第4話 上位種『Two imperfections』

刹那、『黒いヒビ』から『黒いモノ』が押し寄せてくる。

だが、それに干渉力はなく、俺に当たっても通り過ぎるだけだった。

空気の揺れも、音も、チカラもないと感じた。故に俺に接触することは無いと判断し、何もしなかった。


それにチカラはない。

しかし、これまで感じたことの無いほどの強い絶望を望む意志を感じる。


もどかしいのだろう。

上位種は自分の思い通りにいかなかった結果、自分自身が出る羽目となった。


黒いモノは次第に固まり、小さくなっていく。

そして、人型の『黒いモノ』が『黒いヒビ』前方に出来上がる。


「何ダ、オ前ハ。何故絶望シナイ、何故死ナナイ。一度絶望二呑マレタ筈ダ。答エロ、人間。」


『黒いモノ』に声帯器官のようなものは見受けられないが、確かに『黒いモノ』がこちらに向けて発した言葉だ。


半端者だからだ、絶望。俺が希望しか持っていなかったら、壊されたものは戻らなかっただろう。

半端者だったから、希望を捨て、絶望に呑み込まれてしまいそうになった。

が、半端者だからもう一度拾うことが出来た。」


「半端者ダト、ナンダソレハ?ソレハ━━━━━」


黒いモノが何か言いかけた時、それは起きた。

人の背丈程しかなかった『黒いヒビ』が急激に広がっていた。

黒いヒビは俺の周りにも広がっていき、洞窟全体に満遍なく広がった。途中俺の身体上に広がろうとしたが、『黒いヒビ』にはチカラを感じていたため、避けてヒビのない場所へ移った。


同時に『黒いモノ』は『黒いヒビ』に吸い込まれていった。


そして、『黒いヒビ』の隙から『黒いモノ』が姿をチラつかせ、黒い塊を数発打ち出してきた。

速度も差程速いわけではないのだが、どれ程のものか実験するためにも、先程放った光の斬撃を黒い塊と同じ様に放つ。


接触した瞬間、二つの攻撃は塵となり散っていった。

言わば、相殺と言うやつだ。



見たところ黒い塊はのチカラが加わっているようで、攻撃力も半端ではなさそうだ。


なるべく受けたくない攻撃だな。


『黒いヒビ』が攻撃を受け付けるか確認すべく、こちらも斬撃を『黒いヒビ』に向けて飛ばす。

しかし、こちらの光の斬撃は『黒いヒビ』に吸い込まれてしまい、消えてしまった。


「吸収?いや、相殺か。恐らく、これらの攻撃は此方もあちらも意味はないな。」


一見「吸収」された斬撃も実は、『黒いヒビ』の中にある高密度のチカラと相殺されている。

因みに「吸収」とは攻撃の全エネルギーを身体等に収め、自身の攻撃の糧とする【英譚術】だ。


黒い塊を放つ間も『黒いモノ』は『黒いヒビ』をレールとし、移動し続けている。

そのことから、『黒いヒビ』に見えていない裏の次元はないことが分かる。もし、『裏』があるのならば、ほぼ確定で使っている。

何故なら今の奴らに余裕を持って戦うことなど、有り得ないのだから。


「なあ、認めろよ、絶望さんよ。んだろ、分かってしまったのだろ、そうやって目の前の真実から目を逸らすのは、俺の経験上あまりおすすめしないぞ。だから、急に問うのを止めたんだろ。認めたくないから、認めてはいけないから。」


『黒いモノ』は『黒いヒビ』に呑み込まれてしまった様に見えた。

だが、それは違う。

『黒いモノ』が『黒いヒビ』に自分から吸い込まれていったのだ。

視れば分かる。


『黒いモノ』には確かに意志がある。但し、チカラはない。

『黒いヒビ』にはチカラがある。但し、意志はない。


よって、『黒いモノ』と『黒いヒビ』は単体では不完全な個体なのだ。

例えるのならば、『黒いモノ』は脳、『黒いヒビ』は身体だ。


思考や行動の判断をするのは『黒いモノ』だ。俺の問に対しての答えを認められず、それを隠すかのように自ら『黒いヒビ』と融合した。

言わば、逃げたのだ、俺に。


だから、余裕などない。

否定したいから、認めたくないから必死なのだ。


「ははっ、皮の剥けていない鏡が目の前にあるようだ。」


「━━━━━黙レ。ダマレ。ダマレ。ダマレ。

反スルナ、抵抗スルナ、絶望シロ。」


どうやら『黒いモノ』はこれまで出会うことのなかった存在に動揺し、恐怖しているようだ。


惨めだ。滑稽だ。

なんだ、俺と同じじゃないか。

それもそうか、だって親なんだもの。

似ていなければおかしい同じではない


でも、殺す



「羅装括解、巣篭すごもりノ繭」


すると、俺の付近一体に黒い繭が渦巻く。

それは外部の攻撃を遮断するものであり、俺は英譚術の詠唱をする時間を稼ぐ為に使った。



『黒い奴ら』『黒いヒビ』『黒いモノ』が黙っているはずもなく、先程の黒い塊を様々な位置から大量に穿ってくる。

だが、黒い塊はこちらの黒い渦に飲み込まれ相殺ていく。

黒い渦は一向に衰える様子もなく、大量の黒い塊を受け続ける。


『黒い奴ら』は少しの間に大量の黒い塊を放ったが、効果の無いことを判断したのか攻撃を中断した。

そして、『黒いモノ』は俺の正面にある『黒いヒビ』の一点集結し、何やら別の技を放つべく行動を始める。それは詠唱の様でもあった。

だが、俺の詠唱も先の時間でほぼ完成したため、遅くても『黒い奴ら』が次の攻撃を放つと同時には放てる筈だ。




「━━━━━━戦において無敗。

幾度の戦を越え進化。

その矛は槍となり、戦場を永遠に翔ける。

一度の敗北もなく、敗走もない。

常に先頭を走り、頂点に勲する。

その槍は幾万の敵を貫き、戦に勝利を齎した。


一度もその原型を留めることはなく、刹那の間も変わり、進化する。

故に貌はなく、誰も同じ型を見たものはいない。

担い手にさえも、毎時違う型を演じた。

しかし、それでも誰もがそれだと理解し、させられた。

万物を理解し続け、変わり続ける。

存在は一つ、在り方も一つ、それは未来永劫変わることはない。

そして、過去も未来でも勝利を齎し続けるだろう。


元型のない槍エクセリクシッ!!」


俺が今出来る最大級のチカラを誇る英譚術である。

この戦いを長期化する気は毛頭ない。

故に短期で決める。


俺が穿つ槍に原型はない。

この槍は古の時代にとある英雄が使っていたとされ、俺はそれを模している。

その槍はあらゆる情報を取り入れ、絶えず変化し続ける槍だ。


詠唱が終了すると同時に藍色をした人丈を大きくこえる槍が出現し、全身全霊の力を持って投擲する。

藍色の槍は『黒い奴ら』に引き寄せられるように飛翔していった。

出現から投擲する間も藍色の槍は変化し続けており、その貌を捉えることはできない。


しかし、『黒い奴ら』も俺が詠唱を終えると同時に準備を終えた様で、攻撃態勢に入っていた。




「━━━━━━━我ラ、一ツ。

存在ハふたツ、シカシ括リ、括ラレ、一ツトナル。

補イ、補ナワレル。

ヒトツデハ生キテイケズ、フタツデアレバ、異端。

誰モ認メズ、モラエナイ。


次第、目ノ前ハ絶望。

互イ認メ、認メラレ。

ソシテ、染マッタ。


ソレニ、染マレ。


染シ反転ゲ・ファクト


刹那、異次元事変が起きた。

洞窟内に蔓延していた『黒いヒビ』が一瞬にして人型の『黒いモノ』に吸い込まれていったのだ。

そして一瞬の間も作らず、『黒いモノ』は『黒いヒビ』を操り、『黒いヒビ』を拡張した障壁を目の前に作り出した。

その障壁は最早“ヒビ”ではなくなっており、まるで異次元への扉のようだ。

『黒いヒビ』の影響でこの時に起きた異次元事変は絶大なものとなり、大気を強く揺らした。


そこへ絶えず変化を続け、突き進む豪速の槍が引き込まれる。




━━戦場において無敗を誇り、勝利を齎し続けた元型のない槍エクセリクシ

━━謳われ、写し出された未知のチカラ。


遂に二つの意志はぶつかる。

直後、槍は『黒いヒビ』に矛先を一抹触れさせ、俄に停止した。

そしてコンマ一秒も経たずして槍は形状を変化させるが、『黒いヒビ』にダメージの様なものは見受けられない。

立て続けに槍は先と同様に形状を変化させ続けるが、結果は変わらず、微動だにしない『黒いヒビ』が佇んでいるだけだった。

しかし、それでも槍は止まる様子を見せなかった。それはまるで、諦めることのない俺を体現しているかのようだった。

そんな槍のチカラを俺は信じて見守ることしかできなかった。





“どうなことになろうと諦めない。


槍は進化し続ける。


槍は変化し続ける。


故に、永遠に齧り付き、勝るカタチを見つけ、敵を貫く。


無敗?


勝利を齎し続けた?


それはイコール最強ではない。


それはイコール無敵ではない。


もし、最強無敵ならば、変わり続ける必要などないのだから。


だから、変わる。


無限に変わる。


無限に変わってしまう。


それはイコール最強無敵にはなれないということ。


それでも目指すべきは最強無敗


そして、






ぎぅぅぅぅぅぅぅぅうぅうぅうぅ!!


槍は止まらない。

進化をし続け、目の前にある壁を乗り越えるべく、戦い続ける。

その影響か不気味な音が発生する。

何時しか槍は藍色から白銀へと変わっていた。


槍が望み、目指し、取るのは勝利だけ。


しかし、目の前にある壁はただの硬い壁ではないため、槍がその壁を乗り越えるのは難しい。

『黒いヒビ』を拡張した壁は次元外へと繋がる“扉”だ。

そして槍は次元外を乗り越えようとしている。

つまり、三次元である槍が次元の違う扉を越えようとしているのだ。

それは二次元であるモノが、三次元であるモノをぶち壊すと同義である。

難易度は想像を絶する。


だが、不可能ではない。

違う次元を越えることは不可能だ。

しかし、槍は進化変化する。

ありとあらゆる情報を吸収し、ありとあらゆる状況に対応するチカラが槍にはある。


次元を捻じ曲げ、壊せ


ぎぅうえがぅぅぅぅいぃぃごぅぅぃぃぃいい


最早、なんの音なのかも分からない。

だが、槍を見ることが出来ない程、槍は輝いていた。


槍は越える壁があることを何より歓喜していた。

勝った、また勝った。まだ無敗、だと。


遂に槍は『黒いヒビ』を拡張した壁に“ヒビ”を入れることが出来た。


パリッ


ヒビが入るのは甲高く、硝子が割れる様な音に近かった。

確かに槍は『黒いヒビ』に入っていった━━━━━
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る