第7話 犬も歩けばぼっちに当たる

 なんとしても、ラクシャとの結婚を有耶無耶にしなければっ! って決意を邪魔するように。ソロ斥候隊スカウト・パーティが新たな侵入者を感知する。


 村の北北東より、真っ直ぐこちらに向かっている。かなりの数と速度だ。もうすぐここにくるだろう。


 ラクシャの切れ長の眉がピクりと跳ねる。どうやら彼女も侵入者に気づいたらしい。不機嫌な空気が漏れだしている。


「知り合いか?」

「いえ、粗野な野良犬ですわ……」


 彼女の言葉通り、間を置かず現れたのは、人の3倍くらいある狼男ウェアウルフだった。


 荒れた風貌、むさい獣毛じゅうもう、いかにもみんなに嫌われてそう。だがオレはそんなことで差別したりh


「おいおい。ぼっちで引きこもりのラクシャさまが、お外にでたと思ったらなんの仮装行列だぁ?」


 ピクッ、オレとラクシャの眉が跳ねる。ハハッ、モンスターだ、正義の鉄槌をくださなくてはっ。うじゃうじゃと手下がいるのも鬱陶しいし


「一匹では、わたくしと話すこともできないのかしら?」

「わっはっは、俺はどこぞのぼっちと違って、人望があるからな。ダチが勝手についてくるのさ」


 ピクピクッ、オレとラクシャの眉が波打つ。


「わたくしは私事わたくしごとに、眷属を巻きこんだり致しませんの」


 そうそう、親しき仲にも礼儀あり、ってね。


「がはっはっはっ! 人とつるめない言いわけ探しの名人を、ぼっちって言うんだぜっ!」


 ピクピクピクッ、オレとラクシャの眉がダンスを踊る。息もぴったり、こんなに気が合うとは思わなかったな!


「おのれ、エルトスの走狗風情が言わせておけば……っ!」

「あぁん? 図星を指されて逆切れかぁ? 口じゃ正論に勝てねぇもんなぁ。ま、戦いでも俺さまには勝てねぇけどな! がはっはっはっ!」


 デカブツの嘲笑を、金魚のフンたちが盛りあげる。


 あれれぇ? このワンコたち、オレを永遠のぼっちエターナル・ロンリーと知っての狼藉なのかな?


 怒りに震えるラクシャに代わり、笑顔で親善会談を引き継いだ。


「やあ、お喋りワンコ。けだもの丸だし、申しわけ程度の二足歩行で、人間ごっこでもしてるのかな?」

「あぁん?」


 リア充気取りのワンコロが、黄ばんだ眼をいからせる。


「おいおい、テメェ、人間の軍隊を捻ったくらいでイキってんのかぁ? 俺さまたちは、あんな雑草どもとはレベルが違うぜ?」

「ははっ、残念だったな。孤高な大樹は、雑草と犬の玉袋イヌノフグリを区別しないし」


「身の程知らずがっ、どうやら死にてぇようだな」

犬の玉袋イヌノフグリ相手にか?」


 夜の狭間はざまに、黒い殺気が凝固していく。


「ラクシャ、さん」


 ”玉袋を去勢するので”と言いかけて口をつぐむ。危ない危ない、女性相手なんだからもっとお上品に言わないと、


「ペットのしつけをするので、貴賓きひんはしばらく高みの見物をしていてください」

「……わかりました。お手並みを存じあげてはおりますが、一応お気をつけください」


 式神を手元に戻し、ラクシャが離れるのを見届けて、


「よしっ、遊んでやるぞ犬っころ」

「一発でぶち殺すっ! いけ野郎どもっ! 群狼殺法パック・ハント30連撃サーティラップ!」


 怒号と共に、可愛くない30匹の狼男ウェアウルフがオレにじゃれついてくる。


交遊必罰パリピ・パニッシャー


 オレの一閃が先頭の狼男ウェアウルフを輪斬りにすると、残りの29匹も輪斬りになる。


「っ!? テメェ、なにしやがったっ!?」


 永遠のぼっちエターナル・ロンリー専用スキル・交遊必罰パリピ・パニッシャー。対象1体への攻撃が、対象の仲間へも波及する。しかも、その仲間が多いほどダメージが増えるオマケつきだ。


 因みに、”パリピ”は造語ではない。”パーティー・ピーポー”でちゃんと神代人ネイティブに通じるからテストに書いても安心だぞ。もちろん、保証はしないけども。パーリーと微妙に訛ってるけども。


「何もしないまま終わるつもりかな? 全力でこいよ」


 まぁ、数を増やすしか能がないなら逆効果なんだけど。


「ふ、ふざけるなよこの……社会不適合者ヒッピーがぁっ! 群狼殺法パック・ハント全連撃ハイパーラップ!」


 馬鹿の一声で、数百匹の狼男ウェアウルフがオレに特攻まっしぐらとは。愚図の采配ほどやるせないものはないな、全く……。


麻痺雷魔法スタン・ボルト


 オレの体からほとばしる雷撃が、狼男ウェアウルフを一網打尽に麻痺させる。


「数を増やすしか芸がないのか? ペットとしても三流らしいな」

「なっ、ナメやがってぇ……っ」


 犬歯を噛み砕かんばかりに歯軋はぎしりする犬っころ。


「後悔するなよ社会不適合者ヒッピーぃぃっっ! 群狼殺法パック・ハント渾体必勝ワァン・オン・ワン!!」


「ワン・ワン・ワン?」

渾体必勝ワァン・オン・ワンだああぁぁ!」


 どっちでもワンワン鳴き喚くのは同じじゃないか、いっそ改名したら? なんて思う間に、全ての狼男を取りこんで一匹の巨狼きょろうが現れた。全身が10倍以上に膨れ上がっている。


「さあて、どう料理してやろうか? 覚悟しろよ社会不適合者ヒッピー!」

「そうだな、まずは尻尾を貰おうか。隠密行動コンシール・アクト

「なっ!? ど、どこいきやがった?」


 あっさりオレを見失うので、死角からサクッと尻尾を斬り落とす。ね、簡単でしょ?


「ぬあああああああぁぁっっ!?」


 デカブツの絶叫が、湖を波立てる。まぁ、今の手応えからして普通に斬るだけで十分なんだけど。


「お前は典型的な脳筋で、索敵は手下に丸投げだった。だからお前ベースで巨大化したら、あっさりオレを見失う」

「くそがぁっ、きたねえぞっ社会不適合者ヒッピーっ!」

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