ぶぶぶの羽音

 寝苦しい夜。耳元に蠅か蚊の飛ぶ音がする。

 窓を開けているので、虫が入ってきたのだとおもうが、ベッドで寝がえりを打っても、変わらずぶぶぶと音がする。

 疲れがたまっているというのに完全に眠れず、夢と現を行き来している感じがする。

 明日の仕事のことを考えて、無理にでも眠るため酒でも飲もうと考えた。台所に行くと焼酎をとりだし、透明のグラスに注いでいった。アルコールの匂いが鼻につく。氷も入れず、割ることもなく飲むことにした。それくらいでないと眠れない気がしたのだ。

 さらに耳元にしつこく羽音が響いている。探しても虫の姿はない。透明のグラスの中に、ぼとぼととうごめくものが落ちた。

 見ると、白い小指ほどもあるような蛆が、グラスの中でうごめいていた。羽音がさらにうるさくなる。

 手の甲にも蛆がうごめいていた。冷たい嫌な感触が指を伝わり、グラスに落ちた。

 これを飲めば確実に眠れると考えて、口に運ぶ。


 その酒を飲み干す瞬間、目が覚めた。寝汗が肌にこびりついている。

 まだ夜中だった。

生暖かい風がまとわりつく、奇妙にのどが渇いた。


 やはり、眠るには酒を飲んだ方がいい。

 ゆっくりと台所に向かう。虫の羽音がうるさかった。

 これは夢なのか現実なのか、ふとそんなことを疑問におもった。


 

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