壁の扉
仕事でミスが重なり、どんよりした気分の日々を送っていた。朝は足取りが重く、このまま駅に飛び降りたら楽だろうかとまで追い詰められていた。
そんな矢先、日付が変わる手前くらいだろうか、終電に間に合うかわからないくらいだが、走る気力もなく引きずるような足取りで、ホームに上がる階段に近づくと、ふと駅の壁に扉を見つけた。
トイレではない。壁にそのまま取り付けたかのような扉だ。
取っ手がついていて、鍵がかかっている気配もない。高さも人ひとりが通れるくらいだろうか。
妙に気になる。数人、扉など気にもせず、階段を上がっていった。
駅員は見ていない。どこかに行きたい気分になっている。ふらつくようにドアノブを回した。きしむ音をたてて扉が開く。
扉の向こうは四畳くらいの狭い部屋で、低い天井で圧迫感がある。
さらに部屋の奥には同じ扉があった。首を傾げて、奥に入りドアノブを回す。同じく扉が開いた。
さらに同じ部屋がある。その奥にも同じ扉。何度も何度も部屋を横切り、扉を開ける。
なんどもなんども扉をくぐる。どれくらい繰り返しただろうか? 扉がない部屋についた。部屋の奥をみると、白い天井から紐が垂れていた。紐の先は輪になっている。輪の下には台が置いてある。
ふらつくように台に上り、輪を首にかけ――。
「ちょっと、あんた。何をしているんだ!」
後ろから駅員が声をかけられて、我に返った。
気が付くとホームだった。自分は最終電車の前に飛び出そうとしていたのだ。
しかし、あの白い部屋はなんだったのだろう。幻覚だったのだろうか?
もし、駅員がいなかったら、自分はこの世にいなかったのは間違いない。
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