横断歩道の白線

 いつも、通勤では信号待ちが一分以上かかる国道を通る。

もはや、夕方も過ぎ夜になろうとしている時間、運悪く信号に引っかかってしまった。

 ふと視線を前に向けると、十歳くらいの男の子が信号待ちをしていた。先ほどまでいただろうか? ふとそんな違和感を覚えた。

 こちらにちいさな後ろ姿をむけており、まるで風景からにじみ出たかのような印象をうけた。

 歩行者用の信号が赤から、青に変わると、少年は器用に白線と飛び跳ねるように進んでいく。

 まるで横断歩道の白線と白線の間に穴があり、奈落に通じているかのように慎重に白線の身を渡り歩いていく。

 つい、信号を渡るのを忘れて、少年の後ろ姿を追ってしまう。

 国道の向こう側にわたり切る前に、少年はよろめき、白線を踏み外してしまった。ふっとその少年の姿が消えた。

 何かすごい違和感を感じた。いつも通っている国道の横断歩道が別の道に思えてくる。

 言いしれない恐怖を感じて、なぜか自分も白線と白線の間を踏まないように進んでいく。

 くだらないと思いながら、先の少年のことが妙に脳裏に焼き付いていた。

 赤に変わる直前くらいに向こう側の歩道にだどりつく。

 うっかりふらつき、足を踏み外した。

 白線と白線の間を踏んでしまう。

 何も起こらない。

 ばかばかしい。

 わずかに安堵した次の瞬間、けたたましいクラクションとともに車が突っ込んできて、自分を跳ね飛ばした。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る