るとは、魔物のプライドがないのかしら?」


 大丈夫? それだと、オレが魔物みたいになってない? なんかオレへの流れ弾が酷いんですけど???


 いやまだだ、これくらいのほころびは勢いで流しきるっ!


「そんな腑抜けがぼっちを見下し、あまつさえオレに勝負を挑むとはっ、ぼっちを無礼なめるなっ!」

「さすがはロアンさま。それでこそ永遠のぼっちエターナル・ロンリーを極めたお方」


 いやぁ、照れちゃうなぁ、ホントに。ホントに褒めてくれてるんだよね?


「俺ち、より、化物グハッ」

「よし、お前自身の愚かさに、そろそろ愛想も尽きただろう。ひと思いに浄化してやるから、安心して逝くんだぞ」


 うっかりワンコを蹴飛ばしたけど、黙って目を閉じてるよ。きっと覚悟ができたんだろう、な。


 ワンコの真上にジャンプして、天から地へと剣を振り抜く。


楽園の銀雨エデンズ・レイン


 剣閃が無数にわかれ、銀の雨が降り注ぐ。魔の罪を、洗い流すかのように……。


 オレでもなければ、狼男ウェアウルフは高位の、恐ろしい魔物。ここで見逃すわけにはいかない。もし楽園の銀雨エデンズ・レインで浄化しきれたら、なにかに転生できるだろう……。





「まさかここまでの力をお持ちだったとは。数々のご無礼お許しください、ロアンさま」


 あれ? いつの間にか名前呼びになってるし、刺々しさがなくなってる? よかったといえばよかった、のかな?


「いえ、神の使徒であるラクシャさんと、ただの人間であるオレじゃあ釣りあいが取れないし当然の……」

「いいえ! ロアンさまは人である前にぼっち! 神のごとき、こちら側の存在でした」


 せめて人間あつかいしてください後生ですからっ。


「でも、6つの教会さえなんとかすれば、ラクシャさんが好きでもないオレと結婚する必要もなくなるわけだし……」

「まあロアンさまったら。これから夫婦になるのですからラクシャ、とお呼びください」


 にこやかな物腰に、無言の圧が潜んでいる。けっきょく圧迫縁談じゃないか、一周してもピンチなままだよっ!


「いやっ、でもっ、帝国とも揉めてるし、オレがぼっちでなくなると一気に弱くなっちゃうし……」

「それならご安心ください、適切に対処致しますから」

「? どうやって?」


「ロアンさまが、軍やギルドに属しても、力を失うことはなかったはずです。名目上は仲間でも、実際には仲間外れだったから。むしろ、ますます永遠のぼっちエターナル・ロンリーに近づいていった、違いますか?」

「うぐっ……」


「なので夫婦になっても、愛がなければいいのです。夫や父として働いては貰いますけど、愛情は持ちませんのでご安心ください」

「最悪なんですけど? 鬼ですかっ? 悪魔なんですねっ!?」


「じゃあ、わたくしと仲睦まじい夫婦におなりください。大丈夫です。ロアンさまが弱くなられても、わたくしが一緒ならエルトスなぞに遅れは取りません」

「うぐぐぅっ……」


 なにこれ? 圧迫縁談どころか恐喝縁談なんですけどっ? ラクシャの暴論に、反論できず黙りこんでると……。



† ラクシャ視点



 わたくしがここまで言っているのに、……わたくしでは不満だというのですかっ!? クリュナさまの神意でなければ、わたくしだって……っ。


 ちょっと体をれれば鼻の下を伸ばして、だらしない顔をするくせにっ! 貴方を落とすなんて余裕なんですから、見ていなさいっ。


 貴方がその気になったところで……。

 ま、まあ、どうしてもというのなら考えてあげなくもないですけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る