第6話 裏への過程

注意:途中から視点が変わります。

出来ればしたくなかったですが、話の都合上仕方の無い事だと判断しました。

あらかじめご了承ください。


又、設定内容がかなり複雑になっています。

できるだけ理解しやすいように執筆していますが、“小説”としても不自然にならないようにしないとならない為、難解的な文章になっていることがあるかも知れません。

その為、第七話の最後にこれまで起きた事の解説を入れておきます。

そちらの方は分かりやすいように、箇条書きの様な形にしておきます。

其方の方もあらかじめご了承ください。




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槍は二つの条件によって形状が変化、チカラが変化する。

一つ、外部の物理的情報を槍自身が取り込み、最適なカタチを導き出す。

一つ、使い手が持つ“想い”をカタチとす。

その二つを持ってして、戦場を翔ける無敗の槍だった。


無敗の槍。

それは英譚術で現生に具現化するには、十分過ぎる破格の性能を有していた。

そのままの性能を模すことが出来れば、早々負けることの無い槍となっただろう。

しかし、それは叶わなかった。


“無敗の槍”を体現させるには二つの能力が絶対不可欠。

だが、英譚術に二つの能力を体現する力は無かった。

正確に言うと、例外を除く能力はいくらでも英譚術によって体現できるが、元型のない槍エクセリクシの例外である一方の能力は体現出来なかった。




槍は自身から形状を変化させる場合と、使い手に想いを受伝をされる事によって変化する場合が存在する。

前者の場合は槍自身の意思で外部の情報を取得、解析する事が出来るが、後者の場合使い手が一方的に想いを伝え、槍が求める変化とは異なる変化を強制させられる場合がある。

優先権は槍ではなく使い手にある為、槍の意思とは裏腹に別の変化をしてしまう事も可能性としてはある。


上手くいけば、槍自身の変化に使い手の想いをブーストさせる事により、強大なチカラとなる。

しかし裏目に出ると、槍の合理的な変化と使い手の身勝手で非合理的な想いとが、打ち消し合ってしまう。

故に使い手には、相応の才や想いが必要される。


才は進化させることも退化させることも出来ない。

しかし、想いは変えることが出来る。

幾度の経験から想いは、多少なりとも常に変化し続ける。

そして、長い時を槍と使い手が過ごすことにより、想いは槍の好都合な方へと磨かれていく。


故に槍として完全なチカラを発揮させるには、長い年月が必然となる。

しかし、英譚術ではそうはいかない。


英譚術で再現できるのは槍自身のチカラのみであり、長い年月を掛けて使い手と磨いてきた想いは再現できない。

それに、現生にはもう使い手はいない。


その為、再現をし、自身を穿つ英譚術士の想いを受けようとする。

そして、完璧な槍として現生し、勝利を齎そうと願う。

それ故に、槍は“理想の想い”を異常なまでに求める。


全ては勝利のために。

勝てさえすれば、他はどうでもいい。



槍side


想いなど、最初は必要なかった。

相手は自分が相手取るには、不足があったから。

だから、使い手に求めなかった。

こいつ『黒い奴ら』を殺し終わったら、使い手に訳を話し、理想に向けて親睦を深めよう、そう思っていた。

そして遂にその時はきた、と思った。


何度も形状を変化させることにより、穂先の僅かが沈み始めたのだ。

途中、何度も何度も苦戦はしたが、その程度。

そんなもの数え切れぬ程経験している、勝利の為ならば。





━━━━━━━が、其れは迂闊だった。

矛先が沈み始めた瞬間、


染マリハジメタ


過去の記憶、過去の勝利、過去の形状、過去の使い手、過去の話、過去の戦場、過去の苦戦、過去の善勝、過去の苦難、過去の英雄譚、過去の敵、過去の戦友、過去の━━、過去の━━、過去の━━、過去の━━、過去の━━、過去の━━、過去の━━、過去の━━、過去ノ━━、過去ノ━━、過去ノ━━、過去ノ━━、過去ノ━━、過去ノ━━、過去━━━、過去━━━、過去━━━、過去━━━、過去━━━、過去━━━、過去━━━、過去━━━、━━━━━━━━━━━━━


視界だけでは無い。

思考も記憶もカラダも全て、全部


染マル、染マッテユク


なんだこれは、知らない。


黒い沼に堕ちてゆく。

止めてくれ、上げてくれ、手を出してくれ。

使い手よ、その手を差し出してくれ。

この地獄から引きずり出してくれ。

このままでは戻れなくなる、勝てなくなる。

利害は一致しているはずだ。

何方も勝利を求め、奔走している。


使い手━━━━━━━━━………あぁ…名すら知らないのか、名すら知らない者に手を借りようとしているのか。

こんな事になるのなら、聞いておけばよかった。

せめて、名くらい━━━━━━


染マルノハ、止マラナイ


まだ、まだあるのか、この沼は。

こんなモノ、こんなキオク、こんなチカラなど知らない。

来るな、来るな!


━━━━━ああ、情けない。


もう、みえない


チカラがない


止まる


動かない





━━━━━━━━━━━ぅう、うぅう



なんだ?


染まっていった思考が再び明瞭になっていく。


見える。


動く。


━━━━━違う


これは違う。


我ではない。


何処だ?


今見ているものは、我ではない。

何故なら

この感覚がヒトのものなのかは分からないが、不自然な感覚だ。


しかし、それでもおかしい。

いくらヒトのカタチをしているからと言っても、何か変だ。

この感覚は気持ち悪い。


意識があるような感覚があるが、カラダは一つのように感じられる。いや、逆のようにも感じられる。

兎に角、二つあるようで一つしかない、そんな感覚だ。

そして、それらがカラダの中で不規則的に渦巻き、入れ替わる。




周りに見えるものは、清潔とは言い難い床や壁だ。

七畳ほどの部屋に居るようで、他にも机や椅子、棚などがあるが、どれも乱雑に散乱しており、埃も溜まっている。


ドンッ!!!


刹那、後方からドアを開く鈍い音が響き、ほぼ同時にそこから罵声も響く。


「おいッ!!悪魔のヴジ共、餌だ!!」


そして、大柄の男が汚らしい皿をに投げつける。

皿にのっているのは、黄土色した液状の残飯のようなものだった。

同時に強い刺激臭が、無かったはずの器官を強く刺激する。

人が食すものでは当然なく、餌ですらない。

嘔吐物と言っても褐色はない。


「…はぃ…」


しかし、自分の意志とは関係なく、返事をし、投げられて床に散らばった“餌”を掻き集め、口へ運ぶ。

当然、“餌”は酷い味と臭いで、初めて味わう強い吐き気に襲われるが、意志とは裏腹に吐き出すことは許されない。

それに床に散らばった“餌”を拾い上げ、食べているため、一緒に拾い上げた埃や塵も口へ運んでいる。

“餌”を口へ運ぶ手は止まらない。

そして口は無造作に動き、“餌”を飲み込む。

最早、嗚咽を漏らすことさえ許されなかった。

声も出さず、ただひたすらに“餌”に貪りつく、これは━━━━━━━━━━地獄だ。


「…………………………………」


最中、何かにような感覚があったが、何かは分からない。

今はこの地獄に耐える事で精一杯なのだから。


とは言え、皿にのっていた“餌”の量は差程多くなかったので、食べ終わるのにそう時間は掛からなかった。

しかし、実際の時間よりも数段長く感じられた。


その後、私が動くことはなく、立ち尽くしたまま、静止した。

無論、自分の意思でカラダを動かすことは叶わない。





どのくらい経っただろうか?


気が遠くなるほどの時間が経ち始めた頃、突如また轟音と共にドアが開いた。

今度は大柄の男だけではなく、複数人で。

そして、先のように男が罵声を上げる。


「オラァっ!!悪魔の産み親がァ!」


そう言って後方の男が、女性を私の身の前へ投げつける。


「っ!!」


その女性を目にした瞬間、ピクリとも動こうともしなかったカラダが、突如女性の方に駆け出した。

その時、私はした。

この女性は私の母親であり、この世で唯一信じることのできる存在だ。

そして、私は安堵した。


「よるんじゃないわよっ!!この…この、悪魔のガキ共がぁ、あんたらなんてアタシの子じゃあないわ!!汚らしい!」


そして、助けを乞うように縋りよろうとした矢先、期待は絶望に変化した。


拒絶するような言葉を放ち、近くに落ちてあった皿をこちらに投げるける。

投げつけた皿がに当たり、額から流血するが、痛みは感じない。

母親さえ、居れば。

唯一信じれる存在が身近に居れば、それで生きて、希望を持てる。

なのに━━━━━━━━━━


「………………………………え?」


今、目の前の母親はなんと言った?

アクマ?アタシの子ではない?汚い?

どうして?

違う、

ウソだ。

ウソだ。

ウソだ。

ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソ


そうだ、ウソだ、間違ってイる


ちがウ、と言え


訂正してクレ


お願いシマス


もう、モウ



そして、私は縋るように女性に寄る。

しかし、


「よるなぁァァ!!!!」


拒絶。

女性から放たれた言葉だとはっきりした。


ああ、どうして?

見捨てるの?

裏切るの?


「ははっ、滑稽だな。悪魔。」


すると、こちらを見ながら嘲笑う男が目に入った。

その男の身なりも清潔とは言い難く、汚い服装をしている。

先程までは男を見ても何も感じなかったが、今は奥から黒い感情が押し寄せてくる。

これは憎悪だ。


おまえか?

私の母親を変えたのは。

唯一を変えたのは。


あれ程優しかった私の母親が拒絶し、裏切った。

━━━━━━━反対だ。

手のひら返しの如く、対応が反対になった。

其れをお前が、


「「━━━━━ォマェ」」


これは私の声だ。

括られた私の声ではなく、括られる前の二人いた頃の私達。


━━━━━━━━私達は双子だった。

この世で双子は忌み子として扱われる。

産まれた頃から父親を含めた周りに拒絶されてきたが、母親だけは唯一裏切らなかった。

こちら側に居てくれたから、信じた。

でも、そんな母親一人では拒絶する全ての周りの人々から、私達を守ることは出来ない。


だから、括った。


カラダは、心は確かに二つある。

けれど、其れが母親に迷惑を掛けてしまう。


二人デ一ツ


物理的に二つあったものをそのままの状態で、一つに纏める事は出来ない。

しかし、限りなく近くにする事はできる。


同じ思考、欲を持ち、私達は私達ではなく、私だと。

そして、肉体も━━━━━━━━


「お前?お前だとぉ?悪魔のヴジ風情が人間様のことをなんて呼び方するだ!ただでさえ、近くにいるだけで反吐が出るのに、餌も与えてやっているんだぞ!!感謝しろ!様呼びしろ!!!」


私達はヴジではない、悪魔でもない、母さんに産んでもらった人間だ━━━━━━


「そうよ!アンタらなんてアタシの子じゃあなかった。悪魔がアタシの子をすり替えたのよ!!悪くない、アタシは悪くない!だから、やめて!!!!」


彼女の言っている事は無茶苦茶だが、私達を絶望に叩き落とすには十分だった。


「ァあ…………………………………………………」


助けてくれない。

もう、終わり。

私達の希望は消え失せた。


「痛い、痛い、痛い!やめてよ、殺さないで!離して!!!」


私達の前では彼女が数多の男達に蹂躙されようとしている。


「嫌!いや!イタイイタイイタイ━━━━━━」


そして、遂に彼女は男達の手によって絶命した。

目の前で動かなくなったから。


「馬鹿か、そんな言い訳で人間様が許すと思ったか?」


どうやら彼女は命の惜しさに私達を裏切ったらしい。

それに私達を産んだ、として人間扱いさえして貰えなくなったらしい。


どうしたらいい、これからどうすればいい。

希望を無くし、残るのは黒いモヤ。

進む道はない。

いや、元から道はなかった。

しかし、希望はあった。

希望が遠い向こうから来てくれた。

だが、それも裏切った。

理不尽だ。

そんなの許されない。

許してはいけない。

絶対、絶対許さない。


━━━━━━━━━━━━━━でも、

何も出来ない。

目の前の仇でさえ、どうこう出来ない。

そんなチカラなんて無い。


あぁ、終わった、終わる。

これから彼女を殺した男に私達も蹂躙されるのだろう。

━━━━人間ではないのだから。


「━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━嗚呼、テメェらは殺さねーよ。」


「━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ぇ?」


どうして?

どうして?

彼女と同じ人間では無いのに、 私達を掃除してくれないのだ。


「テメェらは別だ、俺らは手を汚したかぁねえ。」


違う。

彼奴が言ってる事は不文律だ。

彼女を殺す時、男は人間ではないからと言った。

私達も人間では無い。

それなのに殺してくれない。

違う。

彼奴は手を汚したくないから殺さない訳ではなく、私達に最後まで苦しんで欲しいから殺さない。


汚い。



「じゃあな、ヴジ共。そうだ、此処を出るんじゃねえぞ。命令だ。」


ほら、やっぱりそうだ、私達に苦しんで欲しいから、そう言ったんだ。


命令だ、か。

私達にそれを破る勇気はもうない。


そして、命令を言い残した男達は踵を返し、戻って行った。


絶望が一つ去った。

しかし、別の絶望が一歩前進して来た。

それは“死”。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

どこで区切ればいいかよく分からず、微妙な所で区切ってしまった。

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