電車の中のブザー

 残業時間にも上限がある。大体一日二時間くらいを行うと一月の上限に達してしまう計算だ。

 今日もギリギリ残業を二時間行い、帰宅することにした。疲れていて眠気との闘いでもある。

 帰宅時の電車は割とすいていたが、席は空いていなかった。

 仕方ないので、入口近くに寄りかかってうとうとしていた。

 視界が一瞬暗くなる。電車が地下を通る場所だ。

『ブーブーブーブーーーーーー』

 突然、けたたましいブザーが鳴り響いた。眠気の中列車内を見渡しても、誰も平然としている。

 電車も小刻みに揺れながら、線路を何事もなく走っているだけだ。

 車掌が来て何か伝えるかと思ったが、そんな気配もない。

『ブーブーブーブーーーーーー』

 ブザーが鳴り続けている。

 首をかしげて、いつも下車する駅で降り、なんとなく後ろを振りむいた。

 天井を見上げて、車内の真ん中で叫んでいる男の姿が窓越しに見えた。

 ブザーとおもったのはその男の叫び声のようだった。

 ふと、思い出し背筋が凍り付いた。窓越しに見た場所は、先ほど自分が立っていた場所で、そんな男はいなかったはずなのだ。

 明日はできるだけ、残業せず早く帰ろうと思う。

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