胡蝶の夢①

 熱を孕んだ砂がてのひらを零れ落ちていく。それをじっと眺めていたヴァランの耳へ、届く音があった。

「ヴァラン」

 よく聞き知った声がかすかにする。振り返れば数歩離れたところに少年が立っていた。

「何してんだよ」

 いつものように近づいてくることもなく己を見つめている少年に、ヴァランはいぶかしがりながらも歩み寄っていく。応える声がないのも腹立たしく、近づいて腕をつかんでも、少年は悲しそうにヴァランを見るだけである。

「何だよ。用があったんじゃねえのか」

 問いかければ少年がそっと口を開く。けれども細い喉は言葉を発することを拒絶したように、音を紡ぐことはなかった。再び口を閉ざした彼はひどく悲しそうな目をしていて。

「おい!」

 肩を強く揺すった途端、少年の姿はざらざらと砂となって崩れ落ちた。


『――に、なれたらいいのにな』


 呟くように紡がれた微かな願いを。

 振り払ったのは、いつのことだったか。

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