屋上で見かけた椅子
最近は喫煙者の扱いが厳しくなった。ビルの一階にある駐車場の入り口にあった灰皿は撤去されて、一階裏口の非常階段に喫煙場が移ったが、半年後、そこも禁煙となった。しかたなく職場のある八階の非常階段の半ばでこっそり喫煙している。
掃除されていないのか、ほこりが積もった階段の手すりの高さは胸までしかなく、乗り越えれば飛び降りることもできそうだ。
ふと下を見ると裏に建っているであろうビルの屋上が見えた。屋上にエアコンの室外機が六台ほどあるが、動いている気配がない。何故か道路工事に使う赤い三角形の物体が数個あり、錆が浮いた屋上の扉の前には朽ちかけた椅子が佇んでいる。
なんとなく椅子を見ると、白い影が腰かけて見えた。目をこすると影は消える。
タバコは短いものを選んでいて、すでに一本吸い終わっていた。
気になったので、仕事が終わった後、裏のビルの正面に行ってみた。こんなビルがあったとは知らなかった。入口は何故か開け放たれていて、ビルの中には気配がない。
不法侵入になるリスクがあったが、招かれるようにビルに入る。さびれた非常階段をあがり屋上に降り立った。
喫煙中に見た風景そのままだ。錆の匂いがする。なんとなく椅子に座り上に見上げた。軋む音が屋上に響く。
上にいた人物と視線があう。しまったとおもったが、その顔に見覚えがある。
まさしく、それは驚きの表情を浮かべた自分自身だった。
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