隣の病室に……
日頃の不摂生がたたり、入院することになった。期間は二週間ほど。たまっていた有給を消化することになってしまった。
入院前にはうんざりするくらい検査漬けで、さらに本が作れそうなくらい同意書にサインすることになった。
おもったより保険が下りたので、個室を取ることにした。個室ならPCを持ち込み副職の仕事ができるという判断だ。
相部屋は安いが、六人部屋らしく、さすがに仕事ができないだろう。
入院生活も半ばを過ぎたころ、病院をリハビリがてら歩いていると、ナースセンター近くに数枚張り紙をみつけた。違和感のある一枚が目に止まった。
『部屋に鍵をかけないようにしてください。いざというときに看護師が入れませんので』
奇妙に思い、部屋に戻って確認すると鍵穴は外側しかない。鍵も借りていないので患者が施錠はできない。
塩から親でも殺されたのか? と思うくらい塩味がしない病院食を食べていると、隣の部屋から何かを倒すような音とともに「うんこがぁあああ」という叫び声が聞こえてきた。
気になってそっと外に出て隣の病室を見ると面会謝絶という札がついている。そっと扉をひいたら、鍵がかかっているのか開かない。
首をかしげながら、自分の病室に戻った。
寝る前にのどが渇いたので、病室をでて廊下にある給茶機から緑茶を注いででふりむく。
隣の病室の扉がわずかに開いており、その隙間から髪を振り乱し、ひげもじゃの五、六十歳くらいの男が、腰をかがめながら「おしっこがぁあ」といいながら、黄色の液体が満たされた尿瓶を右手につかんで幽鬼のようにたたずんでいた。
面会謝絶は外に出れるのかと首をかしげたが、できるだけ気にしないように自室にもどった。
隣の病室からは相変わらず、せき込む声や、叫び声が聞こえたが、テレビの音でかき消すことにして、眠ることにした。
次の日、隣の部屋を見ると、面会謝絶の札は消えていて別の女性の名前が書いてあった。
あの男は何だったのか?
鍵がかかっているのにどうやって部屋を出たのか?
看護師に聞いても、隣の病室はずっと女性が入っていたという。
ただ、言い知れない雰囲気があるので、それ以上は何も聞けずにいる。
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