無機物に怒る男
近くのスーパーに自炊の材料を買い出しに行った。値上がりしている野菜に舌打ちしながらレジで会計を終え外に出る。
ふと大きな声が聞こえた。リュックを背負った六十代くらいの男が、スーパーの建物に向かって叫んでいる。
最初は近くのガードマンに怒っているのかと思ったが、ガードマンはそくささと入口の門に向かって歩き去っていった。
男はヒートアップし、わけのわからない言葉を向かって建物に向かって毒づいている。意味は聞き取れないが悪態であることはわかる。
明らかに尋常でない雰囲気だが、どうやら建物自体に怒りをぶちまけているようだ。
関わらない方がいい。手に食い込むような重さのレジ袋を提げて帰宅する。
帰宅後、自炊した夕食を平らげてしばらくした後、健康のために近くのコンビニジムに行くことにした。
無人のジムだが、月会費は安く済む。
食事と運動は身体のメンテナンスには欠かせない。
このジムは着替える必要もない。着衣のまま、エアロバイクをこいでいると、ジムの中に大声が響く。
左を向くと「おそいんじゃぁあああ」トレーナーを着た三十代くらいの男が、ランニングマシンをしたたか殴りつけ叫びまくっている。
言葉が通じたのか、ランニングマシンの速度が増した。
「早すぎるんじゃやあ」
男はランニングマシンを蹴り飛ばす。マシンの動きが止まった。
さらに意味の分からない声をけたたましく上げながら、男はランニングマシンから飛び降りた。
最近は、物体に怒りをぶちまける人間が多いようだ。春先なので変な人が増えているのかもしれない。
ジムから出る。帰るために乗ってきた自転車に歩を進めた。
自転車がこちらを見てニタニタと嫌らしい笑みを浮かべる。
「何がおかしいんじゃぁあ」
思わず自転車を私は蹴り飛ばした。
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