第3話 田舎者の御主
「ぐへへ、なら意地でも殺さずに、泣き叫ぶまで農作業させてやる」
とりあえずヤケで
「はぅっ!? そっそそそそそんな言葉で、わっわわわ私が屈するとおおお思っているの?」
たった一言でこんなに取り乱しちゃって、所詮はお姫さまか。丁重に扱われるだろうと高をくくっていたな。これはお仕置きを兼ねてもう少し脅しておこう。
「ほほぅ、じゃあ毎日泥だらけになるまで畑づくりだ」
「くぅぅっ! こっこここ高貴な私が、そそそんなことするわけ……」
「草取り、虫取り、家畜の世話。体に、土と草の臭いを染みこませてやるからな」
「ひぃゃぁっ! ひひひ姫の私がそんなこと、ゆっゆゆゆりゅされると、おおお思ってるのぉ?」
ふふふ、これで少しは反省したかな。なんか微妙に何かを間違っている気がするけど……。
……なんだ? 彼女の様子がおかしい。ハァハァと、荒い息づかいで目を見開き、一心にオレの後方を見つめている?
彼女を目の端に捉らえたままそっちを見ると、少し離れた
不意に彼女が突進し、村人の持つ
くそっ、想定外のことに反応が遅れた。慌ててあとを追うけど、村人たちはもう道に倒れている。
「殺したのか?」
「いいえ、少し眠って貰ったわ。私の正体を見られたらそれこそ殺さなくちゃいけなくなるし」
「正体……、だって?」
「そうよ、私はアシュナン国の姫アシュリー・アシュナン。華やかであかぬけた王家の姫よ!」
ああ、属国の姫だったのか。華やかであかぬけてるかはともかくとして。
おそらく人質として連れてこられ、その腕前ゆえにオレの討伐を命じられたんだろう。だから勝つまで帝都に戻ることもできない、と。
「姫として恥ずべき本当の力はずっと隠してきたのに。このまま殺されてもいいやと思ってたのにっ。貴方が卑劣な
「?? オレはそんなことしてないだろ?」
いやマジで。言いがかりは名誉毀損で訴えちゃうよ?
「……いいわ、見せてあげる。私の本当のクラスを……っ」
ゆらり、彼女の力が周囲を萎縮させていく。
「
氷が背骨をなぞるみたいに、悪寒が脊髄を駆け抜ける。さっきと同じこの感覚。彼女の、アシュリーの力が5倍くらいに跳ねあがった。
オレの
「……あのぉ、その力があれば祖国を独立させられたんじゃ?」
「国の中心たる、華やかな王家の姫がこんな田舎臭いクラスだなんて! みんなに知られたら生き恥もいいところよ! だから屈辱に耐え、こっちの皇宮でお化粧とかファッションとか一生懸命覚えたのにっ!」
「いや、君は素顔のほうがいいと思うけど……」
「またそうやってっ! 田舎者だからってバカにしてっ!」
草原に風が吹くように、草色の瞳が揺れる。いや、素顔のほうが断然可愛いと思うけどなぁ……。
「素直にクラスを明かして、祖国を守ればいいのに」
「そんな口車に乗るもんですかっ! 世界一の農耕民族と謳われたアシュナンの力、見せてあげるわ!」
ダメだ、思いこみで暴走してるよ、変なとこだけお姫さまだよ!
「
「いや君は一揆される側だよね? ねえ?」
そもそも一揆は重罪だから、最高ランクの
あれ、なんでそこまでわかるんだ?、って発動させたままのソロ
「
「あっぶねっ?」
割とマジに
「間引くのは作物だよね? 農民は
「だから隠してたんでしょ!」
そういう問題!? やっぱり結構本気にならないと攻撃を避けられない。
くそっ、なんで剣より農具持ったほうが強いんだよ!
どうしよう、全力でやれば勝てなくはないけど、彼女にも相応のダメージを与えてしまう。できれば女の子をそんな目に遭わせたくはないんだけど……。
熾烈な攻撃を避けつつ頭を捻る。これまでので会話の中にヒントがあったはずだ。確信に似た引っかかりがある。あるのに、戦闘にリソースを
「ソロ
オレをよそに、集団化されたオレたちが
なんて思う間に、賢いオレたちが打開策を導きだす。なるほど、そうか、そういうことだったのか。
ふふふ、今度こそお騒がせお姫さまにきつーいお仕置きをしてやろうじゃないか……。
彼女に悟られないよう、徐々に目的の場所へと誘導していく。そしてまんまと釣りだされた彼女に向かって、
「さてお姫さま、ここがどこだかわかるかな?」
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