第3話 矛盾に溢れて

天上が崩れ、大量の岩石が押し寄せる。

落石に耐えることは何とかできるだろう。

しかし、大きな隙は出来てしまい、ティア共に殺られてしまう。

なんとしても回避しなければならない。



━━━━避けられない


俺に押し寄せてくる岩石を回避する手段はなかった。


「ああああああああ!!」


それでも止まるという選択肢はなかった。

脚は未だある。

不可能ではない。可能性はゼロではない。


その微々たる可能性に賭けて、全力で落石が落ちてこない洞窟中央部方向へ跳ぶ。


「まにあえぇぇぇえええええ!!」


最早落下してくる岩を確認している暇はなかった。

助かることを信じ、全力で駆けてゆく。


あと少し、十数メートルで安全な場所へ辿り着くことができる。


___________________白


瞬間、安全地帯を見ていた視界が真っ白に染まる。

同時に身体中に痛みが走り、強制的に身体を押し倒され、

身体を動かすことができなくなる。


嗚呼、そうか、間に合わなかったんだ。

そして、落石に埋もれ、身動きが取れなくなってしまったのだろう。


気が付いた時にはもう遅かった。


落石で身動きが取れないだけではなく、ティア共も近づいて来ているだろう。

それに落石が体中にあたったため、脚と腕が潰れ、みぞおちには鋭利な落石が貫通している。

正直、生きて意識があるだけでも奇跡だった。落石に対する防御を一切せずに、落石を受けてしまったのだ。

しかし、そんな奇跡もこのままでは無意味に終わってしまう。


「くそぉ」


落石はどうしようもない。

問題は火薬の匂いにつられてしまったことだ。


失敗した。油断した。

いや、“油断した”というのは正しくない。

警戒は怠らなかった。寧ろ、いつも以上に警戒していた。

俺にはどうしようもない問題だった。


それに原因は違う。


それが原因であり、結果失敗への導きだ。


問題は俺にあった。

しかし、原因は上位種にあり、シナリオも上位種にあった。


嗚呼、


死が怖いというのは殆どなかった。

これでは目的が果たせなくなる。

そんなことでいっぱいだからだ。


完成されたものとして生まれ、徐々に揉まれることで半端者となっていた。

それでも、完成していた時にはなかった目的ができた。

それは野望と言っても過言ではない。

友人に聞かせれば、否定されるだろう。

それもそうだ。

俺しか理解出来ず、ものだった。

誰も理解してくれず、誰も共感してくれない。

そんなことは分かっていた。

それ故に誰にも打ち明けることはなかった。


このままこの目的は誰も達成させることもなく、考えることすらせず、無駄に終わってしまうだろう。


《それでいいのか?》


良くはない。


《では、何故だ?何故止まる》


不可能だからだ。

これ以上進むことはできない。

全て、すべて読まれていたんだ。


《諦める、というのか?未だ果たせていない目的を放棄して》


━━ああ、もう無理なんだ。

進みたい、進むことを望んではいるさ。

でも、出来ないんだ!不可能なんだ!

不可能を可能にできるほど、俺は出来た人間ではない!

だから、諦めるしか道はない。


《それは希望を否定しているのではないか?》


━━━否定?

違う。ちがう!チガウ!!

認めているんだ。

目の前で起きた事実を、これから起こる結果を。

だから、チガウ━━━


《答えになっていない。それは、言い訳にすらなっていない。

本当は否定したくないのだろう。貴様は半端者だ。故に完全に肯定できず、否定もできない。それは貴様が一番よく分かっているはずだ。

貴様の中にある矛盾を崩すのだろう?

ならば、その矛盾を崩すまで、一生生き、その矛盾を抱え続けろ。

なんのためにを抱え続けているのだ。そのままでは一つ捨てることになる。そして、それはもうひとつに呑まれることを意味する。それでもいいのか?

━━━━━━問う。止まるのか?貴様は》


━━━━━━止まりたくない!

認めたくない!

諦めたくない!

どっちかを捨てるなんて、嫌だ!

希望も絶望も俺にとっては大切な存在なんだ。


仲間と生きることで知った心地よい希望。

俺という存在を生み出してくれた絶望


希望は仲間が

絶望は親として

大事なんだ。


たとえ仲間が親を憎もうと

親が仲間を絶望に陥れようとしても


たとえ希望が、絶望が互いを忌み嫌おうとしても


どっちもあって欲しい。

無くならないで欲しい。


そして、その矛盾を肯定できる崩せるようになりたい!


《そうだ。それで良い。お前はこれからも永遠にその矛盾へ立ち向かえ

━━━━━━さぁ、行け。止まることのない道へ》


「ああああああああああああああああ!!!」


絶叫する。絶叫する。

そして、傷付いた身体から光が溢れ出し、光が落石を呑み込み、溶かす。

そして、立ち上がり叫ぶ。


「ああああああああああああああああ!!!」


絶叫する。絶叫する。絶叫する。

熱が体に帯びる。


熱い。熱い。熱い。

血肉や骨が溶けている。


「ああああああああああああ!!!あついぃぃいいいい!!!あついぞぉぉおお!!

チカラをよこせぇぇぇええええ!!」


ヤツにチカラを求むことは癪だ。

しかし、今はそんなことどうでもいい。

目的を果たす、チカラが欲しい。


━━━━━だから


「━━━━━━━━羅装括解!!!!」


その言葉を知っていた訳ではない。

でも、分かる。

使い方が、やれることが。


無秩序に広がっていた光が収束、いや、俺の身体に集まって入ってくる。

ソレはチカラだ。

俺の野望を叶える唯一のチカラだ。


身体にあった無数の傷はなくっていた。失った腕も脚も失った細胞を全て。

確かにチカラがある。

感じ取れる。


同時に今までとは比にならないほどの量のティアが、押し寄せてくる。

俺の周りはティアの浅黒い波で埋まっており、最早逃げ場などない。

しかし、今となっては逃げ場など毛頭必要もない。

チカラがあるのだから。


次の瞬間、俺の手には今までに至るまで使っていた刀ではなく、刃は白銀、柄や鍔は若干雲見がかった銀色の刀が握られていた。


「━━━━━━━羅装括解、永無秩刃。」


その言葉と共に刀を振り払うと、刃から無限に近い程の小さな光の斬撃が飛翔してゆく。

その斬撃の群は周りにいたティアの大波と接触し、ティア達を喰らい尽くす。

接触した斬撃は一つも欠けることもなく、傷つくこともなく、ティア達を血肉の塊へと変えた。


「いくらでも来い。俺は半端者な男であることに変わりはない。が、中途半端な理想を抱き、中途半端な覚悟ではもうない。雑兵などいくらかかってこようが、意味は無いぞ。出てこい、上位種。」


相変わらず俺は半端な男だと思う。

大事な存在である絶望を壊そうとし、そんな絶望を愛おしく思うことで仲間の希望を裏切る。

それでも、そんな矛盾に溢れた道の先に答えがあると、俺は信じてる。

故にもう止まるような俺はいない。

中途半端な覚悟で理想抱き、不可能だと知ったら諦める中途半端な男ではない。


道は確かにある。

進めないの答への道に矛盾があるからだ。

ならば、壊して、壊して進むしかない。

いつかその矛盾を「肯定」できる日まで。


だから、歩む、進む。

止まらない。



そして、ドーム状である洞窟の中央部まで進むと、前方数メートル先の空中に人の背丈程の『黒いヒビ』が浮かぶ。


バキ ぎぃいぃいぃぃぃいいぃぃぃぃいぃいいい


同時に不可解で不規則な音が聞こえてくる。

なんだ、これは。

何か分からないモノが来る。

しかし、これだけは分かる。

上位種だ━━━━





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

短ぇ

ギリ三千文字


羅装括解についてはまだ明確に公言はしません。

なんか強そうなチカラ、その程度の感覚で代ジョブ。







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